
タクシー事業を中核に、ガソリンスタンド運営や車両整備から、ボウリング場やカラオケといったアミューズメント施設の展開まで、人々の生活を多角的に支えるエムケイホールディングス株式会社。
同社は「関わるすべての人のハートをあたたかくする」という使命のもと、成長を続けてきた。未来を見据えて人材教育に徹底的にこだわり、人の温もりのあるサービス提供を追求している同社の代表取締役社長、青木信明氏に話をうかがった。
規制緩和を機に全国へ、事業拡大を牽引したリーダーシップ
ーー青木社長のこれまでの経歴を教えてください。
青木信明:
私は22歳のときに、父が創業した株式会社永井石油(現:エムケイ石油株式会社)に入社し、最初は企画室で「MK新聞」という情報紙の作成を担当していました。その後は、エムケイ株式会社の営業所に配属され、タクシードライバーを管理する営業所職員として現場の最前線で働きました。大卒ハイヤードライバーを採用する人事部や法人セールスを行う外商部など様々な部署を経験しました。経営方針で父とぶつかるとよく自らタクシーに乗務して原点を見つめ直しました。
そんな私にとって大きな転機となったのは、2002年のタクシー規制緩和です。それまでタクシー業界は保有台数や運賃に規制がかかっていましたが、それらがすべて自由化されたのです。
その翌年の2003年にエムケイの社長に就任しましたが、この自由化の波に乗って札幌から福岡まで拠点を拡大し、京都の地方会社から全国規模の会社へと成長させていきました。現場経験があったからこそ、事業を拡大する際の課題も理解し、乗り越えられたのだと感じています。運行管理事業本部(MK観光バスの母体)の本部長やエムケイ石油の社長も歴任しています。
ーー貴社グループが大切にしている価値観についてお聞かせください。
青木信明:
私たちは、「安全・挨拶・掃除」の3つを大切にしています。お客様の安全を最優先に考え、心のこもった挨拶を実践し、車両や施設の隅々まで清潔に保つ。この実践を積み重ねてきた歩みが、弊社グループの価値観の礎になっています。
これらを社内に浸透させていく上で、最も大切になるのが継続です。1度や2度の研修で身につくものではありません。定期的な全員業務集会を通じて、これらの価値観を繰り返し伝えています。この教育姿勢があるからこそ、どの地域に出店しても高い品質のサービスを提供できていると自負しています。
人々の生活を支え、豊かにする多角的な事業

ーーグループ全体の事業内容について教えてください。
青木信明:
現在、エムケイグループの事業は大きく分けて3つの柱があります。
1つ目のタクシー事業は弊社の主力事業で、「MKタクシー」として全国に拠点を広げ、空港送迎や観光、ハイヤーサービスなども含め、地域の移動を総合的にサポートしてきました。バス事業も拠点拡大を行っています。
2つ目のエネルギー事業では、ガソリンスタンドの運営を通じてエネルギー供給を担っているほか、車両整備や自動車販売も手がけています。
3つ目のアミューズメント事業では、ボウリング場やカラオケ、ゲームセンターといった憩いの場を提供しています。加えて、手軽にバーベキューが楽しめる「上賀茂グランピングパーク」も運営しており、食の楽しさもお届けしているところです。
ーー貴社の強みはどこにあるとお考えですか?
青木信明:
最大の強みは人材です。近年はタクシー業界もガソリンスタンド業界も、効率化や無人化が進んでいますが、私たちは「人」による価値提供にこだわり続けています。
たとえば、ガソリンスタンドにおいては、セルフサービスが主流になる中、弊社は人材を厚く配置し、洗車やオイル交換などのサービスを充実させています。お客様に最適なサービスを提供できるよう教育に力を入れてきたことが、こうした強みにつながっていると考えています。
環境対応と人材育成の両輪で、新たな移動のあり方を模索していく
ーー現在はどのような部分に注力していますか?
青木信明:
新しいモビリティ社会の実現に向けて、環境対応と教育の両面から取り組みを進めています。環境対応については、2030年までに全車両のZEV化(※)を行う予定です。そこで、まずは2025年度末までに、保有車両の30%をZEV化するべく取り組みを進めています。
一方、教育で重視しているのは、「脳にも汗をかく人材」の育成です。技術革新が速い現代においては、額に汗をかく働き方だけでは不十分になっていると感じています。そこで、弊社では社員1人ひとりが自ら学び、考え抜き、価値を生み出していける環境づくりを大切にしています。
(※)ZEV:「Zero Emission Vehicle」の略。排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車のこと。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
青木信明:
私は将来、自動運転技術の普及によって個人所有の車が大幅に減少し、代わりにタクシーが安価になり主要な移動手段となると考えています。そのときに求められるのは、運転技術ではなくお客様に寄り添う能力のはずです。どんなに技術が進化したとしても、人間ならではのおもてなしの価値は失われないと思うのです。弊社はそんな「人の温もり」を大切にしながら、常に未来を見据え、新たな移動体験の創造に向けて前進していきます。
編集後記
「安全・挨拶・掃除」の重要性を説き、地道に教育を重ねる青木社長の姿勢が印象的だった。その背景には、一朝一夕では身につかない価値観だからこそ、繰り返し伝え続ける必要があるという信念がある。派手な言葉や一時的な流行に惑わされず、基本に忠実であり続ける強さが、他社が容易に模倣できない競争力を生み出しているのだと実感した。

青木信明/1961年、京都府京都市生まれ。1982年、株式会社永井石油(現:エムケイ石油株式会社)に入社。1983年、エムケイ株式会社に入社。1999年、エムケイ株式会社の取締役、2003年に同社代表取締役に就任。2018年、エムケイホールディングス株式会社の代表取締役社長に就任。