※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

埼玉県内の特定エリアに根ざし、クリーニング、介護、美容室といった多彩なサービスを展開する有限会社ハートサービス。一見すると異なる事業を有機的に連携させ、利用者の「あったらいいな」を形にする独自の価値を創造している。同社を率いるのは、代表取締役の高安正典氏だ。海外での豊富な経験を経て、25歳で創業者である父の会社へ入社。コロナ禍という未曾有の危機を乗り越え、多角化経営で成長を続ける同社の経営哲学と未来への展望に迫る。

古参社員との衝突とゼロからの組織再構築

ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。

高安正典:
アメリカ、イギリス、オーストラリアで計6年間を過ごした後、25歳の時、父が創業した弊社に入社しました。学生時代から父の働く姿を見て、「いつか手伝いたい」という思いを抱いていたからです。親からの勧めもあり、まずは現場の一社員としてキャリアをスタート。入社後3年間は役職もなく、クリーニングの配達から営業まで、あらゆる業務を経験しました。

ーー事業を継承される上で、特にご苦労された点はありましたか。

高安正典:
入社当初は、仕事の進め方をめぐり既存社員との衝突が絶えませんでした。私の改善提案は、創業社長の息子という立場もあってか、なかなか受け入れてもらえなかったのが実情です。そうした状況を経て、1年半が経つ頃には創業メンバーは会社を去り、組織は新たなスタートを切ることになりました。そこからは私が採用を主導し、自分の考えに共感してくれる仲間を集めたのです。3年後に工場の所長に就任する頃には組織は完全に刷新され、事業はようやく軌道に乗りました。

未曾有の危機を好機に変えた攻めの事業多角化と収益基盤の確立

ーー経営者として、最大の転機はどのタイミングでしたか。

高安正典:
父から代表の座を引き継ぎ、成長への意識を強めた矢先、コロナ禍に見舞われました。弊社の事業はクリーニングや美容室など、外出自粛の影響を全面的に受けるものばかり。当時は成長どころか、「会社をいかにして守り抜くか」ということで頭がいっぱいでした。

ーー未曾有の危機に対し、どのような対策を講じたのですか。

高安正典:
コロナ禍で影響の少ない事業の強化に乗り出しました。法人向け(BtoB)事業に加え、私が主導して不動産事業を新たに開始。渋谷に土地を購入して新築マンションを建設し、売却による利益の獲得を狙います。このように複数の収益源を持つことで、どんな時代でも生き残れる強い経営体制を構築しています。

事業部間の連携が生み出す他社にはないオンリーワンの価値

ーー貴社の最大の強み、他社にはない独自の価値は何でしょうか。

高安正典:
事業部間の連携が最大の強みです。たとえば、介護とクリーニングを連携させ、ご自宅訪問時にお預かりした衣類をクリーニングしてお届けする。美容師がデイサービス施設へ出張してカットを行う。他にも、介護ベッドのレンタル利用者にシーツを無料で交換するなど、弊社ならではのサービスを展開しています。これはクリーニング部門を持つからこそ可能で、お客様から大変喜ばれています。

ーーお客様からの反響はいかがですか。

高安正典:
最近、お客様と直接話す機会は減りましたが、お店へお電話をいただくことがあります。つい最近も、あるお客様から「他のお店では満足できなかったけど、あなたたちの店は本当に良かった」と熱心にお褒めの言葉を頂戴しました。もちろんクレームもありますが、こうしたお褒めの言葉は、必ず現場の社員に伝えるようにしています。それが彼らのモチベーションにもつながるからです。

「社員の働く楽しさ」を追求する経営哲学

ーー従業員の方々と接する上で、大切にされていることは何ですか。

高安正典:
「会社に来るのがストレスであってほしくない。とにかく楽しく働いてもらいたい」という思いが一番です。その思いを実現するため、制度にも社員を大切にする文化を反映させています。たとえば、昨年導入した誕生日休暇や、専務が構築し10年近く運用する人事評価制度などです。また、全店舗を休業にして芸人を招く盛大な新年会も弊社の名物です。その楽しそうな雰囲気に惹かれて入社を決めた社員がいるほど、社内の風通しの良さにつながっています。

また、人間関係が常にスムーズであるよう心がけています。私自身も壁をつくらず、フランクに接するようにしています。社員とはLINEで絵文字やスタンプを交えて気軽にやりとりし、誕生日にはお祝いのメッセージを送ることもあります。

未来を支える5事業の柱 次なるステージへの挑戦

ーー今後数年を見据えたビジョンについてお聞かせください。

高安正典:
今後は介護事業と不動産事業を新たな柱として、さらに成長させていきたいと考えています。特に介護分野は、成長が見込まれる市場です。団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を控え、今後20年は続くと考えています。

最終的には5つほどの事業の柱をつくりたいです。一つの事業が時代の変化で傾いても、他の柱が全体を支えられる。そのような力強い経営体制が目標です。

ーーそのビジョンを実現していく上で、どのような組織を目指しますか。

高安正典:
弊社の最大の強みは、優秀な社員が多いことです。私よりも能力のある人に積極的に仕事を任せた方が、会社として良い結果が出ると信じています。現に最近入社してくる優秀な人材のほとんどは、既存社員からの紹介です。これは社員が弊社を「働きがいのある良い会社だ」と感じてくれている証拠でしょう。本当にありがたいことです。これからも、社員たちが挑戦できる風土を守っていきたいと考えています。

編集後記

クリーニング、介護、そして美容。一見バラバラな事業が連携し、地域住民の「あったらいいな」に応える。このユニークな価値の源泉は、「社員が楽しくなければ、良いサービスは生まれない」という高安氏の信念だ。社員を信じて任せる社風が挑戦を促し、新たな仲間を惹きつける。事業の成長と働きがいの創出、その好循環こそが同社の未来を照らしている。

高安正典/1974年千葉県市川市生まれの大阪育ち。2000年オックスナードカレッジを卒業後父の会社に入社。3年間の下積みを経て子会社の所長に就任。2012年、本社の常務取締役就任。2017年代表取締役に就任。