※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

とんかつ専門店の「かつや」をはじめとして、数多くの飲食店を経営しているアークランドサービスホールディングス株式会社。近年ではからあげ定食専門店の「からやま」が100店舗を超える成功を収めている。

この「からやま」を成長させた立役者こそが、代表取締役社長の坂本守孝氏だ。坂本社長は、既存ブランドの強化だけではなく、新業態の開発や海外市場への挑戦にも積極的に取り組むなど、新たな収益の柱をつくることに余念がない。次の10年を見据えた長期的なビジョンと、その実現に向けた戦略とはどのようなものか。持続的な成長を目指すリーダーの考えに迫る。

第2の柱となるブランド「からやま」の成長に貢献した

ーー坂本社長の経歴をお聞かせください。

坂本守孝:
アークランドサービスホールディングスの親会社であるアークランズ株式会社は、私の祖父が創業した企業(旧アークランドサカモト)です。私は幼少期より、父の働く姿を間近で見て育ち、自然と将来的な事業承継を志すようになりました。

大学卒業後、私は経営者に必須である財務知識を習得するため、証券会社へ入社しました。当時の資本市場における経験は、企業の成長メカニズムや経営の構造を深く理解する上で、極めて貴重な財産となったと考えております。

その後、2010年に弊社へ入社いたしました。入社後は「かつや」店舗にて1年間、店長として現場経験を積みました。その後は、商品開発、立地開発、新業態開発に携わり、「からやま」の立ち上げに従事することで、経営者としての視野を広げました。

この「からやま」の立ち上げは、私にとっての大きな転機となりました。当時、からあげを主軸とした定食業態が市場に少なかったこともあり、第1号店はオープン当初より大変な盛況を博しました。その後も出店を重ね、今では100店舗を超えるブランドへの成長に貢献いたしました。

この実績が評価され、2021年には現職であるアークランドサービスホールディングスの代表取締役社長に就任いたしました。現状に甘んじることなく、事業をさらなる高みへと成長させたいという強い信念があります。「からやま」における現場経験を通じ、「人」と共に成長する重要性を痛感いたしました。現在も、その視点を経営の根幹に据え、日々業務に取り組んでおります。

ーー2021年の社長就任後は、どのようなことに取り組みましたか?

坂本守孝:
弊社には「かつや」や「からやま」以外にも多様な事業やブランドが存在します。これまで直接関わる機会が少なかったため、まず会社全体への理解を深めることから始めました。

M&Aによってグループ入りした企業もあり、それぞれの企業文化や経営方針を把握する必要がありました。そこで、実際に店舗など現場へ足を運び、従業員や責任者と直接対話することで、各ブランドの特性や課題など現状を把握することに努めました。

この過程で特に重視したのは、まず相手の話に耳を傾け、現場で何が起きているのかを理解することです。自分の考えを一方的に押し付けるのではなく、相手の立場や状況を理解した上で会社のビジョンを共有することで、強固な信頼関係が築けると確信しています。

異なる文化を持つグループ企業間の連携も重要な課題でした。組織が一丸となって成長していくためには、多様な背景や価値観を持つ企業が協力できる体制を整えることが不可欠です。

そのため、既存ブランドの成功モデルをそのまま他のブランドに適用するのではなく、互いの強みを尊重し、会社間で相互作用を生み出せるような連携体制の構築を目指しています。

ターゲットを絞り込んだブランド戦略で、グループ全体の成長につなげる

ーー改めて、貴社の事業内容を教えてください。

坂本守孝:
弊社では、「かつや」と「からやま」という2つの主要ブランドを中心に、複数の外食事業や冷凍食品事業を展開しています。

「かつや」は、「サクサクやわらかボリューム満点」がコンセプトです。現在、国内に約500店舗を展開しており、安定した品質とリーズナブルな価格帯が、男性やファミリー層を中心に多くのお客さまにご支持いただいています。さらに、アジアを中心に海外展開も積極的に進めています。

「からやま」は、からあげ定食をメインにしたブランドです。「料理で元気に、サービスで笑顔に」をコンセプトに、M&Aでグループ入りした「からあげ縁」と「かつや」とのコラボレーションで誕生しました。揚げたてのからあげをご飯のおかずとして提供することで、ファミリー層を中心に多くのお客さまにご支持いただいています。現在、全国に120店舗以上を展開しています。

その他にも、タイ料理レストラン「マンゴツリーカフェ」や、肉めし専門店「肉めし岡もと」、たらこスパゲティ専門店「東京たらこスパゲティ」など、グループ全体で15ブランド、国内外合わせて793店舗(2025年4月末時点)を展開しています。

ーー貴社独自の強みはどのような点にあるとお考えですか?

坂本守孝:
弊社の強みは、柔軟な経営姿勢と新たな価値創造への挑戦力です。私たちは「顧客の創造」を大前提に、「新たな価値の創造、変化適応による顧客の創造」を経営方針に掲げ、安定した売上基盤と持続的な成長に挑戦し続けています。

この挑戦は、多岐にわたる業態への展開として具現化されています。飲食業界では客単価の向上に限界がある中、私たちは継続的な新規顧客への提案を可能にしています。具体的には、メインユーザーの重複を避けるようにブランドを展開し、顧客の創造へと結びつけております。

たとえば、「かつや」はボリューム感のある食事を好む30代から50代の男性をメインユーザーとし、戦略的な施策を展開しています。対照的に、「東京たらこスパゲティ」は20代から40代の女性に訴求するメニュー開発と店舗設計を徹底しております。

