※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

GAFAM(※)やユニクロといった名だたるグローバル企業の広告映像制作を手がけるクリエイティブカンパニー、株式会社トボガン。少数精鋭でありながら世界各地にネットワークを持ち、業界でも最高値と評される圧倒的なクオリティを武器に成長を続けている。同社を率いる代表取締役CEOの品川一治氏は、かつてアメリカで単身起業し、度重なる世界規模の難局を乗り越えてきた独自の経歴を持つ。本記事では、グローバル展開する経営判断の裏側や、目の前の楽しさを突き詰め、選んだ道を自らの力で正解へと変えていく品川氏の確固たる信念に迫る。

(※)GAFAM:Google・Apple・Facebook(現・Meta)・Amazon・Microsoftの頭文字をとった略語。

難局を生き抜くためのグローバル展開と現場主義の徹底

ーーこれまでの歩みと、起業に至った背景についてお聞かせください。

品川一治:
今の若い世代のように強い起業動機があったわけではありません。大学を中退後、とにかく海外で働きたいという思いがありましたが、当時は自分で会社を作る以外にその道がなかったというのが本音です。1995年、27歳の時にアメリカで起業しましたが、フリーランスの延長のような感覚でした。最初は生きるために何でもやりましたが、その当時も今もアメリカの映像業界はフリーランスが主流の世界だったこともあり、組織を大きくしようとは全く考えていませんでした。

ーー海外拠点を広げている狙いはどこにあるのでしょうか。

品川一治:
実は海外展開は「挑戦」という綺麗な言葉ではなく、生存のための「リスクヘッジ」と捉えています。私の経験上、2001年の9.11テロや2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災など、抗いようのない世の中の流れで仕事が突然白紙になる場面に何度も直面しました。特定の国や市場だけに依存するのはあまりにリスクが大きい。日本がダメでも海外で支え、逆の場合も然りという体制を整えることは、どこに転んでも会社を存続させるための安全策なのです。

ーー企業とのパートナーシップを築かれる際の秘訣は何でしょうか。

品川一治:
私たちはプロデューサーが現場と結果で信頼を築き、そこからの口コミやリピート、そして過去の実績を見て新たな仕事が舞い込む仕組みを徹底しています。営業専任の担当者を置かないのは、100社に飛び込み営業をするよりも、1社の信頼に全力で応えて3倍動くほうが、結果的には良質な仕事につながると考えているからです。広告映像は属人性が高い仕事だからこそ、本質的な実力を示し続けることが最大の営業活動になると考えています。

クライアントと共に楽しさを追求するプロデュースの本質

ーー映像制作において大切にされている価値観を教えてください。

品川一治:
私たちは「いいこと」を目指すよりも、何より「楽しいこと」を形にしたいと考えています。これは抽象的な理想論ではありません。クライアントと一緒に「これ格好いいよね」「面白いよね」とワクワクしながら探すプロセスそのものを楽しみ、そこに全てのエネルギーを注ぐのです。

今の時代、AIを使えば映像は限りなく安く、速くつくれます。しかし、これからの時代は「人間がやっていること」自体に意味がある仕事にこそ価値が出ると考えています。効率を優先してオートメーション化するのではなく、あえて手間のかかる「面倒くさいこと」をやる。言葉では説明できない「感覚的な格好よさ」を突き詰めることこそが、AIには決して真似できない私たちのスタイルです。

ーー組織内でナレッジを共有するために工夫されていることはありますか。

品川一治:
情報共有には非常にこだわっています。たとえば、プロジェクト終了ごとにフィードバックミーティングを実施し、その内容を週に一度の定例会議で全社員にシェアしています。そうすることで、一人の経験が会社の経験になり、会社の経験がまた個人の経験になっていくのです。

私はフリーランス出身なので、隣に相談できる人がいる組織の強さを知っています。全員がプロデューサーとして一人の仕事を「自分事」として捉え、情報をオープンにすることで、少数精鋭でも極めて高いパフォーマンスを発揮できる組織であり続けたいと考えています。

