
「デザイン組織の内製化」を支援する独自の定額制サービス「デジナレ」を展開するネクスキャット株式会社。全社員が国内外で「オールリモート」勤務を実践し、月々の労働時間を柔軟に調整できる「ウルトラフレックス」制度を導入するなど、その革新的な組織文化でも注目を集めている。今回は代表取締役社長の千歳紘史氏に、独自の事業価値とその根底にある経営哲学について話を聞いた。
デザインは“外注”から“内製”へ。伴走型支援サービス「デジナレ」
ーー貴社の主要サービス「デジナレ」のコンセプトについてお聞かせください。
千歳紘史:
私たちは「デジナレ」を通じて、事業会社のデザイン組織の内製化を支援しています。単に制作物を受託するのではなく、お客様が必要な時に、必要な分だけデザイン人材を確保できる定額制のサービスです。最大の提供価値は「社員より社員らしく」お客様のビジネスに継続的に寄り添い、サポートする点にあります。
一般的な制作会社のようにプロジェクト単位で関わるのではなく、日常的に発生する細かなデザイン業務から、中長期的なデザイン戦略の策定まで、一貫して支援する関係性を築いています。お客様の事業や文化を深く理解した上で、まるで自社のデザイン部門のように機能することを目指しています。
ーー顧客のデザイン組織を、どのように内製化へと導くのですか。
千歳紘史:
お客様の組織が成長していくフェーズに合わせて、多角的な支援を行います。たとえば、社内にデザイナーが1人もいない段階から始まり、お客様がデザイナーを1名採用されれば、その方がカバーしきれないスキルセットを私たちが補います。さらに組織が拡大すれば、デザインチームのマネジメントを担ったり、マネージャーを育成するための研修を提供したりと、最終的にデザインチームが自立できるまで伴走するのです。
ーーその先には、どのようなビジョンをお持ちですか。
千歳紘史:
これからの時代、企業の存続と価値創造において、デザインは極めて重要な「武器」になると考えています。営業やシステム開発がそうであるように、デザインもまた企業の中核機能として「インストール」されるべきです。私たちのサービスを通じて、お客様がデザインを単なる「外注するもの」ではなく「内製化すべき重要な機能」として捉え、自社の力として活用できるようになる。それが私たちの描く未来です。
国境も時間も超える。「自立と共生」が支える働き方

ーー貴社では、非常にユニークな働き方を実践されているとうかがいました。
千歳紘史:
はい。全社員が「オールリモート」と「ウルトラフレックス」という働き方を実践しています。オールリモートによって、社員は日本全国、さらにはイタリア、スペイン、タイ、オーストラリア、ベトナムといった海外にも点在しており、どこに住んでいても一緒に働ける世界観が実現できています。
ーー「ウルトラフレックス」とは、どのような制度ですか。
千歳紘史:
固定の定時や共通の休日はなく、「1ヶ月160時間勤務」といった考え方にもとらわれません。その代わり、「3ヶ月で480時間」という総労働時間を、個々のライフスタイルや状況に応じて月ごとに柔軟に調整できる制度です。これにより、子育てや介護、あるいは農業と別の仕事を両立する「半農半X」のような働き方を希望する方にも対応し、さまざまなライフステージにある方が、正社員として安定して働き続けられる環境を提供しています。
ーーその柔軟な働き方は、どのようにして成り立っているのでしょうか。
千歳紘史:
「属人性を極力排除する」というワークプロセスの徹底が土台にあります。業務の途中経過や背景、議事録などを徹底してドキュメント化し、オンラインでのコミュニケーションと組み合わせることで、誰もがいつでも情報を把握し、仕事を引き継げる仕組みを構築しています。これにより、時差のある海外メンバーともスムーズな連携が可能になるのです。
ーー社員の皆さんには、どのような姿勢が求められますか。
千歳紘史:
私たちが大切にしているのは「自立と共生」という価値観です。一人ひとりが自律的に仕事を進める力と、チームとして共に価値を創り出していく姿勢の両方を求めています。これは弊社が、採用段階から重視しているポイントでもありますね。
事業成長はあくまで“結果”。文化の醸成を深める経営哲学
ーー創業の背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
千歳紘史:
根底にあるのは、「経済の成熟や人口減少社会において、誰もが幸せな会社はつくれるだろうか?」という私自身の問いです。
過去に経営してきた会社で行ってきた働き方、そして自身がリードしてきた従業員の働き方は本当に幸せだったのだろうか?これまでも「社員ファースト」を掲げ、社員のことを本気で考えてきたことに嘘偽りはないものの、全社一丸となって成長を目指すことが必ずしも全ての人の幸せにはつながらないのではないか?という疑問が創業以前より湧き上がりました。
より多様な働き方を受け入れ、必ずしも成長や自己実現を第一優先とせず、個々の彩を活かした組織を創りたい。より多くの人が幸せになれる組織のあり方を追求したいと強く思うようになりました。
ーー経営において、最も大切にしていることは何ですか。
千歳紘史:
「文化を確立し、より良くすること」です。私にとって、会社の売上や成長はあくまで「結果」であり、文化を発展させるための「源泉」という位置づけにあります。この考え方が、明確な定量的目標をあえて設定しないという現在の経営方針にもつながっています。
ーー採用においては、どのような人材を求めていますか。
千歳紘史:
何よりも「他者を尊重できる人」です。「自分の腕を見せたい」という個人主義的な志向が強い方よりも、チームという集団の成果を高めることに喜びを感じ、貢献したいと考えてくださる方と一緒に働きたいと思っています。
ーー今後の成長については、どのようにお考えですか。
千歳紘史:
具体的な数値目標はありませんが、私の中での「予感」として、2030年には300人規模の組織になっているだろうと考えています。採用活動も積極的に行っており、2026年からは新卒採用も開始します。すでにベトナムからの海外インターン生を新卒として迎える予定もあり、今後も多様な人材に仲間になってもらいたいですね。
編集後記
売上や規模の拡大は「結果」であり、経営の目的は「文化の探求」である。千歳社長の言葉は、利益追求が至上命題とされがちなビジネスの世界において、本質的な問いを投げかける。社員一人ひとりの幸せを起点とした組織は、国境や時差、ライフステージの壁を乗り越える革新的な働き方を実現し、顧客には「社員以上」の伴走を約束する。同社の挑戦は、これからの社会における企業と個人の理想的な関係性、そして新しい資本主義の形を指し示しているのかもしれない。

千歳紘史/1984年、山形県出身。2007年早稲田大学商学部卒業後、大手デジタルマーケティング会社、不動産ポータルサイト運営会社での経験を経て独立。経済成熟・人口減少社会における経営の在り方を模索し、「誰もが幸せであれる会社はつくれるのだろうか?」という問いに答えたいとネクスキャット株式会社を創業。「幸せに働く。そしてみんなをずっと幸せにする。」を経営理念に掲げて組織運営する。