※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

ホウライ株式会社は1928年の創業以来、那須塩原市を中心に農牧場経営や林業、不動産業などさまざまな事業を手がけてきた。間もなく創業100年を迎えようとする今、小野直樹社長が注力しているのは広大な牧場とゴルフ場の事業改革である。自社の利益だけでなく、地域振興や地球環境改善まで広い視野で見つめる小野社長。その目指すビジョンとはどのようなものか、深掘りした。

長年勤めた金融畑での事業改革経験を買われ、牧場やゴルフ場を経営する企業の社長に

ーー社長就任に至るまでのご経歴を教えてください。

小野直樹:
大学卒業後の1984年に三井銀行(現:三井住友銀行)に入行しました。その後、バブル期を経て、その崩壊とともに、金融業界は非常に厳しい状況になり、山一證券が破綻するなど業界全体が生き残りをかけて戦っていた時代に突入しました。私たちも、会社の存続をかけて2001年に合併を行い、利益を追求しながら、未来のために準備を進めるという状況でした。

合併において重要視されていたのが、「ベストプラクティス」の実践です。これは、旧さくら銀行と旧住友銀行、双方の業務から、お客さまにとって最良のものを選択することを指します。カルチャーの異なる組織が一つになるために、毎日夜中まで議論を重ねたのを覚えています。

その後、2019年に株式会社セディナ(現:三井住友カード株式会社)の代表取締役社長に就任しました。当時は、キャッシュレス化が声高に叫ばれ、銀行系や信販系ではないIT系の決済サービスがマーケットに参入してきた時期です。新たなライバルと戦うために、こちらもITを活用してローンの与信審査時間を30分から最短30秒に短縮するなど、ビジネスモデルの変革、業務改革と体質強化を行いました。

この改革が認められたのか、2024年4月にホウライの副社長に任じられ、12月に代表取締役社長に就任し、現在に至ります。

「循環型酪農」から「カーボンニュートラルな酪農」へ、さらなる進化を目指す

ーー貴社の事業内容を教えてください。

小野直樹:
不動産の賃貸管理や損害保険代理店業務なども行っていますが、注力しているのは「那須千本松牧場」の運営です。1893年に開設された牧場なのですが、2020年からリブランディングに着手し、2025年4月にグランドオープンしました。また、ゴルフ事業では「ホウライカントリー倶楽部」「西那須野カントリー倶楽部」という2つの名門コースを運営しています。

ーー金融機関からまったく異なる分野の社長に就任したときは、どんな思いがありましたか。

小野直樹:
当時、社長(現会長)の寺本が、「千本松改革プロジェクト」というリブランディングに取り組んでいるところでした。その取り組みが、私が前職で行ってきたことと近いと分かり、ぜひ改革路線を引き継いで推進していこうと決意したのを覚えています。

新たに「PURE MILK FARM」というブランドコンセプトを掲げ、ロゴの刷新、老朽化したレストランと売店の建て替え、そしてランドスケープの整備を行いました。さらに、強みである生乳を生かしたスイーツ開発にも力を入れており、選び抜かれた乳牛の生乳だけでつくる1個1,000円(税抜)の高級アイスクリーム「千本松牧場96撰アイスクリーム」なども生まれています。

ーー貴社の理念などについておうかがいできますか。

小野直樹:
当牧場は、明治の元勲・松方正義公によって開設されました。その時のコンセプトが「自然との共生」であり、この理念は130年経った今でも受け継がれています。

代表的な取り組みが「循環型酪農」です。たとえば、現在牧場にいる牛たちが食べる粗飼料の9割は、牧場内で育てた牧草やコーンで賄っています。そして、その飼料を食べた牛の糞を堆肥として畑に還し、また飼料を育てる。この「循環」のサイクルを徹底しています。

牛のゲップには、二酸化炭素の25倍もの温室効果をもたらすメタンガスが含まれているとも言われています。当牧場は、総面積825haのうち約400haは森林で構成されており、この広大な緑地が、牛が発生するメタンの一部を吸収しています。こうした「自然との共生」をさらに一歩進め、私たちは今、「カーボンニュートラル」という新たな挑戦にも取り組み始めています。

その一環として、牛の飼料に添加物を混ぜることでメタンの発生を抑える手法について検証しています。研究している企業や那須塩原市とも提携しながら、当牧場で実証実験をしながら開発していきたいと考えています。

「従業員がつくる会社」として変革を続けていきたい

ーー他にも今後の展望はありますか。

小野直樹:
広大な牧場や森林をさらに活用したいですね。現在、牧場に小学生を受け入れて、とうもろこしの種まきなどの体験活動をしているのですが、この取り組みを拡げて、日常的に行える環境を整備したい。自然体験や環境教育の場として、また、雇用の場として牧場の森林を活用できないかと考えています。

それからゴルフ場事業でも、新たな展開があります。2つのゴルフコースともパリ五輪の舞台を設計した世界的な巨匠、ロバート・ボン・ヘギーによる本格的なチャンピオン・コースです。少子高齢化でゴルフ人口の減少が予想される中、ここで原点に立ち返り、コースの価値に見合った投資を行い、コースコンディションを改善するとともに、プロモーション手法の多様化・高度化を図っています。。6月には男子プロゴルフトーナメントの「JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP by サトウ食品2025」も開催し、その価値はますます高まっていくでしょう。2026年の春からは、更にリゾートコースとしての側面をより強調した展開も始めようと計画しています。

ーーそれらを実現するために、何が必要だとお考えですか。

小野直樹:
やりたいことに対して、専門家が足りていません。弊社の従業員は、新卒入社の社員やキャリア採用で入社した社員、そして私のような銀行・損保会社のOBで構成されています。これまで、牧場の商品企画開発などもそのメンバーでやってきました。ですが、やはり商品企画やマーケティング、製造管理や品質管理ができる専門人材が必要です。

また、ECサイトにもっと注力したいので、EC含めたITスキルの高い人材も求めています。一方、牧場では来場客に地元の文化や物産を紹介するような取り組みも進めるつもりです。そのため、アーティストや生産者を新たに開拓し、良好な関係を築ける人材も求めています。

弊社のように変革し続けている会社では、いわば「従業員自身が会社をつくる」ことができます。今日のホウライと明日のホウライは同じ企業ではありません。ですから、新しい人材に入社していただき、「明日のホウライ」を一緒につくっていきたいですね。

編集後記

金融畑から牧場経営というまったく異なる事業への転身は、大きな苦労もあったと思うが、小野社長のお話からはそのマイナス面は感じられない。むしろ、「事業を改革し続ける」「顧客のために最善を目指す」という共通点を見出してチャレンジする、プラス思考が印象的だった。この会社で、この社長のもとでならさまざまなアイデアが実現できるのではないか。そんな希望を抱かせてくれる存在として、多くの方に注目してほしい企業だ。

小野直樹/1961年生まれ。1984年、広島大学経営学部卒後、株式会社三井銀行(現:三井住友銀行)に入行。2017年、株式会社三井住友フィナンシャルグループ専務執行役員に就任。以降、2019年、株式会社セディナ(現:三井住友カード株式会社)代表取締役社長、2020年には合併によりSMBCファイナンスサービス株式会社(現:三井住友カード株式会社)代表取締役社長に。2024年4月、ホウライ株式会社に副社長執行役員として移籍。同年10月、社長執行役員COO(ゴルフ事業本部担当兼ゴルフ事業本部長)を経て、同年12月より代表取締役社長兼社長執行役員COOゴルフ事業本部担当兼ゴルフ事業本部長に就任。