ーー物事を判断し、決断を下す際に意識されていることはありますか。

品川一治:
「昨日と同じ明日は来ない」という前提を常に意識しています。世の中は理不尽に変化するものであり、「想定外は想定内」であると考えているからです。

そのため、将来の不確実な計画に縛られるのではなく、今この瞬間に最善の選択をすることを重視しています。私にとって、決断を保留して待っている時間は、何かを「考えている」時間ではありません。それは単に、実行を先延ばしにして「決めていない」だけの時間なのです。結局、今動いても3年後に動いても、その選択が正解かどうかは誰にも分かりません。であれば、好転するか悪化するかも分からない未来を待つのではなく、今この瞬間に決断を下すことこそが、事態を前に進めるための最善の策なのです。

どの道が正解かなんて、やる前には誰にも分かりません。だからこそ、自分で選んだ道を、自らの手で「正解」にするしかない。誰かに言われて選べば失敗を人のせいにしますが、自分で選べば全ては自己責任となり、納得感と深い学びが得られます。社員にも、失敗そのものよりも「失敗から学ばないこと」を問題視するよう伝えています。自律した個が集まり、自分たちの決断に責任を持つことが、強いチームを作る唯一の道だと信じています。

カテゴリーに縛られず自由な環境で新たな価値を生む未来

ーー今後、貴社をどのような組織にしていきたいですか。

品川一治:
「不思議な会社だよね」と言われる存在であり続けたいです。それは、私たちが既存のカテゴリーに縛られず、常に自由でありたいと考えているからです。世の中、広告やデザイン、制作業といった枠組みに当てはめた方が説明はしやすいでしょう。しかし、そこに収まった瞬間に、発想や可能性は限定されてしまいます。たとえば「椅子をつくる会社」と定義されれば、椅子以外の相談は来なくなってしまう。本来、椅子をつくる技術があれば机もつくれるはずなのに、カテゴリーが自らの可能性を狭めてしまうのです。

私たちは、単なる映像制作会社ではありません。必要な才能を集め、形にするプロデュース集団です。だからこそ、特定の枠に収まらない「カテゴライズされない存在」でありたい。今後は、私の想像もつかないような分野に自ら踏み込んでいける、高い戦闘力を持ったプロデューサーが次々と現れ、未知の領域を切り拓いていくことを理想としています。

ーー社長ご自身の展望についてもお聞かせください。

品川一治:
管理コストを極限まで削り、デジタルやAIを賢く活用しながら、余った時間でしっかり遊ぶ。そんな自由な環境の中で、一人ひとりが高い付加価値を生み出し、会社を無闇に大きくせずとも社員の給料を上げていけるような組織を追求したいです。常に新しい変化に対応し、世界中のどこにいても必要とされるプロフェッショナル集団であり続けることが理想です。

編集後記

品川氏の言葉からは、華やかなクリエイティブの世界の裏側にある、揺るぎない現実主義と熱い情熱が同居する独特の美学が伝わってきた。世界規模の難局を幾度も経験したからこそ辿り着いた、「不測の事態すら想定内」とする生存戦略。目の前の「楽しさ」を妥協なく追求する姿勢は、変化の激しい現代を生き抜く全てのビジネスパーソンにとって重要な指針となるだろう。自らの選択を自らの力で正解へと変えていく、同社の飽くなき挑戦はこれからも続くに違いない。

品川一治/クリエイティブプロデューサー/クリエイティブディレクター。Toboggan Tokyo CEO。1993年に渡米、1995年にロサンゼルスで制作会社を設立し、米大手企業の多言語CMをはじめとする国際広告案件を多数手がける。2010年に帰国し、株式会社トボガンを設立。東京・LA・アムステルダム・シンガポールの4拠点体制で、広告、映画制作、海外PR、イベントプロデュースなど多岐にわたる事業をグローバルに展開している。