
インターネット広告市場において、AIを活用した独自のコンテキストターゲティング技術で成長を続ける株式会社CMerTV。同社は、あらゆる場所の「文脈」を読み解き、生活者にとって価値ある動画広告を届ける唯一無二のプラットフォームを構築している。Webメディアから美容室、歯科医院に至るまで、その領域は幅広い。ラジオ局、大手広告代理店を経て、時代の変化を鋭く捉え、新市場を切り拓いてきた代表取締役社長、五十嵐彰氏に、その軌跡と事業に込める情熱を聞いた。
時代の変化を捉え、自らの手で未来を創るまで
ーー創業前までのご経歴についておうかがいできますか。
五十嵐彰:
大学卒業後、株式会社ニッポン放送へ入社しました。最初の配属はスポーツ部で、プロ野球やメジャーリーグ中継のディレクターを担当。アナウンサーを横で支え、3時間の放送をどう構成するかを考える仕事です。どうすれば分かりやすく伝えられるか、言葉や話の構成を徹底的に磨きました。その後、営業に異動してからは、番組と企業ブランディングを掛け合わせ、リスナーに自然な形で情報を届けるプロダクトプレイスメント(※1)を担当しました。これも非常に面白い仕事でした。
仕事が波に乗っていた35歳の時、2005年にライブドアによる買収騒動が起きました。ある日突然、会社が乗っ取られるかもしれない事態に、社内は「黒船が来た」という雰囲気でした。旧来のメディアと新興勢力の戦いの最前線に身を置く中で、「このままでいいのだろうか」という疑問が日に日に強くなったのです。デジタルの可能性に気づかされることも多く、旧来のメディアのままでは生き残れないと痛感し、新しい知識を得ようと転職を決意しました。
(※1)プロダクトプレイスメント:映画やドラマなどの映像作品に、企業の商品やブランドを自然に登場させることで、間接的に宣伝を行うマーケティング手法
ーー現在の事業を着想された経緯についてお聞かせください。
五十嵐彰:
転職先として選んだのは、博報堂です。ここではプロスポーツのデジタル化などを担当しました。仕事でアメリカへ行く機会も多く、現地メディアとも頻繁に接触する中で、いずれ日本もマスメディアが細分化されると確信しました。当時アメリカでは動画広告のプラットフォームが次々と生まれており、この流れは必ず日本にも来ると考えたのです。
そこで、動画広告市場を創る事業を博報堂内で提案しましたが、当時は理解されませんでした。それなら自分でやろうと、2011年に会社を立ち上げたのです。
「文脈」を捉える唯一無二の動画広告プラットフォーム
ーー貴社の事業について詳しく教えてください。
五十嵐彰:
弊社は主に、スマートフォンやデジタルサイネージなど、デジタルメディアやデジタルデバイスへ動画広告を配信するプラットフォーム事業を展開しています。現在は、美容室や歯科医院など、あらゆる場所にインターネット経由で動画を配信することが可能です。動画の制作から配信、運用まで、ワンストップで行えるのが特徴で、それぞれの場所に合わせたクリエイティブを自社で制作しています。
弊社事業の特徴は、「コンテキストターゲティング」が可能な点です。「コンテキスト」とは「文脈」を意味します。Web上では、AIが記事の内容を瞬時に読み取り、その記事に最も親和性の高い広告動画を配信します。例えば、大谷翔平選手の記事を読んでいる人には、彼が出演するCMが流れるといった具合です。
また、場所にも文脈があります。美容室で「綺麗になりたい」と思っている女性には、その気持ちに寄り添う美容やライフスタイルに関するコンテンツと共にCMを配信します。歯科医院では、治療説明のアニメーションの前後にオーラルケア製品のCMを流すことで、患者さんの信頼を得やすくなるのです。
弊社の経営理念は、メディアに触れるユーザーが、弊社が配信する情報をどれだけ「価値ある情報」と感じてくれるか、その一点に尽きます。情報が氾濫する現代だからこそ、「この情報のおかげで良い買い物ができた」と思っていただけるような、偶然の素敵な出会いを提供したい。その価値を追求することで、社会に貢献していくのが私たちの使命です。
AIと共に描く、価値ある情報が届く未来

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。
五十嵐彰:
弊社が目指すのは、テレビに代わる新しい動画プラットフォームとして、人々の生活のあらゆるシーンに溶け込んでいくことです。その核となるのがAIのさらなる進化です。今後はAIによって、人のモチベーションをより深く、リアルタイムに理解できるようになるでしょう。例えば、美容室で「新しい自分に変わりたい」と期待に胸を膨らませる気持ちや、歯科医院で治療を前にして健康への意識が高まっている心理状態などです。その繊細な心の動きを捉え、その人に本当に寄り添う「価値ある情報」を最適なタイミングで届ける。これを徹底的に突き詰めていきたいと考えています。
このビジョンを、テクノロジーの力でレバレッジをかけ、少数精鋭のチームで実現していく。会社の規模をむやみに追うのではなく、効率的に大きなインパクトを生み出していくことにこだわっていきたいです。
ーーどのような方を求めていらっしゃいますか。
五十嵐彰:
既存の枠組みに疑問を持ち、「もっとこうすれば世の中は良くなるはずだ」という情熱を燃やせる人と一緒に働きたいですね。私たちの事業は、まだ誰も正解を持っていない領域への挑戦の連続です。だからこそ、困難や変化すらも「面白そうだ」と捉えられるような前向きさが不可欠です。
そして、ただ待つのではなく、自ら課題を見つけ出し、新しい価値を創造していく「事業創造力」を持った方を求めています。「会社は従業員のもの」というのが私の本心です。一人ひとりが会社の成長の主役です。従業員とは「共に未来を切り拓いていく対等なパートナー」として、一緒に大きな夢を描いていきたいと思っています。
編集後記
ニッポン放送での経験から、時代の変化を読み解き、博報堂で得た知見を基に新たな市場を創造した五十嵐氏。その根底には、メディアや広告の在り方を常に生活者視点で見つめ、「価値ある情報」を届けたいという純粋で力強い情熱があった。AIという最先端技術を駆使しながらも、その目的はあくまで人間的な「偶然の出会い」や「喜び」を生み出すことにある。同社の挑戦は、情報との付き合い方が問われる現代において、大きな示唆を与えてくれるだろう。

五十嵐彰/1994年、株式会社ニッポン放送入社。編成局で番組制作やスポーツ中継のディレクター、営業局を歴任。2006年、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ入社。スポーツ事業局などでプロデューサーとしてプロスポーツのデジタル化などを促進する。2011年7月、株式会社CMerTVを設立し、代表取締役社長に就任。2022年より情報経営イノベーション専門職大学(iU)客員教授も務める。