
日本初の幕の内駅弁を生み出し、姫路の駅弁文化を支えてきた、まねき食品株式会社。JR姫路駅の名物「えきそば」をはじめ、駅弁、サービスエリアの飲食店、ドライブスルー店舗など、多様な形態で食を提供している。
崎陽軒とコラボレーションした関西シウマイ弁当や、高級食材を使用した弁当の開発など、付加価値の高い商品展開にも力を入れているという。2025年大阪万博への出店も決定し、日本の伝統ある食文化を世界へと発信しようとしている同社の代表取締役社長である竹田典高氏に話をうかがった。
父、祖父の背中に憧れて継いだ家業
ーー家業を継ぐ決心をしたのはいつですか?
竹田典高:
小学生のころから、いつか家業を継ごうと思っていました。父、祖父が家業に打ち込む姿に憧れ、私もいつか父や祖父のように働きたいと思っていたのです。大学を卒業した後は、すぐに弊社には入社せず、他の企業を見て勉強するために株式会社アシックスに入社し、約2年間さまざまなことを学ばせてもらいました。「いい会社というのはこういう会社なんだな」と実感できましたし、この経験があったからこそ、目指すべき理想の会社像を明確にイメージできたように思います。
ーー貴社の事業内容を教えてください。
竹田典高:
弊社は創業130年以上の歴史を持つ、兵庫県を拠点とした食品メーカーです。日本で初めて幕の内駅弁を販売した歴史があり、JR姫路駅の名物「えきそば」でも知られています。JR姫路駅での駅弁販売やえきそば事業を中心に、関西圏に店舗を展開してきました。
その後、大阪進出を機に事業エリアを拡大し、現在では高速道路のサービスエリアへの出店や、ECサイトでの販売など、多様な販売チャネルを持っています。お弁当の製造では地元の卸業者から食材を仕入れ、地域とのつながりを大切にした事業運営を心がけています。
攻めた経営でコロナ禍を乗り越え、事業を拡大

ーーコロナ禍はどのように乗り越えたのですか?
竹田典高:
観光客が減少したことで事業は大きな打撃を受けました。しかし、ただ待っていても状況は改善しません。とにかく動こうと思い、さまざまな事業に挑戦しました。冷凍弁当の開発やサービスエリア、ドライブスルー形式の店舗の出店もそのころに始めた事業です。EC事業もコロナ禍を機に、それまで以上に力を入れるようになりましたね。
当時は、なんとかしなければという思いだけで必死に取り組んでいましたが、結果として事業の幅を大きく広げることができました。
ーーそうした状況下で、貴社が挑戦を選んだ理由は何ですか?
竹田典高:
これまでの経験上、ピンチのときこそ行動を起こす方がいいと思っています。コロナ禍は弊社だけではなく、社会全体が観光業の停滞を含む、深刻な経済的打撃を受けているタイミングでした。何もしなければ弊社の状況は変わりませんが、思いきって動いてみれば大きな成長の機会を得られる可能性もあります。大きな企業は意思決定までに時間がかかる場合もありますが、弊社はオーナー企業のため、スピード感を持って動けたことが幸いしたと思います。
食べるという行為を、人生の思い出に変えていく

ーー2025年の大阪万博に出店されるそうですね。
竹田典高:
「MANEKI FUTURE STUDIO JAPAN」という店舗を出店しております。能登の「輪島塗」と弊社の「えきそば」をかけあわせた「究極のえきそば」をはじめ、さまざまなメニューを提供しております。また、映像を使った演出で昭和の風景や文化を表現し、世界中の方と日本の温かな記憶を共有できる仕掛けも準備しています。
弊社は明治から、大正、昭和、平成、令和と、その間ずっと食に携わってきました。未来にフォーカスした万博で、これまでの歴史と思いを感じていただける場をつくりたいと考えています。
ーー仕事において大切にしていることは何ですか?
竹田典高:
私たちは駅弁を通じて、ふとした瞬間に「電車のなかで駅弁食べたな」「昔、おじいちゃんと一緒にえきそば食べたな」と頭をよぎるような、「思い出」をつくることを大切にしています。先日、熊本で「昔、姫路のえきそばを食べていました」と声をかけていただくことがあり、遠く離れた場所でそうした話を聞けるとは思っておらず、とても感動しました。
「食べる」という行為は、感情がこもることによって特別な体験になります。たとえば、お腹が空いているときの方が、よりおいしく感じますし、好きな人に料理をつくってもらうと、それだけで特別感を覚えます。そのような、「食べる」というシーンをどれだけいいものにできるかということが、弊社の事業の本質だと思っています。
ーー今後のビジョンや経営の方向性について教えてください。
竹田典高:
これまでは、幅広く事業を展開してきました。しかし、今後はその中からいくつかの事業をさらに重点的に伸ばすことが必要だと考えています。たとえば、立ち食いそばの事業であれば立ち飲みを楽しめる形式にしたり、店舗をおしゃれにしたりと、多様な展開が可能です。
これまで横に広げてきたものを、今度は縦に広げていくイメージですね。加えて、新しい事業の種をまき続けることも重要だと思っています。新しい分野に挑戦しつつ、軸足を大切にしたいと考えています。
編集後記
お腹が空いているときの一杯、旅先での思い出の一品、好きな人と囲む一皿。そんな「食のシーン」をより良いものにしたいという思いが、同社の根幹を成している。食を通じて、特別な瞬間を演出したいという竹田社長の言葉には、老舗企業の矜持と挑戦者としての覚悟が感じられた。

竹田典高/2004年慶應義塾大学法学部卒業後、株式会社アシックスに入社。総務部法務チームにて株式担当として勤務。2006年、慶應義塾大学経営管理研究科入学後、中退し、家業であるまねき食品株式会社に統括部長として入社。姫路名物まねきのえきそばの多店舗化や、大阪進出を手掛ける。2014年関西学院大学院経営戦略研究科を卒業。2019年より6代目代表取締役社長就任。