※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

株式会社ハッチ・ワークは、月極駐車場のオンライン管理支援サービス「アットパーキングクラウド」の運営会社だ。駐車場の空き状況の確認からオンライン契約、決済までをワンストップで提供することで、管理会社やオーナーの業務負担を減らし、利用者の便利さを追求したサービスを展開している。

月極駐車場の管理業務のデジタル化に着目したきっかけや、常に変化を楽しむ社内風土などについて、代表取締役社長の増田知平氏にうかがった。

あえて自分が興味のない道を選び不動産業界へ

ーーまず、増田社長のご経歴からお聞かせください。

増田知平:
大学卒業後はコンビニエンスストアの運営会社に就職しました。20年ほど前はまだコンビニが全国展開しておらず、現在のような銀行サービスなどもなかった時代。でも、私は「コンビニはいずれ人々の生活を支えるインフラ機能を兼ねるだろう」と予想しており、今後発展を期待できるコンビニ業界なら、日々新しい挑戦に満ちた仕事に挑戦できると考え、入社を決めました。

しかし、実際に入社してみると、同期だけでも300人以上、さらに何千人もの先輩社員がいる巨大組織。若手の裁量権はほとんどなく、自分が思い描いていたイメージとのギャップを目の当たりにしました。さらに、当時は管理職になれるのは40代以上だったので、自分の意見を通せるまでにあと20年近くもかかるのかと、先行きが不安になることもありました。

そこで、人生で一番自由が利く20代、30代のうちに挑戦の機会がある環境で働きたいと考え、転職を検討し始めました。

ーー転職先に不動産業界を選んだ理由を教えていただけますか。

増田知平:
転職先を決める際、意識していたのは「自分がさほど興味がなく、苦手な分野に挑戦すること」でした。それは、特に好きでもない得意でもない領域で力を発揮できれば、自信になると考えたからです。また、天邪鬼な性格なので、他の人が興味のないことに挑戦したいという思いもありましたね。

広告業界も候補に挙がりましたが、結果的に不動産業界に入り、オフィスビルの賃貸仲介の営業を3年ほど経験しました。

挑戦できる環境を求めてベンチャー企業へ

ーーハッチ・ワークに入社したきっかけは何ですか。

増田知平:
現在の会長である大竹と知り合ったのがきっかけです。当時、ハッチ・ワークは法人不動産賃貸のフランチャイズ事業を検討していました。私は前職の経験でフランチャイズの仕組みを知っていましたし、オフィス賃貸仲介の知見もあったので、この新規事業に興味を持ちました。

入社の大きな決め手となったのが、当時の役員陣と接する中で「この人たちと仕事をしたら面白そうだな」と感じたことです。彼らのチャレンジングな姿勢に賛同し、自分も事業の立ち上げに貢献したいという気持ちが湧きました。最終的に、事業が成功するかどうかよりも、チャレンジできる環境に魅力を感じ、ハッチ・ワークへの参画を決めました。

実際に入社してみると、会社の売上がほとんどなく、「自分が売上を上げないと会社がなくなる」と思うくらい、いつ潰れてもおかしくない状況。ただ、この発展途上の環境がかえって刺激となり、「よし、やってやるぞ!」と俄然やる気が出ました。

自身が苦労した体験から、駐車場マッチング事業に着目

ーーその後の事業沿革をお聞かせください。

増田知平:
結局、新規事業は失敗に終わり、1年ほどで撤退した後、創業時から行っていた賃貸オフィス仲介事業に加え、オフィスビルの空室活用を目的に貸会議室事業を始めます。さらに、起業家支援を目的としたレンタルオフィス事業も始めました。

そして2010年に私が企画して立ち上げたのが、現在の主力事業である駐車場事業です。最初は月極駐車場を管理しているオーナーさんや管理会社と、駐車場を借りたい方のマッチングサイト運営からスタートしました。

その後、利用者側がオンラインで駐車場予約ができ、管理者側が月額料金の決済や督促も一括で行えるようサービスを追加。また、賃料の滞納があった場合、弊社が100%立替払いをする滞納保証サービスも付与しました。

2018年には、オンライン契約機能を追加した「アットパーキングクラウド」をリリース。これによりマッチングからオンライン契約、毎月の集金、未納分の督促までをワンストップで完結できるようにしました。

