
ガソリンスタンド業界で独自の挑戦を続けるベストバリューエネルギー株式会社。薄利多売を特徴とした企業文化からの転換という困難な課題に対し、代表取締役社長の森川宏氏は、社員教育や油外収益を強化した。そして「キレイを維持する」という独自の哲学に基づいた洗車事業の展開など、大胆な改革を推進している。車好きからこの業界に入り、ユニークな経験を通じて手腕を磨いてきた同氏に、その道のりと今後の展望を聞いた。
車業界への意外な入口と若き日の挑戦
ーー社長がこの業界に入った経緯を教えてください。
森川宏:
車が好きで車業界を志望しました。専門学校では旅行業を学んでいましたが、バブル崩壊で状況が変わり、当時給与水準が高く、車との結びつきも強かったガソリンスタンド業界のMK石油に入社したのです。
入社1、2年目から営業職として、車関連商品以外にスーツや宝石、さらには蟹まで販売するというユニークな経験ができたと言えます。幸いお客様にも恵まれ、楽しい時間を過ごすことができました。当時は見積書も全て手書きで、カーボン紙を使う時代でしたので、その点は苦労しました。
その後、エリアマネージャー、課長、部長と段階的に経験を積み重ねました。
ーー管理職として、特に意識されたことは何ですか?
森川宏:
当時は実力がないと部下がついてこない風潮があったため、特に意識したのは、まず自らが店舗でトップの売上を上げることです。また、店舗全体の状況を把握する「空間把握能力」も重視していました。指示も出しやすく、円滑に動かせるようになることを重視したのです。
また、顧客管理が今ほど一般的ではなかったアナログの時代から、いち早くお客様の車と顔を一致させることを徹底し、車種やナンバーだけでなく、趣味嗜好や過去の整備履歴まで把握するようにしました。これにより、お客様に合った提案をすることができたと思っています。この方法は部下にも指導しましたね。
企業文化の変革へ。社長就任と新たな挑戦

ーー社長に就任後、どのような改革をされたのか、教えてください。
森川宏:
ベストバリューエネルギーはもともと、京都のガソリン市況の安定化を目的として2017年にMK石油が買収した会社です。激安店が存在することで、地域のガソリン販売価格が上げにくい状況があったため。適正な価格で販売すれば、地域のガソリンスタンド全体の利益も向上するだろうという大きな目的がありました。しかし、もともとは薄利多売でコストを極限まで抑えるという企業文化があったため、その改革は困難を極めると覚悟していました。
まず以前は「お客様とは会話しない」と教育されていた社員に対し、「積極的にお客様と会話し、名前を覚えてもらう」ように指導方針を180度転換しました。また、油外商品の販売強化、つまりガソリン以外の収益最大化に着手したのです。加えて、客単価向上とロイヤルカスタマー育成のため、ストック型の商品にも力を入れています。
ーー具体的にどのような商品を強化されたのですか?
森川宏:
オイル、タイヤ、バッテリー中心だったところから車検の取り扱いを強化し、リピーターが増加しました。そして新たに洗車事業に注力しています。これらの収益は1.5倍程度まで向上しましたが、他の商品が落ち込むなど、バランスの是正が今後の課題です。
「キレイを維持する」洗車の新哲学とブランド展開
ーー洗車事業にかける思いと、独自のブランド展開についてお聞かせください。
森川宏:
一般的なコーティングは「施工すれば汚れない」と謳いますが、実際は汚れが蓄積し、結局コーティングを傷めるため対処が必要になります。私は、施工したキレイな状態を長く維持させたいと考え、2023年4月に伊勢で自社ブランドの洗車専門店をオープンしました。
ーー自社ブランドの強みはどこにあるとお考えですか?
森川宏:
独自のコーティング技術を使用したメンテナンスを提案できる点です。施工の際に耐久性と艶感が高いコーティング剤を使用しているのですが、これによって車体を傷や汚れから保護するだけでなく、UVカットの効果をもたらし、塗装の色褪せも防ぎます。
さらに、水滴が弾きやすくなるので、洗車の手間も軽減できて、美しい輝きを長時間持続させることが可能です。素材・工程・仕上がりに“こだわり”をもってお客様の愛車のケアに取り組んでいます。

SSの進化とグローバルな挑戦
ーー今後のガソリンスタンド(SS)事業のビジョンについて教えてください。
森川宏:
SS事業は採用が難しい事業ですので、省力化を進め、少ない人数でも利益を出せるような経営スタイルを確立していきます。また、洗車事業をさらに専門化し、自社ブランドの強みを活かして、洗車と車検を収益の柱に育てていきたいと考えています。
ーーSS事業以外の、新たな柱についてはいかがでしょうか?
森川宏:
重要視しているのはECサイトの構築と、国内外への小売商品の販売体制の整備です。北海道から沖縄まで全国をカバーできる販売代理店網の構築に加えて、海外での販売も視野に入れて取り組んでいます。
今年はマレーシアの展示会にも出店を予定しています。また、レース関係者とのつながりを活かし、製品の耐久試験を行ったうえで販売する流れをつくり、今まで市場に出ていなかった製品を展開していきたいと考えています。
特に注力している製品が「ナチュラルベール」です。プロ仕様の仕上がりを自宅でも再現できるこの商品は、高級材料のカルナバロウ30%以上配合、犠牲被膜コーティングにより、ボディの光沢と撥水性を長期間キープ。今後はこのナチュラルベールを中心に、「キレイを維持する」という新たな価値を提供し、ブランド力を高めていきます。
編集後記
「車が好き」という純粋な想いから始まった森川社長のキャリア。現場で培った顧客志向とユニークな発想は、困難な企業改革や独自の洗車哲学、そして未来への大胆なビジョンへと広がっている。本質を追求し続ける森川氏の挑戦は、多くのビジネスパーソンに示唆を与えるだろう。

森川宏/1974年京都府生まれ。国際観光専門学校を卒業後、1994年にMK石油株式会社に入社。営業職としてキャリアをスタートし、エリアマネージャー、課長、部長といった役職を歴任。現場での豊富な経験と実績を積み重ねる。2020年にベストバリューエネルギー株式会社の代表取締役社長に就任し、企業文化の改革や新たな事業展開を積極的に推進している。