
創業以来、時代の変化に合わせて石炭や石油、LPガスなど、取り扱う製品の幅を広げてきたニイミ産業株式会社。現在は石油やLPガスの供給に加え、自社設計の設備開発、医療用セラミックス部品の製造、そして、環境に配慮した産業廃棄物のリサイクル事業を展開している。「お客様の役に立つ」という価値観を軸に、技術開発で差別化を図る同社の歩みと今後について、取締役社長の新美良夫氏に話を聞いた。
研究者から経営者へ、図らずも始まった家業での歩み
ーー貴社の創業と入社の経緯について教えてください。
新美良夫:
弊社は、私の高祖父が1888年に石炭を取り扱う会社として創業し、後に石油やLPガスを扱うエネルギー企業へと発展してきました。創業から130年以上にわたり、時代の変化に合わせてエネルギー供給を続けてきた会社です。
私は次男だったこともあり、家業を継ぐつもりは全くありませんでした。化学者になるつもりで、できれば博士課程に進み大学に残りたい、と考えていたのです。しかし、私が修士課程を終えるころ、弊社は新たにセラミックス事業を立ち上げることになりました。そこにしっかり取り組む人間が必要だということで、図らずも入社することになったわけです。入社後はセラミックス事業を中心に携わり、1996年に代表取締役社長に就任しました。
ーー貴社の強みをお聞かせください。
新美良夫:
石油やLPガスなどは成分や品質が同じで、どの会社から購入しても同じ品質のものが手に入るため、差別化が難しい商品です。そこで弊社では、技術開発による差別化戦略を採用し、LPガスを工場に供給するためのタンクを自社で設計・製造したり、お客様がガスを使用するための設備の開発をしたりしてきました。
私も会長も技術者としての経験を持っており、単にエネルギーを供給するだけでなく、技術を通じてお客様に付加価値を提供できることが弊社の強みですね。たとえば、アルミ部品の製造で使われる省エネタイプの溶解炉を開発するなど、お客様の製造環境の改善やエネルギー効率の向上に貢献しています。
顧客への貢献を第一に、信頼関係を構築していく

ーー他にはどのような分野の事業を手がけていますか?
新美良夫:
現在、エネルギー事業以外にセラミックス事業とリサイクル事業を展開しています。セラミックス事業は、医療装置向けの高精度なセラミックス部品を製造しており、世界でもトップクラスの技術を持っています。医療分野は世界的に需要が伸びているため、ここ数年で事業規模が倍ほどに拡大しました。
リサイクル事業は、エンジンオイルなど潤滑油のリサイクルが中心です。車や工場から出る廃油を適切に処理し、良質なリサイクル製品を製造しています。弊社は他社よりも厳しい基準でリサイクル油を作っており、将来的には使用済みの潤滑油を再び使える潤滑油に戻す「マテリアルリサイクル」の技術開発にも取り組みたいと考えています。
ーー貴社の企業文化や大切にしている価値観について教えてください。
新美良夫:
弊社は創業以来、顧客第一の姿勢で、堅実な経営を貫いてきました。社員も同様にお客様のことを真剣に考え、日々営業活動に励んでくれています。エネルギー事業は社会インフラの一つですから、安定的であることが重要です。そうした事業の特性もあり、着実かつ丁寧に進めるという風土が根付いているのだと思っています。
社員には「押し売りをしないように」とよく言います。一時の数字を上げることだけを追求するのではなく、信用や信頼をしっかりと積み上げ、何が相手のためになるのか、どうしたら喜んでもらえるかを考え抜くことが大切なのです。高い目標を掲げて取り組みますが、ノルマは設けず、お客様への貢献を重視した営業活動を心がけています。
組織の一体感を醸成し、2030年に向けた事業展開を推進
ーー社内のコミュニケーションについて、どのような取り組みをしていますか?
新美良夫:
部署間の交流を促進するために、さまざまな行事を企画しています。夏にはビアパーティーを催し、社員が200人以上、一堂に会します。また、2年に1回の社員旅行も継続して実施しており、今年は函館へ行く予定です。普段の業務では関わることの少ない社員同士が、自然とコミュニケーションを取れる場になっており、若い社員も楽しみに参加してくれています。このように行事を通じて人間関係を豊かにすることが、会社全体の風通しの良さにつながっていると考えています。
ーー今後の展望をお聞かせください。
新美良夫:
少子高齢化による世帯数の減少、そして産業構造の変化による製造業の縮小。このような厳しい時代だからこそ、会社の規模縮小はなんとしても避けたいものです。そこで私は、2030年に向けた事業のロードマップを作成しました。
当面はエネルギーの顧客基盤拡大に注力しつつ、同時に設備のメンテナンスなどサービス提供を新たな事業の柱として育てていくつもりです。また、近年急成長している医療用セラミックス事業では、世界トップレベルの精度を誇る技術を活かし、海外市場への展開も計画しています。環境問題への対応としては、リサイクル事業の技術開発にも力を入れ、より高品質な再生品の製造に取り組んでいます。
これらの事業展開に共通するのは「技術による差別化」という弊社の強みです。以前から取り組んでいることですが、これからも「燃料を供給する企業」から「お客様に喜んでいただけるサービスを提供する企業」への転換を進め、時代が変わっても必要とされる会社を目指していきます。
編集後記
「お客様に喜んでいただけるサービスを提供する企業へ」という新美社長の言葉には、長い歴史を持つ企業の変革への覚悟が込められていた。技術開発による差別化、成長分野への積極的な進出、そして「信用や信頼を積み上げる」という姿勢。そのどれもがニイミ産業の進む道を明るく照らしている。少子高齢化という時代の荒波を乗り越える戦略に、日本企業の進むべき道の一つを見た思いがした。

新美良夫/1961年、愛知県生まれ。東京大学大学院理学部修士課程修了。1986年、ニイミ産業株式会社へ入社し、1996年に同社取締役社長へ就任。2024年に日興高熱工業株式会社社長に就任。