現在では売上の構成比が駐車場事業が約65%、不動産事業が約35%となっています。そのため上場区分も不動産業ではなく情報通信業に分類され、駐車場に関連したITビジネスを行っている会社として認識されるようになりました。

ーーそもそもなぜ駐車場マッチング事業を始めようと思ったのですか。

増田知平:
私が引っ越しをしたとき、駐車場探しに困った実体験がもとになっています。引っ越し先で月極駐車場を探そうとネットで調べたとき、ほとんど情報が載っていませんでした。そこで、家のまわりを歩きながら月極駐車場を見て回ったところ、空きスペースを発見。しかし、看板に記載されている管理会社に問い合わせたところ、「埋まっています」とのこと。他の駐車場も空きはないと言われ、また別のところにあたるしかなく、駐車場探しは想像以上に苦労しました。

管理会社のお悩みや課題を知る目的で、自分たちもいくつか駐車場の管理をしていた経験から、月々の実入りが少ない割に手間がかかるため、管理コストをかけられない事情も理解できました。しかし、月極駐車場がなかなか見つけられない状況に困っている人は私以外にもたくさんいるはず。「月極駐車場もホテル予約のようにオンラインで完結できるようにすれば良いのでは?」と思いつき、事業化を進めることになります。

ーー事業を展開していく上で苦労したことはありますか。

増田知平:
まず、社員の理解を得るまでに時間がかかりました。サービスの立ち上げに際し、全国の月極駐車場の情報を集めるところから始めなければならないため、途方に暮れるような作業が待っていました。そのため、駐車場予約サービスがなぜ必要なのか、時間をかけて丁寧に説明しました。

また、月極駐車場の貸し出し業務をデジタル化するメリットを、不動産会社やオーナーさんに理解していただくのも大きな関門でした。「オンラインで契約できたとしても、それ以外にもたくさんの業務があるから、ラクになったとしてもほんの一部だよ」といった声が多く聞かれました。

そこで管理側の立場になって考えてみたところ、契約手続きだけでなく、集金や督促、更新・解約といったさまざまな業務が負担になっていると気づき、保証会社として弊社が集金代行や滞納保証し、契約者の対応窓口も代行することにしました。その結果、大幅に業務負担を減らすことができ、利用者の利便性向上で反響がアップすることで収益増になる点が評価され、徐々に導入企業数が伸びていきました。

貸す側・借りる側、双方にメリットのあるサービスを提供

ーー貴社のサービスのメリットや特徴についておうかがいします。

増田知平:
主なメリットは、管理会社やオーナーさんの業務効率化につながることです。従来の駐車場管理業務は、募集から問い合わせ対応、書類作成、契約、集金、督促まですべて人の手で行っていました。その点、弊社のサービスを活用していただければ、これらの作業工程をデジタルで完結できるため、サービスの質は維持しながら労働力を抑えられます。

また、SaaSビジネスとして珍しいのが、導入企業からシステム利用料をほとんどいただかないビジネスモデルであることです。弊社としては「ホテル予約のように月極駐車場が契約できる」ことを実現するためには、管理会社に導入しやすいことがとても重要です。したがって、初期費用は無料、システム利用料は管理台数に関わらず月額15,000円(税別)のプランと無料のプランのいずれかで導入していただけます。その代わり、利用者の方々に対して、賃貸住宅と同じように滞納保証をしているため、保証料として駐車場賃料の約5%をいただいております。

利用者側のメリットとしては、私たちが保証会社となることで、駐車場を借りる際、敷金がなくなり、保証人も不要になります。また、最寄りの駐車場の空き情報をオンラインで簡単に確認できるため、探す手間が省けます。

このように不動産会社やオーナーさん、利用者の双方にとってメリットがあるよう事業設計しています。

ーーその他のアピールポイントもお聞かせいただけますか。

増田知平:
私が特にこだわったのが、駐車場の空き状況をリアルタイムで把握できるようにすることです。サイトを見れば空き状況が一目でわかるようにし、管理会社に確認する手間を省けるようにしました。

また、満車の駐車場には「空き待ち予約」機能も提供。空きが出たらメールで通知され、オンラインですぐに申し込みができます。これにより管理会社やオーナーさんにとっては期間を空けずに次の契約者を獲得できるため、収益性のアップにもつながっています。

