※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

1961年に、駐車場・貸家管理事業を開始した株式会社髙木ビル。東京の一等地にあるビルのオーナーとして創業60年を越え、近年はオフィスビルやマンションの開発・管理に留まらず、コワーキングスペース・レンタルオフィスの運営も行っている。代表取締役の髙木秀邦氏に、入社後の取り組みや幅広い事業を手がける理由、今後の展望をうかがった。

音楽業界での挫折を糧に、テナントを「応援」する不動産会社づくり

ーーご経歴をお話しいただけますか。

髙木秀邦:
大学卒業と同時に、ロックミュージシャンとしてデビューしたのですが、結果を出せないまま4年弱が過ぎ、音楽活動に終止符を打ちました。夢が破れてから、髙木ビルの3代目として家業に目を向けたため、父は「そんなに甘い仕事ではない」と渋い顔をしたものです。

「父が渋るのも無理はない」と思い、考えを改め、家業を伏せた上で就職活動を始めて、不動産売買の仲介会社に入社しました。営業マンとして地主さんやお客様と関わる中で、人に喜んでもらうための自己表現など、これまでの音楽活動が活かせることもあると感じました。

不動産は一つとして同じものがなく、仕事がルーティン化しないことも私には魅力的でしたね。結果的にトップ営業に上りつめ、努力を父に認められた上で髙木ビルに入社した次第です。

ーー入社後はどのような取り組みをされましたか?

髙木秀邦:
2011年に東日本大震災が発生してからのビル業界は、テナントの減少にともなう賃料の下げ合いによって市場が大混乱し、転機を迎えました。企業や人材の良さで戦えないことが悔しく、不動産ビジネスの在り方を考えるきっかけとなったものの、何もできないまま1〜2年が過ぎました。

状況が変わったのは、賃料の相場が下がった大手ビルのテナントが埋まり、弊社のような中小ビルに、成長過程の企業がテナントとして入る現象が起きてからです。私は、今までご縁がなかった方々に積極的にお会いし、彼らが事業にかける思いに耳を傾けました。そして、これからは入居する企業やそこで働く人など、ビル内で活動する「人」を主役に、伴走する経営が必要だと確信したのです。

テナント企業様から「オフィスビルへの入居は一苦労」という話を聞き、新しい取り組みを始めたのもその頃です。ベンチャー企業の敷金をなくしたり、企業の成長にともない賃料を上げるフレキシビリティ契約を交わしたりしました。このような入居条件の緩和はとても喜んでいただけましたね。

伴走者としては相手を急かす応援ではなく、「日々の中で1度だけでも心の針を前に傾けてみよう。1年後には新しい価値に出会えるから」と、寄り添う姿勢を心がけています。この考えから、直角を1度前に進めて「T」を表現した「TAKAGI」のロゴマークも誕生しました。

コワーキングやイベントの「場所づくり」で地域を活性化

ーー事業内容や企業の強みを教えてください。

髙木秀邦:
オフィスビルやマンションの管理事業を「LIVE事業」、コワーキングスペース・レンタルオフィスの運営からスタートしたプロジェクトを「BIRTH事業」として展開しています。

現在注力しているのは、東京・麻布十番を中心に地域を盛り上げる「場所づくり」です。コワーキングスペース・撮影スタジオ・イベント会場を備えた「BIRTH LAB」は、人と人との繋がりを生み、新しいコミュニケーションの場として活用されています。居住から仕事までを一気通貫できる住まいを目指した「BIRTH IN-RESIDENCE」には、飲食店と協業してレストランを併設しました。

ビル会社でありながら入居者様の活動を応援し、共に成長するという理念・個性は弊社の強みだと言えるでしょう。入居前の起業家やフリーランスの方、スモールビジネスの経営者様とコミュニティを形成する取り組みは、プロモーションの一環にもなっています。

不動産×新しいジャンルで人をつなげ、より面白い未来へ

ーー採用に関して、どのような考えをお持ちでしょうか。

髙木秀邦:
人は自分の好きなことをしている瞬間が幸せで、ワクワクしている時に真の能力が発揮されると思っています。だからこそ、採用活動でも、仕事とかけ合わせて表現したいものがある人や、それを見つけられそうな人かどうかを注視しています。

私たちは「不動産で新しい価値を生んでいこう」というミッションを掲げ、コミュニティやまちづくりを進めてきました。近年は銀座のフラッグシップビルでサウナや飲食店を展開するなど、表現の幅がどんどん広がっています。不動産を活かして新しいジャンルに挑戦したい方であれば、まったくの未経験者でも大歓迎なので、ぜひお声がけください。

ーー今後の展望をお聞かせください。

髙木秀邦:
コワーキングスペース管理者向けのカンファレンス運営に参加しているので、中小規模の不動産事業者やローカル企業と共にまちづくりを推進したいと思います。私たちがハブとなり地域に「はしご」をかけて、新しいチャレンジを応援していけば、もっと面白い未来が来るのではないでしょうか。

人々のつながりで地域を活性化できれば、不動産の需要も高まるはずです。つまり、モノよりも先にコミュニティをつくり、後に新しい不動産をつくる、という流れが生まれていくと考えています。これからも「面白いことをやる会社」をテーマに、いろいろな人と出会い、そんな種を見つけていきたいと思います。

編集後記

人生を賭けて挑んだ音楽の道を諦めた経験から、「BIRTHに集う起業家の気持ちがよくわかる」と語った髙木社長。挑戦者に伴走したいという思いやりとチャレンジ精神は、多くの企業や人材の心を動かし、さらに表現のステージを広げていくだろう。

髙木秀邦/1976年生まれ。早稲田大学を卒業後、プロのミュージシャンとして活動。大手不動産仲介会社を経て、2009年に株式会社髙木ビルへ入社。2019年、同社の3代目として代表取締役社長に就任。2023年、日本コスペース・コミュニティマネージャー協会(JCCO)設立。