※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

昭和レトロな温泉銭湯「⽟川温泉」やお風呂とカフェの両方を体験できる「おふろcafé」など、ユニークなコンセプトの温浴施設を運営している株式会社温泉道場。地域の古い温浴施設をリノベーションし、新たな価値を発信するなど、地域に貢献していることでも知られる会社だ。

同社が手がけるお店・施設が人気を集める理由や、さらなる成長に向けた展望について、代表取締役社長の山﨑寿樹氏に話をうかがった。

顧客の「あったらいいな」を叶えることでピンチを乗り越えた

ーー社長就任までの経歴を聞かせてください。

山﨑寿樹:
もともと起業したい思いはありましたが、何の業種で起業するか決めていなかったので、選択肢の1つとして大学卒業後は船井総合研究所というコンサルティング会社へ入社しました。

入社後、自ら希望して日帰り温泉事業の部署を選ぶことに。この部署を選んだのは、日帰り温泉の分野は当時非常にニッチで、またマーケットはあるけれども大手が参入しておらず、将来性を感じたというのが理由です。

会社員として日帰り温泉と深く関わる中で、この業界の課題が見え、また「自分ならこんなお店をつくりたい」と思うようにもなっていきました。そんな中、とある縁で「玉川温泉」と「白寿の湯」の経営を打診され、2011年に事業を引き受けて社長に就任しました。

ーー社長就任後、どういったことが大変でしたか。

山﨑寿樹:
社長に就任して1年目のとき、「白寿の湯」の設備が故障し、温泉が出なくなってしまったのが特に大変だった出来事です。原因を突き止めるまでに長い時間がかかり、温泉施設なのに温泉が使えず、会社が潰れるかもしれないと感じるほどのピンチでした。

さらに、2013年「おふろcafé」を立ち上げた当初、お客様がまったく訪れず、オープンからしばらく赤字だったのも非常に苦労した出来事です。

ただ、大変なことは多々ありましたが、当時は「たくさん苦労したほうが成長できる」と捉え、目の前の課題を淡々と解決することをとにかく意識しました。

また、「おふろcafé」に関してはお客様の視点に立つことが大切だと考え、週5回は店舗に赴き、顧客として利用しながら改善点を見つけるようにしました。そこで、お客様の「あったらいいな」を叶えることを意識した結果、数字も徐々についてきたという流れです。

「社員のキャラクター」と「居心地の良い店舗」でファンを獲得

ーー事業の内容や強みを教えてください。

山﨑寿樹:
事業の強みは、社員を大切にしながらファンを獲得できる運営体制を構築している点です。

温泉道場グループが持株会社として立ち上げたONDOホールディングスでは、「地域を沸かす」をテーマに温浴施設や宿泊施設、カフェ、野球チームの運営のほか、サバの陸上養殖やスイーツの販売といった多岐にわたる事業を手がけています。その中でも温泉道場は、「玉川温泉」や「おふろcafé utatane」といった温浴施設・宿泊施設の運営をしています。

多くの企業の場合、店舗数が増えればオペレーションの効率化で収益を上げようとするのが一般的です。しかし弊社は、グループ会社で多角経営をし、多くの店舗を展開しているにもかかわらず、オペレーションよりも社員のキャラクターや個性を前面に出してファンを獲得しているのが特徴。あえて属人化することで、収益を上げています。

また、お店の居心地の良さを追求している点も強みです。具体的には、食事スペースと休憩スペースの境目をあえて曖昧にすることで、家のようにくつろげる空間を生み出すといったことを意識しています。

“お客様が自由に過ごせる店づくり”を意識した結果、長い時間滞在してくださるようになり、それが売上にも結びついています。

ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。

山﨑寿樹:
弊社は広い領域の業務を扱っているので、いろいろな分野に興味を持ち、1つのことを最後までやり遂げられる覚悟を持った人を求めています。そのほか、地域貢献に興味があり、チームで成果を上げることが好きな人も理想です。

また、特定の分野にこだわりを持っている人も積極的に採用したいと思っています。温泉業界は流行り廃りがあり、お客様は来店頻度が高い傾向にあるので、内装をアップデートしたり季節ごとのイベントをするといった飽きさせない仕掛けをしていくのが重要です。

お店を常に鮮度の良い状態にするために大切なのが、お店に趣味の要素を取り入れること。そういった意味でも、何か熱くなれる趣味を持っている人が弊社に来てくれると嬉しいと思っています。

なお、採用者の割合は6割ほどが新卒という状況で、新卒も中途も現在募集しています。

今後の展望は地域を沸かすリーダーを輩出すること

ーー今後の注力テーマや目標を聞かせてください。

山﨑寿樹:
注力テーマは、地域の音頭をとり、リーダーを担える人材を輩出することです。リーダーとしての経験値を積むためには実際に社長を経験するのが効率的ですから、現在は子会社を増やし、それぞれの子会社で様々な経験をしてもらえるよう進めています。

長期的な展望は、「地域を沸かす」をテーマに、売上100億円規模のグループになることです。

ただ、私1人の力だけではやはり限界があるので、各責任者が私と同じくらいの熱量と覚悟を持つことが重要だと考えています。そのため、これからは熱量と覚悟を持ったリーダーを育て、増やし、その熱量で会社を大きくしていけるよう取り組んでいきます。

編集後記

お風呂とカフェを一度に楽しめる「おふろcafé」という斬新なコンセプトで話題を呼んだ温泉道場。「おふろcafé」が多くの人に受け入れられたのは決して偶然ではなく、その背景に、会社員時代から高い熱量で日帰り温泉事業に取り組んできた山﨑社長の存在がある。

同社が今後、温泉を軸にどのような仕掛けをしていくのか。地域貢献という観点でも期待度が高い同社の取り組みに注目したい。

山﨑寿樹/2006年、株式会社船井総合研究所入社。2011年3月より株式会社温泉道場代表取締役社長。2022年6月より埼玉物産観光協会副会長、2025年3月より全国温浴施設協会会長。