※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

福祉車両の販売専門店を手がける、株式会社ミズタニ。同社はもともと福祉に限らず多様な車をそろえる会社として知られていたが、2020年に福祉車両特化の会社として方針転換し、新たなスタートを切った。

このような思い切った決断に至った背景とは何だったのか。代表取締役の水谷匡氏に、詳しい話を聞いた。

高齢化の時代の流れをとらえ、福祉車両専門店へ会社を一新

ーー今までの経歴を教えてください。

水谷匡:
弊社は祖父が創業した会社で、父が2代目でした。子どもの頃から、いつか私が家業を継ぐのだろうとは考えていたのですが、大学生になって間もなくして、父が不慮の事故で車椅子生活になってしまいました。

大学を中退して、すぐに会社に入ることも考えましたが、父から「すぐに入らなくていい。大学を卒業して、どこの会社でもいいから営業職を経験してほしい」と言われました。そこで、大学卒業後は、車が好きだったこともあり、シートの製造・販売を手がけるドイツカーシートメーカーの日本正規輸入元ブリンプ社(現RECARO社)に入社しました。

同社で働く中で、家業を継ぐ以外の道を考えることもありました。しかし、父の「息子に帰ってきてほしい」という気持ちもわかり、27歳のときに弊社に入社したのです。代表に就任したのは、2011年4月のことです。

ーー代表に就任してからは、どのようなことに力を入れましたか。

水谷匡:
私がまず取り組んだのは、車の販売、整備、鈑金・塗装、保険サービスをワンストップで手がけることができる仕組みをつくることでした。

それまでは、お客様が車を買う場所とオイル交換や車検を行う場所が異なっていて、利便性が高いとは言えませんでした。購入とメンテナンスを同じ場所でできたほうがお客様も利用しやすいだろうと思い、拠点を1つにまとめたという背景があります。

また、今までは会社の方針が統一されておらず、社員たちが同じ方向を向くことができていなかったため、方針を1つにすることにも取り組みました。

大切なのは「小さな領域でナンバーワンを目指す」こと

ーー事業の内容や事業運営で特に意識していることを聞かせてください。

水谷匡:
弊社は、2020年に福祉車両専門店へと事業転換しました。超高齢化社会の到来により、日本では車いすユーザーの数が増えることが予想され、福祉車両の需要もこれからさらに高まるだろうと考えたからです。父が車椅子ユーザーであることも、要因の一つです。現在では、福祉車両専門店として、関西でもトップクラスの中古車両を保有しています。

事業を行う上で特に大切にしているのが、エンジニアのフレデリック・ランチェスターが提唱する、競争相手に勝つための理論「ランチェスター戦略」です。この戦略には、「人と違うことをする」や「小さな領域でナンバーワンを目指す」などがあります。

ランチェスター戦略を事業に取り入れるようになったのは、私が趣味で車のサンデーレースに参加していたときの経験が関係しています。

私が参加していたレースには3つのクラスがあり、はじめは一番上のカテゴリーのレースに出場していましたが、なかなか勝つことができませんでした。そこでクラスを1つ下げて出場したところ、初めて一等賞をとることができたのです。

それまでは、「1番上のクラスで結果を出さなければ」と無意識に思っていましたが、このときに、戦う領域を変えることの重要性を知りました。

当時はビッグモーターなど大型の中古車専門店が急速に増え始めた頃。大手企業に真っ向から戦って勝つのは難しいだろうと感じ、ランチェスター戦略にある通り「小さな領域でナンバーワンを目指す」ことにし、福祉車両専門店に事業を絞りました。

目標は福祉車両業界で日本一の会社になり、「千本鳥居」を建てること

ーー組織づくりで意識していることを聞かせてください。

水谷匡:
組織づくりのために意識して行っているのが、1対1の面談です。これは、社員たちに今までのキャリアを振り返ってもらい、次のステップを考えてもらうために行っています。

また、年間休日数を増やすことにも力を入れています。実際に年間休日数は段階的に増えており、来年もまた増やす予定です。

加えて、テレワークや在宅勤務などの働きやすい環境づくりや、書類仕事を外注に出すことでペーパーレス化を進めるDXなども今推進しているところです。

ーー今後のビジョンや目標をお願いします。

水谷匡:
今目指しているのが、「京都で1番働きたくなる車屋」です。この目標を達成するためには私だけでなく、社員たちにも「自分たちが働きやすい会社をつくるのだ」という当事者意識を持ってもらい、全員でより良い会社を目指すことが重要です。

1on1面談は、この「京都で1番働きたくなる車屋」「日本一の福祉車両専門店」という目標を社員たちに共有する場としても活用しています。

具体的な数値目標は、2029年までに売上高10億円を達成すること。そして福祉車両ビジネスで日本一になり、その達成祝いとして伏見稲荷大社に「千本鳥居」を建て、社員たちと一緒に初詣をすることが目標です。

編集後記

「福祉車両専門店」という市場に狙いを定め、大手と競合しない戦略で会社を成長させてきた水谷社長。同社の事業はこれからの時代にマッチしたものでもあり、同氏の「勝ち抜ける市場」を探し出す嗅覚の鋭さに驚かされた。

同社が福祉車両ビジネスで日本一になり、社員たちとともに千本鳥居を歩く。そんな光景が見られる日も、きっと近いだろう。

水谷匡/1974年、京都府出身。1997年神戸学院大学経済学部経営学科を卒業後、ドイツカーシートの日本正規輸入元のブリンプ社(現RECARO社)に入社。4年後ミズタニに入社し、専務取締役を経て2011年4月、代表取締役社長に就任。