※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

設計事務所の仕事というと、設計図書の作成が中心だと思う人が多いだろう。しかし、株式会社翔設計は、事業企画から資金計画・事前調査・設計・施工・修繕・テナントリーシングに至るまで多岐に渡る分野に対応し、設計事務所という固定観念にとらわれない多角的な取り組みを行っている。

設計事務所の進化系を目指すという同社代表取締役の貴船美彦社長は、どのような組織づくりに取り組んでいるのか。同社の設立からこれまで、そして未来に向けた取り組みを聞いた。

楽しく働ける環境を実現するために独立。大切にしているお客様との向き合い方とは

ーー貴船社長の経歴をお聞かせください。

貴船美彦:
私は東京電機大学建築学科の出身で、卒業後はしばらくの間、大手設計事務所で働いていました。当時の設計事務所は今よりずっと職人気質な世界で、収益性よりもこだわりや品質を優先していたことが印象的でしたね。

独立を志すようになったのも、この業界文化がきっかけです。もっと楽しく、しっかり収益を得て働ける環境をつくりたいと思った私は、それまでの経験を活かして株式会社翔設計の前身となる個人事務所を設立し、その2年後に法人化しました。これが弊社を創業した経緯です。

なお、もう一つの動機として、設計業界の「特別な価値を提供する仕事」というイメージを払拭したい思いもありました。私にとっての設計とは芸術品の提供ではなく、お客様の理想を形にするお手伝いをすることです。今後も2つの動機を大切にしながら、弊社ならではの設計事務所像を目指していきます。

ーー貴船社長が仕事をする上で大切にしている価値観は何ですか?

貴船美彦:
お客様を深く理解することを何よりも大切にしています。お客様が必要としているものをつくるというのが弊社の基本的なスタンスですが、そもそもお客様の考えが分からなくては始まりません。お客様への理解を深め、お客様の目線から設計を考えていくことで、本当に喜ばれるものをつくることを心がけています。

また、お客様との関係ではお互いに有益な関係を築くことを大切にしており、本当にお互いのためになる取引であるのか、ということも仕事をするうえでは大切な要素だと思っています。

また、社員が心から支援したいと思えるお客様の仕事をすることも、良いサービスを提供する上では重要なことだと思っています。

建築設計から積算、調査業務、リフォームまで幅広い業務に対応

ーー貴社の強みを教えてください。

貴船美彦:
弊社の強みは、幅広い分野の専門技術を持っていることです。設計業務だけでも建築に関連するさまざまな分野に対応可能で、さらにプランニングや積算業務、調査、実際の施工まで、プロジェクトの準備段階から完成までを一貫して対応できる体制が整っています。

また、幅広い業務に対応するからこそ求められる合意形成技術、つまり意見をまとめ上げることも得意です。デザインに方向性を持たせたり、数多くの要望を内包したプランを提示したり、ときには妥協点を見つけたりと、多くの人が関わる建築プロジェクトをスムーズに進めるためには欠かせない能力といえるでしょう。

この仕組みを支えているのが、幅広い能力を持った社員たちと、数多くの協力会社の存在です。弊社はそれらをまとめるネットワーク企業的な立ち位置で、多角的な視点を持つチームとして業務に当たることで、さまざまな課題に対するソリューションを提供しているのです。今後もこのアイデンティティを成長させていき、より幅広い分野で力を発揮できる存在になれればと思います。

ーー職場環境を整える上で、どのようなテーマを大切にしていますか?

貴船美彦:
特に大切にしているのが、私が設計事務所を立ち上げるときに掲げた「楽しく働ける環境づくり」というテーマです。

私は、仕事を通じて喜びを感じることが、会社と社員両方の成長に繋がると考えています。仕事が自分を高めてくれる、自分に価値を与えてくれると感じられれば、社員はのびのびと成長していくものなのです。

また、個人の価値観を認め合い、多様性のある社風をつくるということも心がけています。弊社には100名以上の社員が在籍しており、それだけに価値観や背景は多様です。時として衝突や混乱が起こることもありますが、それらの出来事は社員たちが自分らしさを発揮している結果だと思います。社員同士認め合えれば、結果的には会社全体の成長につながっていくのではないでしょうか。

全体を見渡せる立場を最大限活用し、建設事業を主導できる存在を目指す

ーー今後、貴社をどのように成長させていきたいとお考えでしょうか。

貴船美彦:
弊社が目指すのは、建築プロジェクトにおいて一般的なソフト領域と言われる設計や企画を超え、課題解決や収益構造の検証等までを網羅し「ソフトウェア」の価値を最大化できる広い領域でのコンサルティング企業になることです。設計事務所が総合的なスキルや知識を手に入れられれば、建設事業を主導する立場になることも可能なはずです。建設会社から依頼を受けて動くだけでなく、設計や運用、コンサルティングといったソフト面からプロジェクトを組み立てていくことで、プロジェクト全体の品質を高めることができるでしょう。

この理想像を実現するためには、社会の変化に敏感に反応し、長期的に価値を生み出し続ける会社へと進化していかねばなりません。そのためには、多様な取引先との関係構築や、資本を強化するための投資会社との連携などが必要になってきます。特に投資会社との連携は、建物の価値を資産価値や市場性といった視点から評価し、手掛けた物件全体の価値を高める効果が見込めます。


さらに今後は、九州エリアの開拓やカンボジアへの注力を進めていき、新たなお客様にリーチしていければと思っています。

まだ先は長い話ですが、いずれは設計というポジションから建設業務をけん引していける存在になりたいと考えています。設計の経験者の方はもちろん、営業やコンサルティング・工事マネジメントの経験がある方の力もお借りしたいので、多くの方に弊社の夢に賛同いただければと思います。

編集後記

貴船社長が目指す将来像は、設計事務所の強みである建設事業を俯瞰で見られるという特徴の延長線上にあるものだ。実現すれば設計事務所の常識が変わり、建築業界に新たな業務モデルを提示する可能性を含んでいる。固定観念を超えて新たな姿を見せるための思いと行動を兼ね備える貴船社長であれば、必ずその未来にたどり着けるはずだ。

貴船美彦/1953年神奈川県生まれ。東京電機大学建築学科を卒業後、大手設計事務所を経て1985年に独立。現在の会社の前身となる事務所を設立。2年後に同事務所を法人化して株式会社翔設計を設立し、同社の代表取締役を務める。