※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

パール楽器製造株式会社は、ドラムやパーカッション、フルートなどの製造・販売を行う世界有数の楽器メーカーとして知られ、多くの有名なミュージシャンが同社の商品を愛用している。

ヨーロッパの販路拡大に貢献した実績や、企業理念「人々が音楽を楽しむ、豊かで活力のある社会づくりに貢献する」に込めた思いなどを、代表取締役社長の飯石真之氏にうかがった。

販路のさらなる拡大を目指し、ヨーロッパ進出に貢献

ーーまずは幼少期のエピソードと入社のきっかけをお聞かせください。

飯石真之:
子どもの頃は父の仕事の都合で、シンガポール、ドイツやイギリスなどで過ごしていました。音楽にはまったのは中学生の頃で、高校では友人達とロックバンドを組み、ドラムを担当していました。その後、日本に戻り、大学では経済学部に進みました。

就職活動の時期になり、就職先を選ぶときに軸としたのが、「海外との接点があること」「音楽に関わる仕事であること」「メーカー機能を持っていること」の3点です。楽器メーカーに焦点を当てて調べていくうちに弊社の存在を知り、まさに希望通りの職場だと思って入社を決めました。

ーー入社から社長就任までの経緯を教えていただけますか。

飯石真之:
入社後は海外営業部門に配属され、さまざまな地域で経験を積んだ後、オランダで子会社の立ち上げを任されました。当初は代理店を経由していたのですが、ビジネス及び消費者行動がより汎欧州化すると判断し、自分たちで小売店に直接販売することを決断。しかし、ドイツ国内だけで数百店舗ほどあった販売店の販路を一から開拓するのは容易ではなく、非常に苦労したことを覚えています。

そうした中、ヨーロッパでユーロが流通し始めたのを契機ととらえ、拠点のあるオランダを軸に営業を強化し、ヨーロッパ各国へ販売網を拡大していきました。この際、より事業基盤を強化するよう命を受け、現地会社の社長に就任し、その後本社に戻ってから取締役、常務を経て、代表に就任した次第です。

売上低迷の危機を乗り越えるため打ち出した企業方針について

ーー社長就任後の取り組みを教えてください。

飯石真之:
就任時は創立75周年の節目の年でありながら、コロナの影響で、前年度は大きな赤字となっていました。そこでまず取り組んだのが、「私たちが大切にすべきことは何か」を明文化することです。

その中で考えたミッションが「人々が音楽を楽しむ、豊かで活力のある社会づくりに貢献する」です。また、コミットメントとして「時代が求める最高の楽器を作り、お客様に適正な価格でタイムリーに提供する」を掲げ、大切にすべき価値観と行動指針の考えと併せ、就任時に社員の前でプレゼンしました。

徐々にこれらの行動指針が社内に浸透していった結果、社員が同じ方向を向いて動き、その後の業績向上にもつながりました。

ーービジネスにおいて大切にしている考えをお聞かせいただけますか。

飯石真之:
私が常に意識しているのが、「Think globally and act regionally(地球規模で考え、足元から行動せよ)」です。自分の活動エリアだけを見ていると全体が見えなくなりますし、ざっくり見ていると細かな部分に目がいかなくなります。そのため、全体を俯瞰して見ながら、各地域特性に合った方法を考えることを心がけています。

世界トップクラスの楽器メーカーであり続ける秘訣

ーー改めて貴社の事業内容と強みを教えてください。

飯石真之:
弊社はドラムをはじめとした打楽器やフルートの製造・販売を行っています。プロ向けだけでなく初心者向けの手頃な価格の楽器も取りそろえているため、幅広い方にお使いいただけます。

強みは主に3つあり、1つ目が「Heritage(歴史的遺産)」です。弊社は80年近くにわたり楽器をつくり続け、世界有数の楽器メーカーとして地位を確立してきました。

2つ目が「Quality Excellence(品質の卓越性)」です。弊社は最高の楽器を提供するため、音のクオリティやデザイン性、耐久性を追求してきました。楽器の質に徹底的にこだわってきたからこそ、多くのプロの音楽家から評価されてきたのだと思います。

3つ目が「Innovation(革新)」です。現在も楽器のつくり方を変えたり新たな商品を開発したりするなど、常に新しいことに挑戦しています。

ーー貴社の社風と求める人物像についてお聞かせいただけますか。

飯石真之:
社員に裁量権を持たせているので、比較的自由に働ける職場です。社内はフレンドリーな雰囲気で、音楽好きな人が多いので共通の話題で盛り上がっています。

求める人物像としては、やはり弊社の企業理念を共有いただける方で、今のところ、海外のビジネス、文化に興味があり英語で交渉が出来る方、楽器が好きで新しい楽器を開発してみたいという技術系の方、あるいは、デジタル推進に向けて、ITエンジニアの方などとのご縁を希望しているところです。

伝統を守りながら果敢に挑戦し、「ワンパール」チームで世界の頂点へ

ーー貴社の目標をお聞かせください。

飯石真之:
事業展開している領域で楽器ブランドとして世界No.1の地位を確立することです。そのために、マーケティングとイノベーションへの注力を軸とし、ブランディング展開のグローバル統一を進めています。

現在は市場の動向を見極めながら、新しい取り組みに着手しています。そのひとつが、さまざまな素材の特性を生かした新しいドラムやフルートの開発です。また、演奏やレコーディングの方法が変わり、電子楽器の活躍の場も増えているため、従来の技術と新しいテクノロジーを組み合わせた新商品開発や販売にも取り組んでいます。設定したテーマの下、世界各地のチームが同じ方向を向いて戦略を実行することを意識しています。

また、楽器業界でもEC販売の比率が高まる中で、今後はさらにデジタル戦略を推進する方針です。しかし一方で、楽器は実際に見て触って、使ってみて良さがわかるものだと思っています。

こうしたオンラインとオフラインのバランスは業界全体の課題であり、私たちも日々模索しているところです。

ーー最後に今後のビジョンを教えていただけますか。

飯石真之:
創立75周年を迎えた際に掲げた、「Celebrating our past, Innovating our future(過去を称え、未来を革新する)」を指針として活動していきたいと考えています。今の弊社があるのは、先人たちが積み重ねてきた歴史があるからです。今後は、過去を大切にしながらも、未来を創造していくことが重要です。

そのために、環境保護や人々のウェルビーイングなどの側面から社会貢献も視野に入れ、単なる楽器メーカーの枠を超え、さらにステップアップしていきたいと思っています。社員が誇りを持てる会社になれるよう、これからも精進していく所存です。

編集後記

世界トップブランドの地位確立を目指し、グローバル視点をベースに各地域でブランド浸透を図るため活動を続ける飯石社長。経営者として世界各地にいるスタッフを取りまとめ、同じ目標を目指して組織をけん引する姿勢が印象的だった。パール楽器製造株式会社は、社員一丸となって同じ目標に向かって進み、さらなる成長を遂げることだろう。

飯石真之/1971年新潟県生まれ。幼少期から10代後半まで海外で過ごし、帰国後に青山学院大学経済学部に入学。大学卒業後の1995年パール楽器製造株式会社に入社。海外営業に従事し、2002年に欧州子会社のパールミュージックヨーロッパ立ち上げのためにオランダへ赴任し、2006年社長に就任。2012年に帰国し、パール楽器製造株式会社の取締役、常務を経て、2021年代表取締役社長に就任。