このようなブランドポートフォリオ戦略により、特定の年齢層や性別への依存を避け、バランスの取れた顧客基盤を確立することができております。今後も、各ブランドが有する独自の価値を強化しつつ、継続的に新しい顧客層へ提案いたします。

既存ブランドの強化と新業態の開発で、2030年までに売上高1,000億円を目指す

ーー今後、特に注力すべきと考えているテーマを教えてください。

坂本守孝:
まず、「かつや」と「からやま」の強化に注力し、並行して新業態の開発にも積極的に取り組みます。外食業界はトレンドの変化が激しいため、長期的に愛されるブランドを育成することが重要です。そのため、日常食としてのポジショニングを重視し、地域のニーズに対応できる柔軟な業態づくりを進めていきます。

また、新たな事業の柱を生み出すため、「かつや」と「からやま」以外のブランド育成も不可欠です。現在、「マンゴツリーカフェ」は約20店舗、その他のブランドは4〜5店舗に留まっています。まずは、これらのブランドを50店舗程度まで拡大できるかを見極めたいと考えています。

さらに、新ブランドの開発も必要となるでしょう。たとえば、高級とんかつや焼き魚といった、既存ブランドでは挑戦していない分野を開拓し、会社の持続的な成長を支える基盤を築いていきたいと考えています。

ーー海外戦略についてもお聞かせください。

坂本守孝:
海外でも日本と同様に、日常食として定着させることを目指しています。そのため、現地の食文化や消費者の嗜好に合わせたメニュー開発や店舗運営に注力しています。

すでに海外展開は開始しており、特にタイでは約60店舗を展開しています。しかし、その他の国では10店舗未満と、まだ本格的な拡大には至っていません。

これは、現地でとんかつ、から揚げ、天ぷらといった日本食自体の認知度が低いことが原因だと考えられます。この課題を克服するためには、日本食と弊社の両方の認知度向上を狙えるブランドを構築していく必要があると考えています。

ーー中長期的に、貴社をどのように成長させていきたいとお考えですか?

坂本守孝:
2030年までに売上高1000億円達成を目標とし、その達成には既存ブランドである「かつや」と「からやま」の強化が不可欠です。

「かつや」は、現在好調なロードサイド店舗や駅前ビルイン店舗、そしてフードコートへの出店を継続するとともに、新たな顧客ニーズに対応した店舗モデルの開発に注力しています。最近では、効率的な運営とお客さまの利便性向上を叶える「前払いセルフ式」の新モデル店舗を導入しました。

一方、「からやま」は、まだ出店していない地域が多くあり、これらの未開拓地域への積極的な展開が課題です。特に、これまで出店機会の少なかった九州などへ出店を進め、地域ごとの需要に応じたブランド認知度の向上を目指します。

専門性を磨きつつ幅広いキャリアを築ける、飲食に情熱を持つ人が活躍できる環境を用意

ーー貴社が求める人材の条件を教えてください。

坂本守孝:
私たちは、「飲食が好き」という強い想いを持つ方と共に成長していきたいです。食への深い興味や関心を持ち、自分の「好き」を追求する熱意、そしてその魅力を周りの人に伝えたいという意欲のある方を歓迎します。飲食の奥深さや多様な価値観に積極的に触れていきたいという方は、大歓迎です。

また、特定の分野で専門性を高めたい方、複数の分野を経験し視野を広げたい方、あるいはその両方を望む方には、弊社の環境は最適です。弊社ではメインユーザーを明確にした多様なブランドを展開しているため、一つの専門性を深めながらも、多角的な視点から事業に携わることが可能です。

ーー人材を育成するために、どのような制度を活用していますか?

坂本守孝:
「アソシエイト制度」は、次世代のリーダー育成を目的とした社内制度です。現在店舗で活躍する店長の中から毎年4〜5名が選抜され、商品開発、営業、マーケティング、人事など、様々な部署での業務を経験します。

この制度を通じて、マネージャーやスーパーバイザーとして必要な幅広い視野と判断力を養うことができます。また、制度期間中に実績を上げたり、積極的に自身の能力をアピールしたりすることで、その後のキャリアアップにつながるチャンスも広がります。

キャリアアップを積極的に目指したい方にとって、このアソシエイト制度は最適な機会となるでしょう。

売上目標のその先にある、本当の目標とは

ーー最後に、読者に向けたメッセージをお願いします。

坂本守孝:
2030年までに売上高1000億円を目指すのは、単なる数字上の目安でしかありません。私たちが本当に実現したいのは、国内外の多くのお客さまに、必要とされる事業や店舗を展開し、それらを通じて私たちならではの価値を実感していただくことです。

それを達成するには、私たちの伝えたい価値や思いに共感し、共に成長を志す仲間が不可欠です。

ここまで弊社の考えやビジョンをお話ししましたが、これらの思いが、食への情熱を持ち、新しい価値創造に意欲のある方々との出会いにつながることを願っています。

編集後記

アークランドサービスホールディングスの強みは、ターゲットを明確に定めた専門店戦略と、それを大規模に展開できる体制にある。これにより、それぞれの市場ニーズに応じたブランドを育てながら、企業全体としてのスケールアップが可能だ。こうした取り組みを重ねることで、同社は次の10年に向けて新たなステージへと踏み出し、持続的な成長を実現するに違いない。

坂本守孝/1985年生まれ、新潟県出身。亜細亜大学卒業後、証券会社に入社し、日本株のトレーディング業務を担当。その後、2010年に家業であるアークランドサービスホールディングスに入社。「からやま」のブランド立ち上げを成功させ、2021年に社長に就任する。