※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

大阪府大東市に拠点を置く株式会社HCIは、「技術を創造し、夢をカタチにする」という企業理念のもと、産業用機械、ロボットシステム、そしてAI・IoTを活用したサービスロボット事業を展開。特に人手不足が深刻化する現代において、ロボットと人の共存社会を実現するための革新的な技術開発と社会実装に注力している。

今回は、同社を牽引する代表取締役社長、奥山浩司氏に、その独創的なキャリアと、未来を見据えた事業戦略について詳しくうかがった。

幼少期からの夢を追い、起業へ

ーー奥山社長のこれまでの経歴をお聞かせください。

奥山浩司:
私は1970年に大阪府大東市で生まれました。福井大学工学部材料化学科を卒業後、1994年に某機械メーカーに入社し、機械設計のエンジニアとして8年間勤務しました。大学での専攻は材料化学でしたが、幼い頃から「社長になりたい」という夢がありました。その夢を叶えるため、会社では機械設計だけでなく、ものづくりに必要な電気設計、組立、加工、販売、さらには営業や経理まで、会社で許される限りのあらゆる業務に自発的に携わりました。

特に、営業担当者と同行することで顧客のニーズを直接聞き、技術的な提案を行う経験は、起業後も大いに役立つ貴重なものになったと思います。将来の起業を見据え、会社経営の全体像を肌で学んだ貴重な期間でした。

ーーどのようなきっかけで独立を決意されたのでしょうか?

奥山浩司:
幼少期より社長になろうと決めていましたが、前職の会社が組織再編を進める中で、希望退職が募られ、会社と部下達と話し合いを重ね、理解してもらい、31歳で独立しました。当時は明確な事業計画があったわけではなく、ただ「自分の技術で大きな成功を得られる」という根拠のない自信だけがありましたね。

2002年に「有限会社克己クリエイト」を立ち上げ、代表取締役に就任。創業当初は私一人で、機械の受注から設計、部品の手配、組立、配線、プログラミングまで、すべてを自分で行っていました。

リーマンショックが転機、ロボット事業へ本格参入

ーー創業初期の印象深いエピソードをお聞かせください。

奥山浩司:
創業して間もなく、ある電線メーカー様と取引が始まりました。極めて細いケーブルを高速かつ高品質で生産できる機械を求められ、当時の技術では困難とされていたこの課題に対し、開発に着手。2年間の試行錯誤の末、ついに開発に成功します。「磁気軸受」という技術を用いて、接触による振動をなくし、髪の毛よりも細いケーブルを高速で巻線できる装置を実現したのです。この装置が弊社の最初の事業基盤となり、開発型企業としての土台を築き上げました。

ーーロボット事業参入の転機はいつ頃ですか。

奥山浩司:
ケーブル製造装置事業は順調でしたが、2008年のリーマンショックで景気が大きく落ち込み、設備投資が冷え込む中で、事業の多角化の必要性を強く感じました。その時、将来的な人手不足の深刻化を予見し、「これからはロボットが不可欠な時代になる」と確信したのです。そして2009年、ロボットシステムの初号機を納入し、ロボット事業を本格的にスタートさせました。

AI技術でロボットの可能性を切り拓く

ーー貴社が注力されているAI技術の開発について詳しく教えてください。

奥山浩司:
ロボットの導入を進める中で、従来のロボットでは対応が難しい課題に直面しました。たとえば、外乱によるものや透明なものをロボットが認識できない、といった問題です。これを解決するにはAIの力が必要だと考え、2017年からAI技術の開発に本格的に取り組み始めました。

当時、私自身にAIの知識が不足していたため、AIを学びたい若者たちが集まる「泉大津AI研究会」を立ち上げた経緯があります。この研究会を通じて、多くの若手エンジニアが弊社に参画し、弊社の社員もAI技術を習得しました。その結果、自社でAI技術を開発できる体制が確立されたのです。

ーー現在の事業内容について教えてください。

奥山浩司:
弊社は現在、3つの事業を展開しています。

1つ目は、インダストリアルマシナリー&ロボットシステム(I&R)事業です。産業用機械、特にケーブル製造装置の開発・製造に加え、工場や倉庫の自動化を推進する産業用ロボットシステムを手掛けています。

