
工場の配管用バルブ専門商社として70年以上の歴史を刻む、フシマン販売株式会社。同社は今、その枠を大きく超え、ユニークな事業展開で成長を続けている。その舵取りを担うのが、代表取締役社長の米田岳史氏だ。「0から1を創るより、10あるものを100にする方が面白い」という哲学を持つ同氏。若き日の海外事業立ち上げで培った誠実さを武器に、会社の新たな可能性を切り拓く、その軌跡に迫る。
家業を継ぎ、経営者の道を選んだ理由
ーー貴社へ入社される前までのご経歴について、お聞かせいただけますか。
米田岳史:
大学生時代、スノーボードに夢中になり、カナダの山の雄大さに感動した経験がありました。そのため、卒業後は海外へ留学したいと考えていました。当時は今ほど翻訳機能も発達していませんでしたので、「英語が話せたら格好いいかな」というくらいの軽い気持ちでカナダへ渡りました。
しかし、そこでは自分が想像していた以上に、得るものがたくさんありました。英語が話せるようになったのはもちろんですが、それ以上に日本と違う環境で生きる面白さを知りました。結果として、海外で生活することへの抵抗感が全くなくなりました。それが、後の中国での事業立ち上げに踏み切れたきっかけになっています。若いうちに海外へ出たことで、キャリアの可能性が広がったと感じます。
ーー貴社へ入社された経緯を教えてください。
米田岳史:
弊社は祖父が創業し、当時は父が社長を務めていました。2人の姿を見て育ったので、「いつかは自分も経営者になろう」と自然に考えていました。その時、ゼロから会社を立ち上げるか、家業を継いで大きくしていくか、2つの道で悩んだのですが、私自身、ゼロから何かを生み出すよりも、10あるものを100にする方が面白いのではないかと思ったのです。
それに加え、父から「中国で事業を考えている」と聞かされていたことも大きな決め手となりました。大学卒業後に留学したカナダでの生活を通して、海外という日本と全く違う環境で挑戦することに面白さを感じていました。そのため、父の話を聞いた時に「自身の海外経験を活かせる絶好の機会だ。ぜひ挑戦してみたい」と強く思ったのです。こうした複数の思いが重なり、弊社への入社を決めました。
「目先の利益より誠実さ」中国で築いた経営の礎
ーー入社後の取り組みについて、お聞かせいただけますか。
米田岳史:
ある日本のバルブメーカーが、中国での製造を検討していました。父は中国語が堪能で、現地のコネクションもあったため、中国の加工メーカーと日本のバルブメーカーをつなぐプロジェクトが立ち上がったのです。その先陣を切る役割として、私が中国へ行くことになりました。
中国では、ビジネスの根幹となる「誠実さ」の重要性を、身をもって学びました。当時お世話になっていた機械加工メーカーの社長は、中国国内だけでなく日本の大手企業とも取引があり、その姿から多くのことを教わりました。「品質を追求し誠実に仕事をすれば、価格が高くても『あなたから買いたい』と選んでくれる企業は必ずある」。その言葉通り、彼は常に品質を追求し、お客様一人ひとりに真摯に向き合うことで、国境を越えた厚い信頼関係を築いていたのです。
その姿を間近で見て、「真面目に、誠心誠意仕事に取り組むことこそ、ビジネスの王道なのだ」と強く感じました。この経験は、祖父から父へと受け継がれてきた「仕入先様を大切にし、お客様と真摯に向き合う」という理念の正しさを再認識する機会となり、現在の私の経営の礎にもなっています。
バルブからパソコンまで。顧客のニーズに応え続ける
ーー改めて、貴社の事業内容についてお聞かせください。
米田岳史:
弊社は、祖父がバルブメーカー「フシマン」の大阪営業所を独立させて始まりました。そのため、当初からフシマン製品の販売が事業の核でした。そこから徐々に他社メーカーのバルブも扱うようになり、近年は計測器の販売にも力を入れています。これはバルブの作動を確認するための温度計や圧力計などです。計測器は安価なものも多いため、お客様との最初の接点になりやすいという利点があります。また、「バルブと一緒にどうですか」と提案しやすく、提供価値の幅を広げるきっかけになりました。
最近ではパソコンや机、経口補水液まで販売しています。これはある営業担当のエピソードがきっかけです。お客様の「コピー用紙を用意する事は出来ますか?」というご要望に、「私たちで良ければご用意させていただきます」と提案したのが、その始まりです。このように「お客様が求めるものなら何でも売る」というのが、商社の面白さであり、強みだと考えています。
そして、もう一つの事業の柱が貿易部です。こちらでは、ドイツの「スタビラス社」の国内代理店を務めています。私たちは世界トップクラスのメーカーが製造するガススプリングを扱っています。これは車のトランクなどをスムーズに持ち上げる部品で、建設機械や農業機械、ATMなどにも使われています。
メーカー機能と組織強化で描くフシマン販売の未来像

ーー今後の展望については、どのようにお考えですか?
米田岳史:
製品面では、商社としての活動を広げつつ、メーカー機能も強化していきたいと考えています。現在は計測器メーカーと協業し、商品開発を進めています。将来的にはお客様の「こんなものがほしい」という声を形にしたいです。そして、オリジナルブランド製品の企画・販売を目指します。
組織面では、営業担当がより営業に専念できる体制を築きたいです。営業サポート部などを強化し、会社全体のレベルアップを図ります。また、優れた販売事例は社内で共有・展開していきます。
ーー今後、どのような人材を求めていますか。
米田岳史:
人柄を重視しており、学歴は問いません。ただ、現在は社員教育に十分な時間を割くのが難しい状況です。そのため、ある程度の営業経験がある方、年齢でいえば、20代後半から30代中盤くらいが理想です。これからの会社を担ってくれるような方に、仲間になってほしいと思っています。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
米田岳史:
商社の強みは、どんな商品でも扱えることだと思います。私自身、10年前はパソコンや飲み物を売る会社になるとは思っていませんでした。
また、弊社は和気あいあいとしながらも、守るべき秩序はしっかり守る社風です。新しい挑戦を否定する人はいません。だからこそ「フシマン販売」というプラットフォームを活用し、ご自身のやりたいことを実現してほしいと願っています。
編集後記
「0から1を生み出すより、10を100にする方が面白い」米田氏のこの言葉は、事業承継をポジティブな挑戦と捉える力強い意志を感じさせる。バルブ専門商社という安定した基盤に甘んじることなく、社員の自発性を尊重し、柔軟な発想で顧客の信頼を掴む。その根底には、先輩方から受け継いだお客様、仕入先様への感謝の気持ちと信頼関係に加えて、中国での経験で培われた「誠実さ」という揺るぎない信念がある。既存の商流を尊重しつつ、新たな価値創造に挑む同社の未来が楽しみだ。

米田岳史/1980年奈良県生まれ。大阪商業大学を卒業後、カナダへ1年間語学留学。帰国後にフシマン販売株式会社へ入社し、中国の協力会社に出向する。中国でビジネスを学んだ後に帰国。同社にて営業部として従事した後、2016年5月に代表取締役社長就任。現在は、グループ会社である大岡産業株式会社の代表取締役と、常州秀岳貿易有限公司の取締役も兼任している。