
医師が患者のために尽くしても評価されない。患者は十分な選択肢がなく、自分に合った医療を選べない。医療の世界では、そのような医師・患者双方のすれ違いが生じることがある。そんな既存の医療システムに疑問を持った田真茂氏が、医師の評価制度構築のために設立したのが、株式会社ドクターズプライムだ。
同社のミッションである「自分らしく選べる医療をすべての人に」に込めた思いや、医療のあり方を変えるサービスについて、代表取締役社長の田氏にうかがった。
失敗を恐れずチャレンジをしてきた学生時代。医師として感じた課題を解消するため起業
ーーまず田社長の学生時代についてお聞かせいただけますか。
田真茂:
医師を志して医学部に進学したものの、医療以外の世界にも興味があり、ディズニーシーやアップルストア、引っ越しのアルバイトまで、学生時代を通じてさまざまなアルバイトを経験しました。また、イチから新しいものをつくるのが好きで、大学内でダンスサークルを立ち上げたりしていました。
当時から新しいことにチャレンジすることに対して、怖いという感覚はなかったですね。
また、大学5年生のときに立ち上げたイベントサークルの活動を通し、チケット代をいくらにして、どのくらい集客すればいいか、物販で売るTシャツはどのくらい発注すれば赤字にならないかなど、商売に必要な感覚を実体験を通して学ぶことができました。
ーー起業のきっかけを教えてください。
田真茂:
大学卒業後は総合病院に就職し、救命救急センターで勤務していました。その中で、現状の医療システムに課題を感じるようになりました。そのひとつが、真剣に患者さんに向き合っている医師の頑張りが報われない仕組みになっていることです。
医師の業務の9割は診療で、残り1割を論文の執筆作業に充てています。しかし、医師としての実績が評価されるのは、論文がほとんどなのです。そうした評価制度の影響で、医師は論文の執筆にかける時間を確保するため、できるだけ短時間で診察を終わらせようとしてしまいがちです。
その結果、患者さんとじっくり向き合わず、ただ薬を処方して終わりといったケースが多くなっていました。
もうひとつは、患者さんと医師の間に情報格差があることです。医療行為はガイドラインによる規約はあるものの、選択の範囲がとても広いのです。しかし、医学的知識がない患者さんは、「先生にお任せします」と言うしかありません。
こうした自分自身の治療法を選べない現状に、疑問を感じていました。そこで、患者さんが自分で治療法を選択でき、満足のいく医療サービスを受けられるようにしたいと思い、起業を決意したのです。
そして、自分に合った医療を選べるようにするために考えたのが、診療スキルや患者さんとの接し方をスコア化する、医師の評価制度をつくることでした。医師の総合的なスキルを可視化することで、患者さん自身が自らの命を委ねる医師を選べるようにすること。これが、弊社の事業の根幹なのです。
医療現場をサポートする事業で、医師と患者の両方に貢献する

ーー改めて貴社の事業内容をお聞かせください。
田真茂:
弊社は現在3つの事業を展開しています。1つ目がWork事業、2つ目がAcademia事業、3つ目がLifeDoctor事業です。
Work事業では、救急医療における、医師と病院のマッチングプラットフォームを提供しています。このサービスを立ち上げたのは、救急搬送の受け入れ先が見つからず、患者さんがたらい回しにされる課題を解決するためです。
この課題の原因のひとつは、医師の給与システムにあります。救急車を何台対応しても給与は変わらず、医師の頑張りが報われずにモチベーションが低下してしまう現状がありました。
そこで弊社は、救急車の受け入れ台数によって給与が増える仕組みを導入しました。これにより、医師は労働に見合った報酬を受け取ることができ、病院は売上が向上し、患者さんと救急隊は早く適切な医療につなげられる、まさに「四方良し」のモデルです。
Academia事業では、医師向けの学習動画プラットフォームを提供しています。24時間動画を配信し、オンラインで専門知識を学べ、動画を視聴すると履歴に残る仕組みです。まさに医療番組を作るテレビ局です。今後、この学習データを医師の評価制度に活かしたいと考えています。
動画を視聴し専門知識を身に付けた分、給与をアップする仕組みをつくれば、医師の学習に対するモチベーションアップにつながりますよね。それにより医療の質を上げ、患者さんがより良い治療を受けられるようにしたいと思っています。
LifeDoctor事業では、一般の方が身体の不調や診療における悩みを医師に相談できるセカンドオピニオンサービスを展開しています。これは健康に関する相談相手となるファミリードクター(かかりつけ医)を参考にしたサービスです。
スマホで気軽に相談できるため、家庭に医師がいるような安心感を得られるのがメリットです。
組織としての強みは、同じ信念を持っていること

