※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

東急リゾーツ&ステイ株式会社は、洗濯乾燥機やミニキッチンを備えた中長期滞在ができるホテル「東急ステイ」や、会員制ホテル「東急ハーヴェストクラブ」などを運営する企業だ。また、ゴルフ場やスキー場の運営のほか、別荘事業など、多様な事業を展開している。

同社はコロナ禍で業績が落ち込んだものの、インバウンド需要の高まりを受け、V字回復を果たした。前向きにチャレンジを続け、逆境を乗り越えたエピソードや、多彩な事業を展開する同社ならではの強み、SDGsの取り組みなどについて、代表取締役社長の粟辻稔泰氏にうかがった。

大型施設の開発などで現場経験を積み、リゾート事業会社の経営者へ

ーー社長のこれまでの経歴を教えてください。

粟辻稔泰:
はじめは東急不動産に入社し、関西で住宅の販売と開発に携わりました。その後、東急不動産の商業事業部に異動になり、商業施設の運営や開発などを経験します。

それから銀座の商業施設開業を機に東京へ赴任。東急不動産SCマネジメント株式会社代表取締役社長を2年間、株式会社東急スポーツオアシス代表取締役社長を2年務め、2022年に東急リゾーツ&ステイ代表取締役社長就任した次第です。

弊社はリゾート事業がメインであるため、これまで私が携わってきた業種とは少し違うこともあり、社長に就任した当初は少し不安もありましたね。ただ、東急不動産時代にお客様対応をしていたこと、商業施設の開発や運営に携わる中でテナント企業や地権者の方との交渉なども経験していたこと、この2つの経験をリゾート事業に活かせるのではと考えていました。

こうしたBtoCとBtoBの両方を体験してきた私自身の強みが自信となり、これまでのグループ各社での代表をしてきたときと同じように、新しい挑戦のひとつと捉え、組織のトップとして会社を引っぱっていくことができているのだと思っています。

ーー社長就任後は、どのような取り組みを行ったのでしょうか?

粟辻稔泰:
就任当時はコロナ禍の真っ只中で厳しい状況でしたが、停滞は後退と同じと考え、今できることにチャレンジしようと思いました。

その一つが、ホテルのリニューアルによる業績回復です。コロナ禍の当時は事業の低迷で会社の空気がどんよりとしており、このままでは業績も回復できないと思いました。そこで、お客様に再び来ていただくためにホテルのリニューアルを実施。この試みが功を奏し、来客数が増え、会社も活気づき、ホテル事業やリゾート事業の業績を回復させることができました。

ホテルやリゾート施設の運営、コンサルティングなど多岐に渡る事業を展開

ーー改めて貴社の事業内容と強みについて教えてください。

粟辻稔泰:
弊社は中長期滞在型ホテルである「東急ステイ」の運営や、会員制リゾートホテルを運営するハーヴェスト事業、その他のホテルやゴルフ場・スキー場の運営、複合施設・別荘事業などを手がけています。

このように宿泊特化型のホテルからラグジュアリーホテルまで、幅広いクラスのホテル運営だけでなくリゾート事業も展開している会社は、国内ではあまりないと思いますね。加えて、「東急ステイ」に関しては開発段階から携わっており、開発から運営まですべて自社で行っています。

また、これまで培ったノウハウを活かした事業が、施設運営の受託、マネジメント契約とコンサルティング契約です。運営を受託する場合、経営方針の策定から従業員の雇用、オペレーション業務まですべて自社でお引き受けします。

マネジメント契約の場合、施設の経営責任者を出向させ、運営指導、集客⽀援、事務業務などを行い、早期の経営改善をサポートしています。また、コンサルティング契約の場合、現状から課題や問題点を明確化し、経験豊かなスタッフが商品企画や集客、施設管理、コスト削減などのコンサルティングを⾏っています。

弊社の強みは、多彩な事業を展開している組織だからこそ、多様な人材がそろっている点です。これまで数々の経験を積んできた従業員がいるからこそ、新しいことにチャレンジができる環境が整っています。これからも従業員一人ひとりのアイデアを活かし、挑戦を続けていきたいですね。

