※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

共創や地域コミュニティづくりの重要性が高まる一方で、その仕組み化や持続可能な運営モデルは多くの企業や自治体にとって依然課題となっている。そうした中、株式会社ATOMicaは、全国の拠点にコミュニティマネージャーを育成して配置することで、人と人がつながる「共創の循環」を仕組みで支える独自モデルを確立。学生時代に起業経験を持つ代表取締役の嶋田瑞生氏に、その歩みと今後の展望を聞いた。

ゼミのプロジェクトから始まった「共創」の原体験

ーー学生時代に起業されたきっかけと、その経験から得た学びについて教えてください。

嶋田瑞生:
大学1年生のゼミで取り組んだ「経営を体験するボードゲーム」を制作する授業を受けたことが、起業のきっかけです。学生が自ら財務諸表を完成させるシミュレーションができ、大きな刺激を受けたのです。そのゼミで一緒だった友人から「これをもっと発展させてみないか」という誘いを受けて、起業を決意しました。

そして、教育ゲームのようなものを開発し、中小企業の方に販売する中で、地域の方や経営者に向けたイベントを企画、運営するようになったのです。会社員以外の働き方を知らなかったため、「この方々はどうやって生計を立てているのだろう?」と純粋な興味を抱くと同時に、自由で幸せそうに仕事をしている方に出会うたびに、価値観が大きく揺さぶられました。地域と深く関わる中で、「人との出会いが人生を動かす」ことを実感しましたね。

ーー起業後の話もお聞かせください。

嶋田瑞生:
友人から誘われたことで起業しました。しかし、起業家としてのキャリアに固執していたわけではなかったため、私自身の可能性を広げたいと考え、大学卒業後は就職することにしました。

株式会社ワークスアプリケーションズに入社し、エンジニアとしてプロダクト開発に携わりました。最初はボタン1つの設計から始まり、徐々に画面、アプリケーション全体へと担当範囲が拡大していきました。やがて事業全体へと視野が広がっていき、「自ら事業をつくってみたい」という思いが芽生えたのです。そして転職活動中に共同創業者と出会い、ATOMica創業を決意しました。

コミュニティマネージャーを活用し、人と人をつなぐ場と仕組みで共創を事業化

ーー貴社ではどのような事業に取り組んでいますか?

嶋田瑞生:
事業は大きく2つの柱があります。1つは全国約50拠点のコワーキングスペースの企画・運営です。あらゆる組織や地域において「頼り、頼られる」関係性を広げていくため、弊社が運営する全施設に人と人の関係性を結びつけるプロフェッショナルである「コミュニティマネージャー」を常駐させています。

もう1つの柱が、プラットフォーム事業です。これは、「コミュニティマネージャー」が各現場で集めた「願い=WISH」をデータとして蓄積・可視化し、それを起点に新たな事業やプロジェクトを創出することで、「つながり=KNOT(ノット)」を生み出していく事業です。

たとえば、地域を舞台に人と企業をつなぐ「Coyage(コヤージュ)」では、地元で就職したいと考える学生を、その地域の中小企業の長期インターンとして結び付けるプログラムや、自治体や企業と連携したDX支援事業もプラットフォーム事業から生まれています。

ーーそうした事業を展開する中で、どのような強みがあるとお考えですか?

嶋田瑞生:
偶然の出会いや個人的なつながりを、コミュニティマネージャーの活動と、それを支える組織的な仕組みによって、再現性のある事業モデルとして成立させている点です。人と人がつながる瞬間に価値があると考え、その価値を偶発性に頼らず意図的に生み出して構造として社会に組み込むことができるところに、他社にはない特徴があると思います。

地域に「共創の輪」を広げ、人をつなぐ担い手の育成に力を注ぐ

ーー今後、事業としてどのような展開を目指していますか?

嶋田瑞生:
私たちは今後、全国にコミュニティマネージャーの存在を広げたいと考えています。その取り組みの一つが「コミュマネアカデミア」です。未経験の方でも参加でき、研修の一部を体験してもらうことで、コミュニティマネージャーというキャリアの魅力を感じてもらえる機会を提供しています。今では大学や自治体からも注目され、「うちにも来てほしい」という声をいただくことも増えています。

ーー採用ではどのような人材を求めていますか?

嶋田瑞生:
私たちのミッションは「頼り頼られる関係性を増やす」ことです。その実現には「人への強い興味・関心」が不可欠です。特にコミュニティマネージャーには、誰かの願いに真摯に耳を傾け、それを別の誰かの可能性とつなげていく役割があります。そうした出会いにやりがいを感じ、日々変化する現場を楽しみ柔軟に対応できる方に、ぜひ仲間になっていただきたいですね。

編集後記

取材を通じて強く印象に残ったのは、嶋田氏の「誰かと一緒にやること」への揺るぎない信頼と、共創を「仕組み」として社会に届けようとする姿勢だ。偶然の出会いを価値に変え、それを再現性のある事業に昇華するという発想に、人と仕組みの両方への情熱を感じた。その思いを体現する嶋田氏とコミュニティマネージャーたちの活躍に、今後ますます注目していきたい。

嶋田瑞生/1994年、仙台生まれ、東北大学卒業。大学1年生の時にGamification分野で起業し、共創の面白さに気づく。新卒ではワークスアプリケーションズでエンジニアとして経験を積み、2019年にATOMicaを創業し、代表取締役 Co-CEOに就任。人の「願い」に耳を傾け人と人を結び付ける「ソーシャルコワーキング®」を提唱し、全国で共創のきっかけと仕組み構築を目指している。