空き状況・空き待ち状況をリアルタイムに把握できることで、料金設定の参考にすることも可能になります。たとえば、空き待ちの件数が多い駐車場はそれだけ需要が高いため、月額料金を上げても利用者を確保できます。弊社サービスを活用していただければ、このようにマーケティングに必要なデータも得られ、利益の拡大につながると考えています。

今後の注力テーマはサービスのさらなる普及と収集データの活用

ーー今後の戦略について教えてください。

増田知平:
月極駐車場は日本全体で約3,000万台分ありますが、弊社のサービスを導入しているのは約40万台と、わずか1%程度に留まっています。つまり、まだ紙ベースで管理業務を行っている管理会社がほとんどなので、弊社のサービスを通じてデジタル化を進めていくことが当面の目標です。

さらに、弊社では月極駐車場の基本データと利用者情報を蓄積しているため、このデータを活用して付加価値を生み出したいと考えています。たとえば個人契約なのか法人契約なのか、ファミリー層が多いのか単身世帯が多いのか把握することでそのエリアのターゲット層を絞れます。データをうまく活用できれば、管理会社やオーナーさんがエリアごとのニーズに合わせた駐車場の運用が可能になるはずです。

弊社が運営している月極駐車場の空いている区画を短期で貸し出す「アットパーキングウィークリー」も、データを活用したサービスのひとつ。このサービスでは、近くの工事現場の専用駐車場として使っていただくなど、一時的な駐車ニーズに応えられるようにしています。1週間だけ借りたい方などに貸し出すことで、地域の利用者における利便性向上と管理会社の収益アップにつながっています。

これからも様々なサービスを開発しながら、管理会社やオーナーさんが安定的に収益を得られる仕組みづくりをサポートしていきます。

時代の変化に合わせた月極駐車場の新たな活用方法

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

増田知平:
長期スパンでの実現を目指しているのが、住宅街にある月極駐車場の一部をモビリティスペースとして活用する「ファーストワンマイルステーション構想」です。昨今では、クルマは単なる移動手段ではなく、キャンピングカーやフードトラックなど、あらゆる用途で使われるようになってきました。そこで、月極駐車場を地域住民との接点をつくる「ハブステーション」にできないかと構想を練っています。

人口減少が加速していく日本では、ドライバーの数も減り、従来の月極駐車場の貸し方だけではビジネスとして成り立たなくなることがあるかもしれません。そこで駐車場の空きスペースを活用し、地域住民が集まる場所にする案を提唱しています。

結果的に駐車場の新たな価値が生まれ、管理会社やオーナーさんに収益が還元される形を目指しています。これから実証実験を通じて、月極駐車場の新しい活用方法を提案していきたいですね。

ーー今後、どんな人材を採用したいとお考えですか。

増田知平:
「常に変化を楽しむ」という弊社の考えに共感してくれる方を求めています。弊社はコアバリューとして、「外を見よう。素晴らしいものが世界にはたくさんある。」を掲げています。これは社員たちに広い視野を持って積極的にチャレンジしてほしいという思いを込めたものです。

月極駐車場の管理のオンライン化という未開拓の領域に挑戦している弊社は、整備されていない荒れ地の状態です。だからこそ、私たちには可能性しかないと思っています。新しいことに挑戦できる環境が整っているので、社会に出て自分の可能性を試したい方はぜひ弊社に来てください。

編集後記

これまで新しいことに挑戦できる環境を求め、あえていばらの道を選んで自分に成長を課してきた増田社長。そんな彼だからこそ、これまで誰も着目していなかった月極駐車場の管理業務のオンライン化の必要性に気づくことができ、事業としても軌道に乗せることができたのだと感じた。株式会社ハッチ・ワークは月極駐車場の活用価値を広げ、新たな可能性を見出し続けていくことで、新しい未来を切り拓くだろう。

増田知平/1978年、神奈川県生まれ。2006年に株式会社ハッチ・ワークに入社。2010年から月極駐車場事業「アットパーキング」を立ち上げ、2024年3月に東証グロース市場へ上場。「ホテルを予約するように月極駐車場を契約できる」をコンセプトに、駐車場のDXを推進している。