訪日観光客の集客に向けた施策と環境保護の取り組みについて

ーーインバウンド需要の増加に伴う取り組みについてお聞かせいただけますか。

粟辻稔泰:
弊社の宿泊事業ではインバウンド率が60%以上に達し、北海道のニセコのホテルに至っては、90%以上が欧米やアジアからのお客様です。こうした流れを受け、より多くの訪日観光客の流入を目指すため、サービスの拡充を強化しています。

たとえば、海外から来られるお客様は複数人で利用される方が多いため、客室を広くするなどリニューアルを進めてきました。また、初めて来日される方も多いので、一度目で強く印象に残るよう、お客様の体験価値を高めることを重視しています。

たとえば「綾ニセコ」では、リフト側の入口付近にスキー道具を管理するスキーバレーデスクを併設しました。お客様はその場で道具のレンタルや返却ができるので、思う存分スキーやスノーボードを楽しんでいただけます。室内は和を基調としたゆったりとした造りで、館内には天然温泉やフィットネススタジオも完備しています。

こうしてお客様の体験価値を高めることで、SNSなどを通じて弊社の魅力を拡散していただき、新規顧客の獲得につなげたいと考えています。

ーー東急グループ全体でSDGsに向けた取り組みをされていますが、貴社の取り組みを教えてください。

粟辻稔泰:
弊社では過密になった林内密度を調整するため、森林の成長に応じて樹木の一部を伐採する間伐を行い、収穫した間伐材を再利用する、森林資源循環事業に取り組んでいます。この活動を始めたきっかけは、蓼科高原にある複合リゾート「東急リゾートタウン蓼科」周辺の環境保護です。

このエリアは別荘地の分譲から40年近くが経ち、広大な森の維持管理など、さまざまな課題を抱えていました。そこで森林の成長を促すために、自生するカラマツの間伐を行うことにしました。

そこで出た間伐材は、ウッドチップとして熱源に利用したりしています。さらに間伐材を弊社が運営するホテルに設置する木製のフレームやPOP立て、アメニティ用のアロマに活用することで、全国のお客様に環境への取り組みを目に見える形にしています。

また、制服の変更に伴い、既存の制服を再利用するアップサイクルも実施しました。他にも、バイオ式生ごみ処理機(コンポスト)の設置や、お客様が収穫された野菜を使った料理を提供する地産地消にも取り組んでいます。今後はSDGsの取り組みをより見える化し、多くの方に弊社の活動を知っていただけるよう、発信を強化する予定です。

お客様を楽しませるだけでなく、自分たちも楽しめる仕事

ーー貴社で働く魅力を教えていただけますか。

粟辻稔泰:
お客様を楽しませる立場である従業員たち自身が、楽しみながら働けることですね。私はサービスを提供する人間が自分が関わる施設の楽しさを知らないと、本物のサービスは提供できないと思っています。そのため、従業員やそのご家族に自社の施設を体験してもらおうと、割引価格で利用できる制度を設けています。

マニュアル通りに説明するのではなく、実際に施設を利用して各自が感じた魅力を伝える方が、説得力が増しますよね。そのため、従業員たちには積極的に弊社の施設で思う存分楽しんでもらい、接客の質の向上に活かしてほしいです。

また、弊社は他社との事業提携を行っているため、あらゆる業界の方と接点を持てるのも魅力ですね。たとえば「東急ステイ渋谷」と「東急ステイ渋谷新南口」では、人気サウナ施設「渋谷SAUNAS」の入場券付きの宿泊プランを展開しています。

また、東急ステイ日本橋がKアート社とタッグを組み、ホテル全体でアートに触れていただけたり、東急ステイ池袋では本をフックとした新たな旅の提案を行うなど、泊まるだけではない体験価値を提供しています。

さらに、ニセコではJAようていと業務提携し、スキー場内のレストランでようてい産じゃがいもを使用した料理を提供しています。このように業態の垣根を超え、幅広い企業と仕事ができるため、自分の視野を広げられるのもメリットです。

自分を起点に楽しさを拡散する人であってほしい

ーー組織を運営する上で大切にしている考えは何でしょうか。

粟辻稔泰:
共に働く仲間が同じ方向を向いて動けるよう、会社のビジョンやミッションを明確にしています。弊社の理念は、「出会うすべての人へ”楽しい”を提供し、すべての人を”ファン”にする」です。