ーー組織としての強みはどこにありますか。
田真茂:
何より「すべての人が自分らしく医療を選べる世界にしたい」といった思いを持ち、皆が同じ方向を向いて動いているのが大きな強みですね。ただ、起業当初は私が社員の意見を尊重するあまり、各自がばらばらに行動して、組織としての一体感が希薄だと感じる時期もありました。
このときの反省を活かし、社員の意見を参考にしながらも、最後は私が判断する体制に変えたことで、組織が目指す方向性を社員にとってわかりやすく示すことができたのは、強い組織につながった要因だと思います。また、オフィスの席で話し合い、その場で今後の方針を決めるため、意思決定が早いのも特徴ですね。
ーー貴社が求める人物像を教えてください。
田真茂:
特定の能力に長けたスペシャリストよりも、総合力のあるジェネラリストの方が活躍しやすい環境です。弊社は事業間のシナジーを生み出すことでパワーを発揮する組織なので、部署の垣根を越えて臨機応変に対応できる方を求めています。
特に今のフェーズでは、任されたことを凡事徹底でこなしつつ、間に落ちそうなボールも拾える人を増やしていきたいと考えています。
また、現在はAcademia事業で配信する動画撮影のため、カメラマンやプロデューサー、アナウンサーの方も募集しています。
企業の規模を拡大し、人生に寄り添う医療サービスを提供していきたい
ーー今後の展望についてお聞かせください。
田真茂:
現在、約30人の社員数を、来年には150人、再来年は300人規模にし、5年後には売上100億円を目指しています。IPO(上場)も視野に入れていますが、あくまでサービスを普及させるための手段のひとつであり、ゴールとは思っていません。
また、ドクターズプライム独自のサービスだけでなく、世の中に存在する他社の医療サービスも、医師評価の仕組みに組み込むことで、患者さんのためになる医療が促進されるエコシステムを構築することも目指しています。
ーー最後に読者の方々へメッセージをお願いします。
田真茂:
多くの人は自分が病気になると弱気になり、不安でいっぱいになってしまいます。そこで、私たちのサービスを通じて、医療をもっと身近なものにしたいのです。自分に合った治療法を患者さん自身が選択でき、医師と二人三脚で歩んでいける世界の実現に向けて、これからも邁進していきます。
編集後記
医師として医療現場で働いていたときに、「患者さんのための医療を提供したい」という思いから、経営者に転身した田社長。医師が正当に評価され、患者側は治療の選択ができる同社のサービスは、人手不足が深刻な医療業界の課題に大きく貢献することだろう。株式会社ドクターズプライムが、医療従事者と患者の救世主になると確信できるインタビューだった。

田真茂/聖路加国際病院にて初期研修を行い、研修医優秀賞を受賞。都内随一の救急対応数を誇る同病院の救命救急センターで、当直帯責任者として断らない救急を実践する。2016年、株式会社メドレーで遠隔診療事業の立ち上げに従事。救急車のたらい回しという課題を解決するため、2017年、株式会社ドクターズプライムを創業し、代表取締役社長に就任。