
株式会社菊池製作所は、1970年に創業したものづくりの支援企業だ。「コンシューマエレクトロニクス」「自動車」「医療」「ホビー」などの分野で、開発から試作、量産といった顧客のものづくりをトータルサポートしているほか、スタートアップ企業への支援・投資も行っている。同社が考えるものづくりの在り方や将来の展望とは、どのようなものなのか。創業者であり代表取締役社長の菊池功氏に話をうかがった。
形として実現するものづくりを重視
ーー創業から現在に至るまでの経緯をお聞かせください。
菊池功:
ある企業でカメラ開発の仕事に20年間従事したのち、1970年に東京都八王子市でカメラや時計の精密板金加工、金型製作などの、試作品製作の個人事業を立ち上げたのが始まりです。八王子市には当時、有名なカメラメーカーがいくつもあり、その地域特性が追い風となりました。高度成長期という時代の波にも乗って事業は大きく発展し、1976年に弊社を設立したのです。
その後、1984年には私の生まれ故郷である福島県相馬郡飯舘村に、第一工場を開設。海外にも拠点を広げ、韓国や中国など海外で子会社を設立しました。そして2011年にはJASDAQ市場(スタンダード)への株式上場を果たし、大学との連携やグループベンチャーへの支援などを通じて、事業を拡大してきた次第です。
ーー仕事において、どのような考えや価値観を大切にしていますか?
菊池功:
革新的な技術を極めることを重視しています。ものづくり企業としての弊社に求められているのは、「壊れない」「安全」「便利」といった付加価値を形にして実現し、お客さまに喜ばれる仕事をすることです。株式上場や他社との協業を実現するためにも、革新性は欠かせません。社会に信頼される企業として成長するために、革新的な技術をアピールできるよう、独自の技術を追求することを大切にしています。
スタートアップ企業を総合サポートする支援事業の取り組み

ーー現在は、どのような事業を展開していますか?
菊池功:
弊社は「総合ものづくり支援企業」として、樹脂や金属を用いた試作品から量産品まで幅広く手がけています。時計、カメラ、自動車、医療機器といった多様なメーカーから請け負う形で、製品開発から試作品の製造、評価、そして量産までトータルでサポートしています。切削加工や精密板金、金型製作、射出成形などの幅広い技術を活かし、製作の各過程を分業することなく自社で完結させる「一括一貫体制」が特徴です。
――「一括一貫体制」にはどのようなメリットがありますか?
菊池功:
「一括一貫体制」は、コスト削減や納期短縮を可能にするため、お客さまにとって大きな利点となります。各部品製造から試作品の完成まで全工程を管理しているので、「もっと精度が高いつくり方ができます」「こういうつくりだと、量産性が高まります」など、図面だけでは見えてこない提案をお客さまに提供できるのが、弊社の強みと言えるでしょう。
特に、スタートアップ企業にとって、部品製造や組み立てを複数の業者に依頼する必要がないのは、メリットが大きいのではないかと考えます。そのため、弊社は上場企業との取引に加えて、30社ものベンチャー企業への支援も積極的に行っています。
ーースタートアップ企業への具体的な支援内容を、教えてください。
菊池功:
ものづくり企業は、事業化までに時間がかかる傾向があるため、日本では、ものづくりスタートアップへの投資スタンスが慎重な部分もあり、特にサポート・サービスロボットを製品とする多くのスタートアップが苦戦しています。そこで、弊社はファンドを設立し、スタートアップ企業への投資を行うほか「ヒト・モノ・金・マーケット・サービス」など、あらゆる側面から支援を行ってきました。
日本の市場は既存のブランドを重視する傾向が強く、現状ではスタートアップ企業の商品がなかなか受け入れられません。そこで、信用を生むべく、上場企業である弊社が介在してスタートアップ企業を保証するのです。
ベンチャー支援を通じて新たなものづくりの価値を創造
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
菊池功:
確かな仕事を通じて、事業に関わるすべての人々や社会に貢献したいですね。また、これまで行ってきたスタートアップ企業への支援を継続し、資金面だけでなく市場開拓も支援したいと考えています。こうすることで、スタートアップ企業と弊社が一緒に成長し、ものづくり産業全体が発展するようなビジネスモデルを構築したいです。
このビジョンを実現するためには、「人材」が必要不可欠です。特に、地方創生の観点からは、行政と連携して地方にスタートアップ企業を誘致し、新しい産業を育てることが重要だと考えています。地方と企業が協力し、ものづくりを通じて新たな価値を創出することで、地域貢献につながれば嬉しいですね。
編集後記
製造業において生産拠点の国内回帰が増えるなど、日本は今、ものづくり企業にとって重要な転換期を迎えている。スタートアップ企業支援を通じて地方創生を図る菊池社長の戦略は、日本のものづくりにどのような影響を与えるのだろうか。業界全体の活性化と産業全体の競争力の向上に期待が高まるインタビューだった。

菊池功/1943年福島県飯舘村生まれ。1970年に菊池製作所を創業、代表取締役に就任。メーカーの試作・量産を一括一貫で支援するビジネスを立ち上げる。2000年以降はスタートアップ企業に出資し、包括的な事業化支援を推進する新規事業を推進。株式会社マグネイチャー、イームズロボティクス株式会社など多数で取締役を兼務。