
排水処理施設の管理から清掃~各種廃棄物の運搬~リサイクルまでをワンストップで手がけている株式会社タカヤマ。同社はもともと、し尿汲み取り業を生業としてスタートした会社だが、時代の移り変わりに合わせて事業を拡大してきた。今回は、業界を牽引する同社の代表取締役、齊藤康祐氏に話をうかがった。
ピンチのときに先代が見せてくれたのは「代表者としての在り方」
ーー貴社に入社するまでのことを教えてください。
齊藤康祐:
大学卒業後は都内のビルメンテナンス会社に入社し、4年ほど勤めました。入社前から、将来的に家業であるタカヤマを継ぐことが決まっていたため、修業を目的に入社させていただいたという形です。
就職後は、社会人としての基本や社会の厳しさなど、先輩方にたくさんのことを教わりました。経営者の息子ということもあり、幼い頃から「お坊ちゃん」として扱われてきた私ですが、社会人として必要な根性を根本から磨いていただいた貴重な期間であったと感じています。
そして2006年、タカヤマが福島県富岡町に有機性廃棄物の堆肥化工場「エコジョイン富岡」をつくるタイミングで、27歳のときに弊社へ入社しました。
ーー入社後に苦労したことや、印象的だったことを聞かせてください。
齊藤康祐:
特に大変だったのが、2011年に起こった東日本大震災が発生した時のことです。このとき私は「エコジョイン富岡」の営業担当を務めていましたが、原発事故の影響で工場は閉鎖を余儀なくされ、会社として国との賠償金交渉を進めていかなければなりませんでした。
富岡町での事業は、地域でのバイオマス資源の利活用ならびに地元農業の活性化を目的とした農林水産省の施策「バイオマスタウン構想」の一環として採択され、弊社は町に誘致をされ進出しました。当時この事業に対する期待度が非常に高く、志半ばでの撤退にはとても悔しい思いをしました。
その後「エコジョイン富岡」の閉鎖だけでなく、施設の老朽化によるゴルフ練習場の事業譲渡、首都圏営業部・神奈川営業所の撤退など、理想と現実のギャップを感じることが立て続けに起こったことを覚えています。
ただ、困難が続く中でも不思議と閉塞感はありませんでした。その理由は前社長、副社長の存在が大きかったからです。
私の父である前社長はどんな時でも常に前を向いてリーダーシップを発揮してくれました。賠償金交渉の際には、当時の副社長が「絶対に賠償金を勝ち取るんだ」という気概を持って指揮を執ってくださり、その迫力に後押しされるように、私たち社員も本気で進んでいくことができました。そして、運が良いことに事態は本当に良い方向へ進んでいきました。
前社長、副社長は会社の代表者としての在り方を身を持って示してくれました。実際の事業の成功よりもピンチを乗り越えたその姿を見たことによって私も事業承継への意思が固まったのだと思います。
微生物を上手く活用し、利益を出せる「確かな水処理ノウハウ」が強み

ーー事業の内容や強みについて聞かせてください。
齊藤康祐:
弊社は、し尿汲み取りを行う会社として所沢市で創業した会社で、現在は排水処理施設の維持管理・清掃工事〜廃棄物の収集運搬〜リサイクルといった仕事を手がけています。
弊社のように年間6万トン以上の有機性廃棄物を処理できる会社は非常に少なく、この事業領域においてはエキスパートレベルと言えるまで技術を磨いてきました。
事業の強みは、微生物を上手く使い、水を浄化し、利益を上げるノウハウがある点です。実際に、有機性廃棄物専門の中間処理プラントを持つ「エコジョイン北関東」内の水処理施設には何万・何億もの微生物が活躍し、有機物を分解して綺麗な水を創り出す事業を行っています。
また弊社は、微生物を使って廃棄バターやマーガリンなど処理負荷の高い廃棄物を処理することも得意としています。食品工場から排出される処理負荷が高い廃棄物を適切に処理できる会社は、業界内でもそう多くありません。
微生物を活用したこのような事業を展開できるのも、研究開発に携わる社員たちに豊富な知識と高い技術力があるからこそだと考えています。
ーー事業を成長させることができた要因は何だと考えていますか。
齊藤康祐:
社員の営業努力、既存のお客様からの紹介、新しい仕事を受注するための広告戦略など、さまざまな要因があると思います。ここ数年については、中規模の仕事を多く獲得し、それが積み上がったことによって、売上や収益が底上げされたと言えます。
これからさらに成長していくためには、弊社の高い技術力を世の中に「知らしめる力」と「売る力」を磨く必要があると考えています。そのためにも、会社や事業の情報・データなどを外部に向けて積極的に発信していきたいと考えています。
部門経営者の輩出・既存事業の拡大・新工場建設の3つが今後のテーマ
ーー今後の注力テーマを聞かせてください。
齊藤康祐:
1つは人材育成という観点で、部門経営者の輩出に力を入れることです。実際に現在、部長・課長クラスの研修を徹底的に行い、幹部候補の人材を育成しているところです。
また現在、社内で新工場建設の準備を進めており、それに伴って既存事業の拡大と周辺領域への拡充に注力することも重要な行動と位置付けています。
一例として、施設の防食工事といったメンテナンス・エンジニアリング事業に注力するために、社内に新部門を立ち上げました。今後は新工場建設を軸にしながら人材の成長も促し、7年後までに売上50億の達成を目指します。
そのほか、海外からの人材採用などにも積極的にチャレンジし、会社としての基盤強化を図っていきます。
ーー最後に、今後の展望をお願いします。
齊藤康祐:
あと30年もすれば私から後継者へ事業を承継することになると思いますが、事業承継に向かう中で、私なりのマイルストーンを持ちながら、計画的に会社を発展させていくつもりです。
急成長を目指すというよりは、「着実に利益を確保しながら永続的に社会に役立つ事業をしたい」。そしてその過程で社員一人一人に成長の機会を創り出していく事が最も重要であると考えています。
今後およそ30年という期間のプロセスを大切にし、社員の成長とともに歩んでいくこと。そして、これまで会社が大切にしてきた経営価値を次の世代にしっかりと受け継ぐこと。それが私の使命です。
編集後記
「あと7年で売上をさらに15億円伸ばす」という大きな目標を語った齊藤代表。すでに実績豊富な老舗企業でありながら、現状を維持しようとするのではなく、さらなる発展に向かって突き進むところに同社の強さを感じた。まだまだ成長を続ける同社が、次にどのような一手を打つのか。今後の動向から目が離せない。

齊藤康祐/1978年埼玉県生まれ。亜細亜大学国際関係学部卒業後、都内のビルメンテナンス会社に入社。2006年に株式会社タカヤマへ入社。主に新工場や新事業部の立ち上げに従事し、2013年に専務取締役、2022年に代表取締役に就任。(一社)埼玉県環境産業振興協会青年部会の第8代部会長、現在は同協会理事。自社のみならず業界他社の後継者育成などにも携わり、地域貢献活動も積極的に行っている。