※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

2025年に創業450周年を迎える日本香堂グループは、「毎日香」「青雲」などのお線香を販売し、日用品業界でトップクラスの売上を誇っている。そのため、国内では「日本香堂=お線香」というイメージを持たれがちだが、海外においてはホームフレグランスの分野で日本の香文化を発信する存在として高く評価されている。

今回、グループの中核的存在である株式会社日本香堂ホールディングスの代表取締役社長、小仲正克氏に、時代の変化にどのように対応し現在のポジションを得たのか、今後注力していくテーマは何かをうかがった。

日本香堂に入社し、商品開発の楽しさに目覚める

ーー小仲社長の経歴を教えてください。

小仲正克:
大学卒業後、お金の流れを理解し、さまざまな方と出会いたいとの思いから、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行しました。5年半勤めたあと、父に呼び戻されて株式会社日本香堂に入社。家業を継ぐことは幼い頃から意識していましたが米国で経営学を学びたいと話しましたが、結局退社した翌日に入社する事になりました。

ーー入社後、社長に就任されるまでの経緯を教えてください。

小仲正克:
研究室に配属され、線香をはじめとする商品を開発していたのですが、楽しくて仕方ありませんでした。銀行の主な業務は、資金を必要とする組織体に対し、融資を行う事が主体でした。研究室の仕事は主体的に商品をつくり、購入という形でお客さまから評価される。新鮮でした。

入社3年目以降、新市場開発や営業などを経て、32歳で代表取締役社長に就任しました。早すぎると最初は固辞しましたが、会社の期待に自分がどこまで応えられるか挑戦するなら早いほうがいいと判断しました。今振り返ると、よかったと感謝しています。

香文化がフレグランスとして認知されたことが転機

ーー事業内容を教えてください。

小仲正克:
弊社は日本の香文化を源流に、ホームフレグランス、飲食、不動産を事業とするグローバル企業です。日本香堂グループは創業450年の「香十」を核とし、国内外に13社を展開。常に良い時代ばかりではありませんでしたが、時代に応じて変化を重ねながら前進してきました。

ーー時代に応じた変化とはどのような取り組みですか。

小仲正克:
たとえば、国内の販売が厳しかった時代に海外展開し、1965年にニューヨーク、1971年にロサンゼルスに進出しました。当時のヒッピー文化にお香はフレグランスとして受け入れられ、日本の仏教で使われるものというイメージが変わりました。企業としての転機は、入社間もない1996年に、フレグランスの本場フランスで、日本で代理販売をしていたESTEBAN社を買収したことです。

2000年前後には、アメリカのファッションブランドや、欧州のラグジュアリーブランド向けにプライベートブランドのお香をつくらせて頂けるようになりました。これがお香がフレグランスのアイテムとして認知される転換点だったと受けとめています。その後、米国で老舗のインセンスブランドを買収し、子会社も増え、広い視野で事業運営するためにホールディングスを設立しました。

2018年にはフランスで、最新鋭のホームフレグランス工場を立ち上げました。EUは規制が厳しい上にルールが頻繁に更新されますが、研究開発・製造を行う拠点があることで、その変化に対応しています。

新しいグループアイデンティティに込めた思い

ーー今後貴社が注力するテーマを教えてください。

小仲正克:
3点あります。1点目は、お香をご供養のアイテムからホームフレグランスへと広げることです。そのために海外での研究開発・製造の連携を進めていきます。

2点目は、逆のベクトルになりますが、よりローカルに入っていくということです。アメリカ、EU、アジアなど各地域のお客さまの特性を深く理解した商品を開発し、最適地で生産し、マーケティングしていくことを大切にしたいと考えています。グループの連携はもちろん、社員の現地採用も必要になるでしょう。

3点目は、ハイエンドな質感を伝えるブランディングです。創業450年を迎えた2025年、グループ全社の幹部と対話を重ね、お客さまや香りと共に時空を旅できたらとの思いを込め、「香りと旅する」というグループアイデンティティを掲げました。伝統文化をコアにしつつ、特に若年層の方々に対しては、お香やフレグランスが持つスピリチュアルな要素、奥行きのある質感を伝えることを意識しています。

プロジェクトの主役となり、世にない商品を生み出してほしい

ーー最後に、貴社が求める人物像を教えてください。

小仲正克:
弊社の大切にしているアイデンティティの一つに「アドベンチャー精神」があります。肩書きなどにとらわれず、多くの人とプロジェクトベースで関わり、世の中にないものを生み出せる人を求めています。たとえば、『KITOWA』というフレグランスブランドは、日本の和木に着目し、少数の社員が中心となり、メゾンフレグランスブランドを立ち上げました。

日本香堂グループには、世代や部門を超えたさまざまなプロジェクトが現在も多数動いています。弊社を舞台に、プロジェクトの主役の一人として参加し、積極的に推進していく人がこれから羽ばたく人になるでしょう。

編集後記

日本を代表する香り業界の老舗企業でありながら、時代の変化に対応し続ける日本香堂。線香がフレグランスとして認知されるよう奔走する小仲氏の原点は、研究室で知った商品開発の面白さかもしれない。「香りと旅する」という新しいグループアイデンティティを掲げ、より多くの人たちに「香りのある生活」を提供したいと願う日本香堂グループの今後の飛躍に期待したい。

小仲正克/1967年生まれ、東京都出身。立教大学経済学部を卒業後、株式会社三菱銀行に入行。1995年、東京三菱銀行(本店営業推進部)を退行し、株式会社日本香堂に入社。研究室、R&D事業部を経て1998年に取締役新市場開発本部長に就任。1999年、常務取締役に就任。2000年、代表取締役社長に就任。2011年に株式会社日本香堂ホールディングス設立、専務取締役に就任。2015年に同社の代表取締役社長に就任し、現在に至る。