※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

ホテルニューオータニ大阪や帝国ホテル大阪など、大阪市内には有名ホテルが数多く立地している。協栄産業株式会社は、それらのホテルに産直野菜を中心にした卸売りをしている会社だ。

代表取締役社長の津田弘樹氏は、社員時代に生産者への地道な電話営業からこの事業を始め、同社を大きく成長させた実績を持つ。

この事業は単なる商売ではなく、生産者と顧客を直接つなぐ架け橋だと語る津田社長が「産直」を活かして実現したいこととは何なのか。その思いを聞いた。

父の会社で学んだ野菜の知識を活かし、新事業で協栄産業の急成長を実現

ーー津田社長の経歴をお聞かせください。

津田弘樹:
私は10代から仕事を始め、野菜を中心とした食材を取り扱う株式会社大国フーズで働いていました。同社は父が経営していた会社で、そこで3年間、野菜の卸や市場からの仕入れなどを学びました。

協栄産業に転職したのはちょうど20歳のときです。親元を出て自分の力を試してみたいと思い、ホテル向けにキノコ類の産直事業を営んでいた協栄産業に転職しました。

実際に入社すると、同社が持つ人脈に新事業展開の大きな可能性を感じました。私はこれを活かさない手はないと考え、大国フーズで学んだノウハウを活かした野菜の産直事業をスタートさせたのです。

最初は、スーパーに並んでいる野菜の生産者に直接電話をかけて取引交渉をするところから始めました。今では紹介から取引にいたることの方が多くなりましたが、この事業の基盤となったのは当時の地道な電話営業です。

こうしてしばらく同社で働いたあと、前社長だった吉田氏から会社を継いでくれないかと相談されます。吉田氏には息子がいたのですが、別の会社に勤めていたため跡取りがおらず、そこで私に打診をしたということでした。

その話については、父に会社を買い取ってもらい、私は社長を兼務するという形で落ち着きました。実質的な経営は兄と私が担い、その後、2021年に正式に社長に就任することになりました。

ーー事業を成長させるうえで、特に苦労したことは何でしょうか?

津田弘樹:
特に難しさを感じたのは、野菜の産直事業を拡大させていく過程における人材の問題です。

当時、売上の急増に対応するために急いで採用を進めたのですが、採用選考に十分な時間を割かずに対応した結果、社内で多くの問題が起こるようになってしまったのです。この出来事から、人材の選考をおろそかにすると会社の成長を妨げる場合もあることを痛感しました。

この出来事以来、人材選びはチームの一員として信頼できることを条件に進めるようにしています。今後は社員同士の連携を大切にして、将来的には社員の紹介で人材が増えていく会社になるのが理想ですね。

強みはスピーディーな産直の仕組みにあり。2,000点以上の品ぞろえで食の現場をサポート

ーー貴社の事業内容と強みを教えてください。

津田弘樹:
主な事業内容は、ホテルや飲食店をターゲットにした野菜の産直販売やフルーツの卸売りなどです。

2,000点以上のラインナップを誇る、こだわりが詰まった野菜をスピーディーに届ける産直の仕組みを持っており、その品質と利便性の高さから数多くの有名ホテルを顧客に持っています。

また、BtoCの業態として、大阪市大正区千島ガーデンモール内で「農家の実(みのり)」という直営店舗も運営しています。ここではフルーツの直売のほかに、そのフルーツをいかしたスイーツの製造販売を行っています。

BtoCの領域に挑戦したのは、農産物に込めたこだわりをより深く伝えられる場を設け、それと同時にお客様のリアルなニーズを調査したいと考えたからです。BtoBでは農産物を「届ける」ことが主な業務であり、食の現場が十分に見えてこない課題が残りがちです。そこで、私たちが現場に出られる場をつくることにしたのです。

さらに、農家の実は生産者が農作物を適正価格で販売できる場所としても活用されています。少し傷があったり形が悪かったりしても、生産者が品質に問題ないと判断すれば、きちんと利益を出せる価格で販売できますし、生産者が直接販売することで、農作物に込められたストーリーなどが反映されやすくなるという利点もあります。

日本の農業や食の世界を豊かにしていくため、人と人をつなぎ続ける

ーー今後、特に注力すべきと考えているテーマは何ですか?

津田弘樹:
まずは既存取引先のニーズを深掘りし、本当に求められるサービスを届けられる「パートナー」と呼べる存在を目指したいと思っています。

この取り組みはすでに本腰を入れて始めています。たとえば、ホテル業界の課題である料理人不足に対応するために、フルーツのカット工場と野菜第2カット工場を新設し、品物の選定や下ごしらえを込みで納品できる体制を整えました。

この事業は、仕入元の選択肢が少なく、人手不足が深刻な地方部でこそ求められると考えています。そのために物流モデルを確立して、地方の食を応援できればと思います。

また、農産物を扱う会社として資源循環型農業の実現にも取り組んでいきたいです。グループ企業に、酵素を活用した土壌改良材をつくっている大国酵素という会社があります。商品の土には食用油やペットボトル用のお茶の製造過程で出る有価有機物が使われており、その土を弊社の仕入元に届けることで、フードロスの削減や脱炭素に貢献しながら農作物の品質を改善していく仕組みができあがります。

ーーこの記事の読者に、一言メッセージをお願いします。

津田弘樹:
弊社の経営理念には、生産者とお客様をつなぎ、日本の農業や食に関わる人全体で豊かになっていくという思いがあります。

そのためには、単なる卸売業者の枠にとらわれず、生産者を環境面と流通面の両方からサポートできる存在にならねばなりません。生産者の皆様がこだわって育てた農産物が、正しく評価される仕組みをつくりたいのです。

直営店舗「農家の実」の運営や加工済み商品の納品、資源循環型農業などはその一歩にあたるものです。いずれは生産から加工・流通までをトータルサポートする、食で人や地域をつなぐ存在になれたらと強く思っています。

編集後記

協栄産業が開拓している生産者と顧客をつなぐ道には大きな可能性がある。両者のニーズを深掘りした新たなビジネスの創出、生産者や顧客のコミュニティの形成など、さまざまなイメージが湧いてくる。そして、その中心にいるのは農作物の生産に込められた思いの代弁者である津田社長だ。同社の取り組みは日本に食の思いで繋がるネットワークをつくる活動ともいえるのではないだろうか。

津田弘樹/1983年大阪府生まれ高校中退後父親の経営する会社株式会社大国フーズに入社し3年の修業期間を経て協栄産業株式会社に入社。2021年に同社代表取締役社長に就任。