
複数の仕事を本業に持つ、新たな働き方「複業」。株式会社Another worksは、複業をしたい人材と、複業人材を採用したい企業・自治体のマッチングを行っている会社だ。同社が手がけるサービス「複業クラウド」の累計導入社数は約2,000社、登録者数は約10万人にものぼり、今注目を集めている。
今回、代表取締役の大林尚朝氏に、同サービスの運営を始めた背景や、事業を通して実現したい未来などを聞いた。
創業初期に力を入れたのが「実績と新規性」を手に入れること
ーー今までの経験や経歴を聞かせてください。
大林尚朝:
私が人材系の事業に足を踏み入れたのは、早稲田大学法学部に在学していたときに経験した、人材会社でのインターンシップがきっかけです。
インターンシップを通して人材業の面白さに気づいたのに加えて、「どの会社も最終的には人が大切」ということを学び、卒業後はインターン先の社長の紹介でパソナグループに入社しました。
新卒で入社したパソナグループの仕事は、非常に充実していました。しかしその一方で、「人材を紹介して報酬をもらうという既存のビジネスモデルを壊し、もっと新しいビジネスモデルをつくりたい」という気持ちが徐々に高まっていました。
そこで、M&A領域の新規事業の創業メンバーとしてビズリーチに参画。同社で学んだプラットフォームビジネスの経験を活かして、2019年にAnother worksを立ち上げました。
ーー創業当初は特にどのような点に注力しましたか。
大林尚朝:
まずは、実績をつくることに力を入れました。“何を言うか”よりも“誰が言うか”が重視されるのがビジネスの世界ですし、実績のない人間の話を聞いてくれる人は少ないだろうと考えたからです。
もう1つ注力したのが、今までに誰もしてこなかったことに挑戦するなど、新規性を獲得すること。そして、この実績と新規性をつくるためにスタートしたのが、自治体向けビジネスです。
私は創業当初から「経済性と社会性のバランスは取り続けよう」と考えていました。ビジネスプランのプレゼンテーションで「自治体を相手にビジネスをする」と伝えたら、「社会性に振り切って、お金を稼ぐつもりはないんだね」と言われたことがありますが、私はそう思っていませんでした。
自治体と一緒にビジネスをしようとすると、職員さんの働き方や行政の仕組みなどさまざまなことを理解しなくてはならない。それゆえ、ビジネスが成立しづらく、大手企業も参入しづらいのが現状です。だからこそ、この部分を私たちが担うことができれば、競合のいない新しいビジネスを構築できると考え、これまで地道にやり続けてきました。
地域の人材不足を複業で解決するプロジェクトを始動

ーー事業内容を教えてください。
大林尚朝:
弊社は、複業したい人と企業や自治体がオンライン上で出会えるプラットフォーム「複業クラウド」を運営しています。企業側が理想の人材を自ら見つけて直接オファーし、複業人材が自分の意思で面接を受けるかどうかを決められるような空間をつくりたいと思い、このサービスを開発しました。
また、複業人材の需要は民間企業だけでなく自治体にもあるだろうと考え、自治体向けにも「複業クラウド」の導入を開始。始めた当初から、今までにない取り組みとして世の中に届くと思いましたし、実績をつくるのにもぴったりだと考えていました。2020年から連携を始め、すでに200を超える自治体に弊社サービスを活用していただいております。
自治体でも、正職員だけでは人手やノウハウが足りず、業務委託の人材に仕事を任せたいというケースは少なくありません。「複業クラウド」は、複業人材が地域の人手・ノウハウ不足を解決するプロジェクトとして注目を集めています。
ーーなぜ「複業」に焦点を当てたサービスを始めようと思ったのでしょうか。
大林尚朝:
学生時代の人材会社でのインターンシップを通して、「会社に貢献したいという思いさえあれば、雇用形態は関係ない」と思ったのが理由です。
私がインターンシップを経験したのは大学3年生のときでしたが、正社員の誰よりも働き、誰よりも成果をあげた自負があります。
この経験から「正社員や業務委託など雇用形態に関係なく、人は社会で活躍できる」と感じ、「複業クラウド」を立ち上げたという背景があります。
「複業」が常に手札にあり、いつでも挑戦できる世界をつくる
ーー代表として大切にしていることを教えてください。
大林尚朝:
毎月数多くの自治体へ足を運ぶのですが、それぞれの自治体の方たちから“中の人”として認められることを大切にしてきました。そして視野を広げるために、自ら体験して得た情報、つまり一次情報に触れることも大切にしています。インターネット上に出回っている情報はすでに加工されたもの(二次情報)であり、二次情報から得られるものは、一次情報と比べて非常に少ないからです。
そのため私は、できる限り現地へ足を運び、直接話を聞き、実際にその人の感情に触れ、それを自分に落とし込むことを心がけています。
ーー最後に、今後のビジョンをお願いします。
大林尚朝:
弊社が掲げているテーマ「複業を社会実装する」を実現するために、株式上場を1つの目標にしています。何をするにしても潤沢な資本があることは大前提となりますし、上場することで会社の選択肢も増えます。
そして、誰もが複業を手札として持ち、いつでもその札を切って、積極的に挑戦できる社会をつくりたいです。また、日本の平均所得はしばらく400万円台で停滞していますが、複業が当たり前の選択肢になることで、日本人の平均所得を500万円台に引き上げられればと考えています。
複業人材を求めている企業や自治体はたくさんありますし、今よりもっと稼ぎたい、自分のスキルを誰かのために活かしたい人もたくさんいます。その両者をマッチングさせ、Win-Winの関係を築けるようにすることが、弊社の使命です。
編集後記
企業や自治体の人材不足解消に貢献しているAnother works。同社の「複業クラウド」は、少子高齢化が進む日本において、これからさらに需要が高まるものだと感じた。「複業を社会実装する」をテーマに掲げる大林代表の思いが届き、より多くの人が理想の働き方を実現できる、そんな社会が訪れる日は近い。

大林尚朝/大分県出身。早稲田大学法学部卒業後、パソナグループに新卒入社。その後、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)に転職。同社での事業立ち上げ経験を経て、2019年に株式会社Another worksを創業。業界初、複業したい個人と企業や自治体をつなぐ、成功報酬無料の総合型複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を運営。著書『スキルマッチング型複業(副業)の実践書』。