これには楽しさを自ら生み出すこと、自分のファンをつくること、そして自分がファン(扇風機)となって、楽しさを広げていこうといった意味を込めています。従業員たちには共に切磋琢磨できる仲間や多くのお客様と出会い、心から仕事を楽しんでもらいたいのです。

そして、周りの人に楽しみが伝わることで、仲間が楽しく働け、お客様にも満足していただく好循環が生まれればと思っています。

ーー従業員教育の取り組みと、粟辻社長が求める人物像についてお聞かせください。

粟辻稔泰:
入社1〜2年目の従業員を集めた研修を開き、同じ年次の社員が交流できる場を設けているほか、事業部の垣根を超えて意見交換する場も提供しています。また、サービスの向上を目的としたスキルアップセミナーも開催しています。

私が求めているのは、チャレンジ精神がある前向きな人です。お客様にプラスになることは積極的に取り入れたいと思っているので、ぜひチャレンジ精神旺盛な人に来ていただきたいですね。

また、弊社の施設を自ら体験し、「これは良い」と思ったことを自主的にお客様に伝えてくれる方が良いです。自分が良いと思ったものはお客様にとっても価値のあるものです。積極的に弊社の魅力を発信してもらいたいですね。

たくさん経験を積み、いざというときに対応できる人へ

ーー今後のビジョンや、注力テーマについて教えてください。

粟辻稔泰:
お客様の多様なニーズに対応するため、グループを横断し各社がタッグを組むことで、より良い体験価値を提供したいと考えています。業界の垣根を超え、お客様の心をつかむ高品質なサービスを提供していきたいです。

注力していきたいテーマに関しては大きく分けて3つあり、一つは、人材採用の強化です。これまではホテル事業を中心に採用活動を行ってきましたが、今後は開発事業や新規事業部門の採用も行っていきたいと考えています。弊社は事業の幅が広いので、さまざまな部門の仕事を経験することで、会社の全体像を把握してもらえればと思っています。

また、人事評価制度の見直しも注力テーマの一つです。給与や評価基準などを含め、納得感のある人事制度をつくり、社員のモチベーション向上につなげようと思っています。

加えて、DXの推進にも積極的に取り組みたいと考えています。業務を効率化することで、人でしかできない付加価値の高い業務にマンパワーを集中させたいことが理由です。人手不足が課題となる中、DXによって人が必要な部分に注力できる体制を整えていきたいですね。

ーー最後に読者の方々へメッセージをお願いします。

粟辻稔泰:
みなさんには仕事だけではなく遊びも含めて多くの経験をし、多様な考えを吸収してほしいと思っています。なぜなら、幅広い経験や知識があれば、困難にぶつかったときに臨機応変に対応できるからです。特にお客様と接する私たちの仕事は柔軟な対応力が求められますので、状況に応じて対応できる能力を身に付けておくと良いと思います。

固定観念にとらわれず新しいことに挑戦し、既存のやり方を進化させ、お客様に求められる人材に成長していってください。とにかく経験しないことには知見が貯まらないので、嫌なことでもとりあえずやってみる姿勢が大切です。そうすると過去の経験が自分の自信になりますよ。厳しい状況におかれたときも諦めず、前向きにチャレンジする姿勢を持ち続けてください。

編集後記

インタビュー中、「従業員たちには楽しみながら仕事をしてほしい」と話す姿が印象的だった粟辻社長。社長自身が誰よりも仕事を楽しんでいるからこそ、周りにも伝播していくのだと感じた。東急リゾーツ&ステイ株式会社は、従業員たちが自ら魅力を伝えることで、お客様の体験価値を高め、多くのファンを生み出していくことだろう。

粟辻稔泰/1966年京都府出身。1989年に東急不動産株式会社に入社。2013年に商業施設本部関西事業部統括部長に就任。2018年に東急不動産SCマネジメント株式会社代表取締役社長に就任。2020年に旧:株式会社東急スポーツオアシス代表取締役社長に就任。2022年に東急リゾーツ&ステイ株式会社代表取締役社長に就任。