2つ目は、サービスロボット&ソーシャルシステム(S&S)事業です。人手不足が深刻なサービス業界の課題解決を目指しています。飲食店などで活躍する配膳ロボットや、2025年4月には独自の人間型ヒューマノイドロボットが完成し、販売を開始しました。この人間型ロボットは、大阪・関西万博の飲食パビリオンにも出展しており、未来の食のあり方を提示する存在となるでしょう。

3つ目は、フード&ケア(F&C)事業です。自社で培ったAIやIoT技術を活かし、スマートファクトリーやスマート倉庫の実現を支援するシステム開発・販売を行っています。また、コミュニケーションロボットのオーナーが集まる「ロボカフェ」の運営も手掛け、ロボットが生活に溶け込む新たなコミュニティの場を創造しています。このカフェは社員食堂から発展したもので、現在は一般客向けにも開放し、昨年9月には黒字化を達成しました。

ーー今後、特にどの事業を伸ばしていきたいとお考えでしょうか。

奥山浩司:
I&R事業は弊社の基盤であり、今後も堅実に伸ばしていきます。しかし、私が特に注力し、大きく成長させたいと考えているのは、S&S事業です。特にサービスロボットは、製造業だけでなく、飲食店や介護施設など、あらゆる業界で深刻化する人手不足を解消する鍵となると見ています。将来的には、配膳や清掃といった単純作業だけでなく、より複雑な業務をロボットが支援できるよう、技術開発を進めていく方針です。

「ロボットと人の共存社会」の実現へ

ーー御社の企業理念と、今後の展望についてお聞かせください。

奥山浩司:
弊社の企業理念の一つは「技術を創造し、夢をカタチにする」です。この理念には、まだ世の中にない技術を自らの手で生み出し、それを社会に実装することで人々の夢や課題解決に貢献するという強い思いが込められています。そして、「誠を尽くし常に信頼される人・企業を目指す」「感謝と克己の精神で社会との調和と共生に努める」ことも大切にしています。お客様やパートナー企業様との信頼関係を築きながら、共に成長していくことを目指します。

最終的に私たちが目指すのは、「ロボットと人の共存社会」の実現です。ロボットが高額で導入が難しいという現状もあります。しかし、人間にしかできない手作業や、人が担うべき業務とロボットが効率的に行える業務を明確にすることで、より豊かな社会を築けると考えます。

将来的には、一家に一台、パーソナルロボットがいるような世界が来るでしょう。ロボットが人々の日常を支え、より創造的で有意義な活動に人が集中できるような未来を創造していきたいですね。

ーー社員の皆様の働き方に対するお考えをお聞かせください。

奥山浩司:
弊社では、社員一人ひとりがやりたいことを追求できる環境を重視しています。例えば、機械設計を極めたい人、ロボットのプログラミングをしたい人など、それぞれの希望や得意分野に合わせて部署を決定します。そして、その才能を最大限に発揮できるような配置を心がけています。

大企業では難しい、個人の「ワクワク感」を大切にすることで、仕事が単なる義務ではなく、夢を叶える場になると考えています。精神的な負担をなくし、社員が心から楽しく仕事に取り組める働き方改革を推進しているところです。

社員一人ひとりが生き生きと働くことで生まれるエネルギーが、新たなイノベーションの創出や生産性の向上をもたらし、それがひいては会社全体の持続的な成長につながると信じています。

編集後記

幼少期から抱いた「社長になる」という夢を、具体的な行動と戦略的な事業展開で形にしていくその姿は、多くの起業家や若手ビジネスパーソンにとって大きな刺激となるだろう。特に、リーマンショックを転機としてロボット・AI事業へと舵を切り、人手不足という社会課題の解決に貢献しようとする姿勢は、企業の社会的責任と成長戦略が見事に融合している。奥山社長の描く「ロボットと人の共存社会」という未来が、現実となる日が来ることをしっかり見届けたい。

奥山浩司/1970年大阪府大東市生まれ。1994年福井大学工学部材料化学科卒業。同年某機械メーカーに入社。2002年に退職。同年、有限会社克己クリエイトを創立し、代表取締役に就任。2006年、有限会社克己クリエイトを株式会社HCIへ組織変更、代表取締役社長に就任。2021年、一般社団法人日本ロボット工業会理事、一般社団法人日本ロボットシステムインテグレータ協会副会長に就任。