※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

家庭用・業務用ゲームソフトの開発とアミューズメント施設の運営という2つの柱を持つ株式会社メトロ。同社は自社開発と受託開発で多様な実績を積む一方、近年はスマートフォン向けコンテンツ制作も行うなど、新たな事業の創出にも注力している。変化する市場で新たな価値を生み続ける同社の取り組みについて、代表取締役社長の矢田凡成(ヤダ ツネナリ)氏に話を聞いた。

前職のメーカーで経験を積み、より大きな裁量権を求めて新天地へ

ーーどのような学生時代を経て、ゲーム業界に入ったのでしょうか?

矢田凡成:
私は「絵が好き」という純粋な思いから、美術大学に入学しました。大分県の山間部で育った私の周りには、美術大学を目指す人はほとんどいませんでしたね。しかし、高校2年生のとき、専門的な知識を持つ美術の先生に出会ったことをきっかけに、その方の指導のもとで受験の準備を始めたのです。就職のことは考えず、絵を描くことだけを目的に進学しました。

就職活動の際は「絵を描く仕事ができればいいな」という気持ちで、コナミ株式会社(現:コナミグループ株式会社)に入社しました。入社してからは、ドット絵を描く仕事を担当しましたが、当時のコナミは企画と絵を描く仕事が明確に分かれていなかったため、企画も担当しました。

ーー貴社に入社した経緯をお聞かせください。

矢田凡成:
コナミで5年ほど働く中で、「もっと新しいことに挑戦したい」と感じるようになりました。そうして他社への転職を考える中で、コナミの元先輩であり、当時の弊社の社長と会う機会があり、東京で開発事業本部を立ち上げてみないかという話をいただきました。「やりたいようにやればいい」という言葉をかけてもらい、裁量権のある環境に魅力を感じ、1996年に入社を決意したのです。

東京開発事業本部の立ち上げメンバーとして、少しの間でしたが入社前に営業活動を開始し、仕事を取ってから入社するという形でしたね。企画を提案し、それが通ったり通らなかったりする経験を通じて、徐々に世界が広がっていく実感がありました。これまで関わることのなかったさまざまな仕事に挑戦できる自由度が、私にとって大きな魅力でした。

ゲーム開発から施設運営まで、エンターテインメントを多角的に提供

ーー貴社の事業内容について教えてください。

矢田凡成:
弊社の主力事業はゲームソフトの開発です。現在は、家庭用ゲームソフトや業務用ゲームを中心に開発していますが、過去にはPCゲームも手がけてきました。自社製品の開発と受託開発の両方を行っており、クライアントの要望を汲み取りながらも積極的に提案するスタイルが弊社の特徴です。

また、全国で25か所のゲームコーナーと4店舗のゲームセンターを運営しているため、ハードとソフト両面のノウハウを持っていることが強みとなっています。

コロナ禍では、厳しい状況下においてもこの強みを活かし、オンラインクレーンゲームという新たな分野に挑戦をしました。プレイヤーがオンラインでクレーンゲームをプレイし、獲得した景品が自宅に直送されるという仕組みです。

当初は弊社のみで運営していましたが、後に他企業との協業モデルへと発展させました。たとえば、フードデリバリーサービスを運営している企業と提携し、サービスの一環としてオンラインクレーンゲームを展開しています。目まぐるしく変化する市場環境へ適応するために、弊社のノウハウが役立っていると感じています。

ーー事業を進めるうえで、どのようなことを大切にしていますか?

矢田凡成:
私が大切にしているのは「コンテンツ力」です。近年はAIやVRなど技術的な側面が注目されがちですが、私は世界観や操作性などの「人間の感覚に訴える部分」こそがゲームの本質だと思うのです。全体のうち9割はコンテンツの質で、技術は残り1割程度と捉えています。

この考え方を形にしていくためには、社内の一体感が不可欠だと考えています。その一環として弊社のロゴを刷新する際にも、限られたメンバーで決めるのではなく社内公募としました。結果、デザイナーだけでなく、プログラマーや事務職といったあらゆる職層から88案もの応募がありました。

単なるデザインの変更ではなく、社員にとって「どんな会社でありたいか」を考える良い機会になったのだと思います。応募案には、一人一人の思いが込められており、全員でその思いに触れることによって社内の結束力が高まったように思いますね。

培ってきたノウハウを活かし、ゲーム業界の枠を超えた価値創造を目指す

ーー今後の展望についてお聞かせください。

矢田凡成:
心に残り、長く遊ばれるゲーム開発はこれからも根本に進めてまいりますが、
海外展開を積極的に進めていきたいと考えています。すでに韓国に子会社がありますが、今後は店舗も展開していければと思います。

また、今までゲーム開発で培ってきた「分かりやすさ」や「使いやすさ」といった部分のノウハウを活かし、異業種への展開も図りたいですね。ゲームは直感的な操作性が求められる分野であり、特に子ども向けのコンテンツでは瞬時に理解できるデザインであることが重要です。

こうしたノウハウは、公共サービスを始めとしたさまざまな領域で応用できるでしょう。「どう伝えるか」「どう感じてもらうか」という視点を大切にしながら、ゲーム業界の枠を超えて社会に貢献していきたいと思います。

編集後記

絵が好きという純粋な情熱から始まり、美術大学からゲーム開発、そして経営者へと歩んできた矢田社長。企画や営業、マネジメントと幅広い経験を積んできたからこそ語れる「コンテンツ力」の重要性には確かな説得力がある。技術一辺倒ではない、人間の感性に訴えかけるものづくりの哲学には、クリエイターとしての原点が息づいていた。

矢田凡成/1967年、大分県生まれ。武蔵野美術大学卒業。大学卒業後、コナミ株式会社(現:コナミグループ株式会社)に入社し、5年間ゲーム開発の仕事に従事。1996年、株式会社メトロに入社し、東京に開発事業本部を立ち上げる。2013年韓国ソウル市に子会社を設立。2024年、株式会社メトロの代表取締役社長に就任。