
子どもたちが夢中になれるプログラミング教材で、教育業界に新たな風を吹き込むエデュケーショナル・デザイン株式会社。「教育×IT」を軸に、独自のオンライン学習コンテンツの企画・開発を行い、全国のスクールへ提供している。
大手広告代理店から転身した代表取締役の脇田真太郎氏は「社会貢献性・収益性・海外展開」の3つを理念に同社を設立した。「学びの多い人生は豊かだ」という確信を原動力に、子どもたちの未来をデザインする同氏の情熱と事業の核心に迫る。
手触り感のある事業を 社会貢献と収益性の両立を目指した原点
ーー教育事業を立ち上げようと決意された原点についてお聞かせください。
脇田真太郎:
前職では大手広告代理店に勤務し、大規模なマーケティングプロジェクトに携わることにやりがいを感じていました。しかし、矛盾しているようではありますが、できることが増えていくにつれて、仕事の成果を実感しにくい「手触り感」のなさを感じていたのも事実です。その気持ちを埋めるかのように、週末はNGOのボランティア活動に参加していました。
ーーどのような考えを経て、起業へと至ったのでしょうか。
脇田真太郎:
会社を辞めてから「本当に自分がやりたい事業は何なのか」を突き詰めて考えました。その中で見えてきたのが「直接的な社会貢献性の高さ」「継続的な収益性」「海外展開の可能性」という3つの軸です。
そして「豊かな人生とは何か」と自問自答を繰り返す中で、「学びの多い人生こそが豊かさにつながる」という確信に至りました。その価値を多くの人に届ける側になりたいと考えた時、3つの軸が交差する事業が「教育×IT」だったのです。
静岡から全国へ ユーザーの声と共創が生んだ独自の強み

ーー2013年の創業当時、どのようなことから事業を始められたのでしょうか。
脇田真太郎:
地元の静岡で、プログラミングスクールからスタートしました。当時はまだプログラミング教育の価値が広く認識されていなかったものの、私はその価値が重要になると信じていました。当初はパソコン20台に対して生徒が3人という小さな規模でしたが、その3人が口コミで評判を広げてくれたのです。
ーー数ある地域の中から、創業の地に静岡を選ばれた理由をお聞かせください。
脇田真太郎:
最も大きな理由はコスト面です。もちろん、都内の方が情報感度は高いかもしれませんが、事業を継続させるためには現実的な判断が必要でした。静岡で実績を伸ばしていく中で、生徒さんや保護者の方々、地元の金融機関などの多くの方々との出会いに恵まれました。利用者の声を直接聞き、サービスに反映させられたことが大きな力になりました。
ーーJALやディズニーなど、業界のトップ企業から選ばれる貴社の強みは何でしょうか。
脇田真太郎:
楽しく学べることを教育コンテンツの軸に据えている点です。マインクラフトやディズニーといった、子どもたちが夢中になる世界観を取り入れたプログラミング教材を採用し、豊富なコンテンツを揃えています。
そしてもう一つの強みが、リアルとオンラインを組み合わせたコンテンツ開発体制です。まず自社で開発したコンテンツを、静岡の直営校で試してもらいます。そこで得た意見を基に改良を重ね、完成度を高めたものを全国約300校の提携校やオンライン学習教材として展開するのです。利用者の皆さんと共に改善できるこのサイクルが、質の高いコンテンツを生み出す源泉です。
優秀な人材が輝くフルリモートで実現する理想の組織
ーー社員とのコミュニケーションで、大切にされていることはありますか。
脇田真太郎:
弊社では、フルリモートを導入し、個々の自己管理能力を尊重しています。優秀な人材ほど、時間や場所に縛られずに能力を発揮したいと考えるものです。
その自由を確保する一方で、コミュニケーションが希薄にならないよう配慮しています。業務時間内にゲーム大会を開いたり、社員全員でリゾートワークをしたりと、意図的に交流の機会を設けています。この社風はコロナ禍以前から続くもので、スピード感を持って事業を進める上で欠かせない要素です。
ーー社員の方々のマネジメントで特に意識されていることは何でしょうか。
脇田真太郎:
一人ひとりの個性や能力をよく観察し、その人に合った距離感でマネジメントを変えることです。細かく管理した方が実力を発揮できる人もいれば、大きく任せた方が成果を出せる人もいます。まずは企業文化との相性を重視して採用し、その人が最も輝ける環境や任せ方を見極めていきます。
特にチームをまとめるリーダー層の育成には力を入れています。彼らが覚悟を持ってチームを率いてくれることが、組織全体の成長に不可欠だと考えているからです。
IT教育を当たり前に リアルとオンラインで描く次世代の学び
ーー現在、特に注力されている事業領域やプロジェクトについて教えてください。
脇田真太郎:
オンラインサービスとリアルな教室の両輪で、ユーザー層を拡大していくことに注力しています。
リアルな教室に関しては、競合となるプレイヤーが増えているため、他社との差別化が重要です。そのために、ディズニーやマインクラフト、Robloxといった、弊社だけがそろえられる独自性の高い教材ラインナップをさらに活用し、明確な強みとして打ち出していきます。
一方、オンラインの月額制サービスは、気軽に始められる反面、学習の継続が課題になりがちです。こちらは講師を介さないソフトウェアドリブンの仕組みを強みに、価格競争力を高めるとともに、ユーザーが楽しみながら学習を続けられるような仕組みづくりに取り組んでいます。
この両輪の取り組みを通じて、これまで十分にアプローチできていなかったミドル層の方々にもサービスを届け、提携する民間の教育機関を軸に個人のお客様向けに展開し、日本全国、そして海外へと広げていく方針です。
ーー最後に、貴社が目指す教育の未来像についてお聞かせください。
脇田真太郎:
私たちのミッションは、これからの社会で不可欠となるIT領域の学びを、日本の子どもたちにとって「当たり前」にすることです。他国に比べて遅れをとっているこの分野で、大企業や行政とも連携しながら社会全体のスタンダードを引き上げたい。その一端を担う存在でありたいと考えています。
編集後記
「手触り感」を求め、教育の世界へ足を踏み入れた脇田氏。その言葉の端々から、事業の根幹にある「学びの多い人生は豊かだ」という確固たる哲学と、子どもたちの未来への真摯な思いが伝わってきた。現場の声を吸い上げ、オンラインで昇華させる独自の開発サイクル。その強みを武器に、同社が日本のIT教育をどうデザインしていくのか、今後の展開から目が離せない。

脇田真太郎/青山学院大学卒業。在学中に英国国立リーズ大学ビジネススクール(LUBS)へ留学。卒業後、外資系広告代理店 WPPグループにてMicrosoftをはじめとするグローバルクライアントのマーケティング戦略やプロモーション展開を担当。2013年、エデュケーショナル・デザイン株式会社を設立。