
1社で15もの事業領域を持つ多角的経営が特徴の株式会社フジテックス。同社はラミネート専門商社としてスタートし、その後、環境事業や物流事業、ヘルスケア事業へと展開領域を広げてきた。顧客が求めるニーズを的確かつスピーディに提供する姿勢で、コロナ禍でも売上100億円を達成。2035年までに100事業の創出を目指すという同社の代表取締役社長、一森雄介氏に話を聞いた。
入社3年目の逆境で身につけた顧客第一の姿勢
ーー貴社に入社した経緯を教えてください。
一森雄介:
大学時代、地元の福岡に帰省した際に合同説明会に参加したことがきっかけです。就職活動中はこれからどの業界で自分のキャリアを築いていくか悩んでいましたが、「最終的にどの会社でも、その環境で活躍できるかは自分次第。将来は会社や社会に影響力のある人になりたい。」という漠然とした思いを持っていましたね。そのような中で弊社に出会い、商社であれば様々な業界を知ることも出来るし、まさに自分のアイデアと実力次第で無限に可能性が広がるのではないかと考えたのです。入社時は将来社長になるとは夢にも思っていませんでしたね。
ーー入社後のキャリアで転機となった出来事をお聞かせください。
一森雄介:
入社3年目に担当していた大口のお客様が他社に乗り換えてしまったことが転機でした。当時の売上目標が6000万円ほどだったのですが、他社への乗り換えによって4000万円ほどの取引を失ってしまったのです。非常に落ち込んだものの、1年で挽回しようと決意し、そのお客様が抱えている課題を徹底的に考え抜いて、訪問を繰り返しました。
その結果、取引を再開していただけただけでなく、1年後には1億円を超える取引に成長させることができたのです。この経験から、「お客様の会社の社員になったつもりで考える」という姿勢が身につきました。お客様の役に立ちたいという思いが本物であれば、それは自然と相手に伝わるものだと実感しています。
時代のニーズに応える多角的な事業展開

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。
一森雄介:
弊社は広告会社をルーツとして1986年に設立され、ラミネートの専門商社として事業をスタートしました。その後、セールスプロモーションへと事業領域を拡大し、1989年からは環境事業、2011年ごろからは物流事業、そして近年はヘルスケア事業を展開しています。現在はこれらを主軸として、計15事業を展開する総合商社へと成長しました。
そうした弊社の強みは2つあります。1つ目は、創業以来築き上げてきた顧客基盤です。毎年2万社以上の法人顧客と取引しており、このような幅広い顧客接点を持つことで、さまざまな業界のニーズをキャッチしています。そして2つ目の強みは、捉えたニーズを迅速に商品化し、マーケティングによって展開する力です。お客様の視点に立った商品開発と、効果的な市場展開のノウハウは、創業以来「お客様により良い商品を提供します」という企業理念を大事にしてきた弊社ならではの強みといえるでしょう。
ーー多くの事業を行う中で、どのようなことを重視していますか?
一森雄介:
クロスセルシナジーを最大化させることです。事業部がそれぞれ単独で動くだけではなく、互いに協力し合い、お客様に対して多角的な提案をすることを徹底しています。コロナ禍においても全社員で衛生用品の販売に取り組んできました。時代が求める商品を全社一丸となって提供した結果、それまで80億円台で足踏みしていた売上を100億円突破へと導けたのです。
このことから、部門を超えた連携の重要性を強く感じ、全事業部の商品情報を網羅したクロスセルカタログを作成して、お客様のニーズに応じて多様な提案ができる体制を整えました。カタログは年に2回更新し、法令改正や市場環境の変化にも対応しています。既存のお取引先との関係を深めることにも大きく貢献しており、ある1つの事業の商品が時代に合わなくなっても、別の事業で継続的にお役に立てる体制を維持しています。
社員の発想を原動力に広がる事業の未来
ーー貴社が目指す将来像とはどのようなものですか?
一森雄介:
弊社は「100事業構想」というビジョンを掲げています。これは2035年までに100の事業を創出するというもので、現在の15事業から大きく拡大することを目指しています。単なる数値目標ではなく、10億円規模の事業を100個生み出すことで、より多様な分野で社会に価値を提供していく事業家の集団になることを目指しています。
この構想を実現するための1つの施策として、「FJ100(エフジェーハンドレッド)」という新規事業コンテストを実施しています。初回には社内外から130件を超える応募がありました。当時、弊社の社員は130名ほどだったのですが、その中の8割近い103名が参加しており、部署の垣根を越えたチーム編成も見られました。すでに4つほどの事業が次年度のプロジェクトとして予算化されており、社員の発想を大切にしたボトムアップ型の事業創出を着実に進めています。
ーー今後の展望について教えてください。
一森雄介:
海外展開を視野に入れており、2025年度中には海外拠点の設立を計画しています。特に東南アジア地域の環境リサイクル・エネルギー領域でのニーズが高く、これから日本のみならずアジア地域でも、事業を通じて、より多くの社会課題を解決できるような展開を目指しているところです。
また、IPO(新規株式上場)も成長戦略の一環として見据えており、海外展開やM&Aを含む取り組みを通じて成長を加速させたいと考えています。これからも社会の一翼を担う企業であり続けるべく、時代とともに変化するニーズを即座に捉え、社会貢献と事業成長を両立させる挑戦を続けていく所存です。
編集後記
社員の発想を尊重するボトムアップ型の経営に感銘を受けた。社員の大半が参加したという事業コンテストからは、全社一丸となって未来を切り拓こうとする企業文化が伝わってくる。この「全員が主役」という姿勢こそが、15事業から100事業へと飛躍するための力になるのだと感じた。

一森雄介/1979年、熊本県生まれ。関西大学卒業。2003年、富士テック株式会社(現:株式会社フジテックス)へ新卒で入社。営業、マーケティング、商品開発、調達部門に従事した後、販促事業部長や管財部長などの役職を務める。2011年に執行役員、2015年に取締役へ就任。2020年に同社代表取締役社長へ就任。事業構想大学院大学事業構想修士(MPD)課程修了。