
訪問歯科診療をサポートする専門家として、医療法人の支援を行っているデンタルサポート株式会社。超高齢社会を迎える日本において、通院困難な高齢者が増える中、同社の果たす役割は年々大きくなっている。
同社を率いるのが、2019年に代表取締役に就任した草深多計志氏だ。銀行やゴルフ業界という異業種での経験を経て歯科業界に転じた草深社長は、社員たちとの直接対話を重視し、現場の声に根ざした経営に取り組んできた。変化の激しい時代において、同社はどのようなビジョンで成長を図るのか。草深社長にその戦略を聞いた。
異業種を経てたどり着いた「対話」を中心に考える経営との向き合い方
ーー社長のご経歴と、デンタルサポートに関わるまでの経緯を教えてください。
草深多計志:
私は東京大学経済学部の出身で、卒業後は住友銀行に入行しました。そのときに米国UCバークレーでMBA取得。その後、そのスキルや英語力を買われてカリフォルニアの名門ゴルフ場である「ペブルビーチ・ゴルフリゾート」へ出向を命じられました。
私はこれらの経験を日本で活用したいと考え、ゴルフ場をM&Aで集約して経営するパシフィックゴルフマネージメントへと転職。同社ではM&Aによる組織拡大や、上場の準備に携わりました。どちらも貴重な経験でしたが、多くの会社を統合しながら1つのチームにまとめ上げていくのは、正直簡単なことではありませんでした。同社では取締役、社長、会長まで任せていただき、2012年まで籍を置いていました。
その後、合同会社の設立を経て、2019年にデンタルサポートの社長に就任しました。それからは、現場の声からデータや数値だけでは見えない、人の熱量を丁寧に拾い上げながら、組織としての連携や方向性を整えることに注力しています。
ーー経営で大切にされていることについてお聞かせください。
草深多計志:
私が特に大切にしているのは、社員との対話です。たとえば、ある社員から「話したい」と申し出があったとき、私は午後2時から夕方6時までの4時間、ひたすら耳を傾けて対話することもあります。それくらい、私は一人ひとりに真剣に向き合いたい。対話を通して信頼を深めることで、肩書きや役職を超えて一体となるワンチームの組織へと会社を進化させていきたいと思っています。
また、誰でも気軽に私と話せる「社長ランチ制度」や、年に1回行っている「従業員満足度調査」も社員の声を取り入れるために欠かせません。「従業員満足度調査」では、嬉しいことに本音の意見が多く寄せられており、それを私は真摯に受け止めて、会社の進むべき道を確認する材料にしています。
支えるのは現場力。訪問歯科のチームケアがつくる強みとは

ーー貴社が訪問歯科の現場で発揮されている強みとは何でしょうか?
草深多計志:
弊社の大きな強みは、サポートを専門に行う「コーディネーター」の存在です。コーディネーターはクライアント(医療法人)のドクターや歯科衛生士などとチームを作り、サービスを提供する「ワンチーム体制」を実現できることです。
クライアントも含めてワンチームとする考え方は、徹底した患者目線から生まれたものです。患者から見れば、弊社スタッフと医療法人スタッフの区別はありません。「自分のために動いてくれる一つのチーム」として見られているからこそ、私たちは立場を超えて連携し、同じ目標に向かって動くべきだと考えています。
現場を支えるのは、マニュアルではなく「人」の力です。お互いの価値観を尊重しながら、患者に向き合える信頼関係を築く。このチーム力・現場力こそが、デンタルサポートが他にない強みを発揮できる理由です。
医療DXと拠点拡大で描く、次世代への成長戦略と事業継承
ーーIT企業のM&Aをされたそうですが、その背景や意図をお聞かせください。
草深多計志:
IT企業のM&Aを行った理由は、医療情報のDXに取り組むためです。現場で日々発生するデータを一元管理できる環境を整え、現場の判断や予防医療に活用したいと考えています。
特に注目しているのが、歯科健診のデータの活用です。近年では、口腔環境と全身の健康状態との関係性に対して国も関心を示しており、この分野は大きな可能性を秘めていると感じています。たとえば、私たちは企業・学校・自治体などでの歯科健診で、年間約8万人の受診サポートの実績があります。口腔内の状態と全身の状態との相関関係が明らかになれば、歯科の予防が体全体の健康に対する予防につながることをデータで示せるかもしれない。それによって、医療費の抑制や予防医療に貢献できるのであれば、社会的にも非常に意義のある取り組みになるはずです。
ーー今後のビジョンや戦略について教えてください。
草深多計志:
まず拠点を増やす方針です。具体的には、2019年から15年をかけて、地盤固め、成長、上場準備という3フェーズを実行していきます。
これは、ただ数値を伸ばすことが目的ではなく、グループ全体としての認知度と社会的信頼を高め、将来的な上場を見据えた企業体制を整えていくための基盤づくりです。M&Aも実施しながら積極的にグループ売上を拡大していき、さらに、グループ内から上場企業を生み出すことで社会からの信頼感も高めていきたいと考えています。
そして、次の経営を担う後継者を育てることも大きなテーマの一つです。この計画が終わるころ、私も70歳になりますので、弊社の文化や思いを引き継いでいける方を育て上げ、次の世代に事業をつないでいきたいと考えています。
編集後記
デンタルサポートは、自社グループの再編や医療情報のDX化を通じて、訪問歯科サポートの分野でサービス拡充を実現してきた。今後は、蓄積されたデータを活かした予防医療の促進や、高齢者のQOL向上に向けた社会インフラとしての役割を持てるようさらなる事業拡大を計画している。地域密着と社会課題の解決を両立する姿勢により、同社がどこまで成長するのか。その未来から目が離せない。

草深多計志/1962年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友銀行に入行。カリフォルニア大学バークレー校でMBA取得後、米国ペブルビーチ・ゴルフリゾート出向を経て融資部門で勤務。2001年、三井住友銀行を退職し、パシフィックゴルフマネージメントに入社。取締役、社長、会長を歴任し、2005年の東証一部上場に関与。2012年退任後、A-WIND合同会社を設立。2019年よりデンタルサポート株式会社の代表取締役に就任。