
保険の役割そのものを再定義する大きな変革に挑んでいるSOMPOひまわり生命保険。その舵を取るのが、損害保険事業、介護事業という多様な経歴を持つ、代表取締役社長の久米康樹氏だ。「困難から逃げない」という彼の哲学は、いかにして生まれ、会社の未来をどこへ導こうとしているのか。その人物像と事業の真意に迫る。
人間力が試される保険業界へ
ーーまず、キャリアの原点について教えていただきたいです。
久米康樹:
実は、就職活動を始めた当初から明確に金融業界を志望していたわけではありません。しかし、大学の先輩とのご縁で、安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン)の話を聞く機会がありました。話を聞いていく中で、保険業界の面白さに気づき、チャレンジングな社風にも惹かれて入社を決めました。
保険は、形のない商品です。だからこそ、お客さまに安心してご加入いただくためには、知識や専門性に加え、私たちの人間性や信頼度までご評価いただく必要があります。形がない分、苦労も多いですが、そこにこそ人間として成長できるこの仕事の大きなやりがいと意義があると感じます。
ーーなにか転機となる出来事はありましたか。
久米康樹:
入社後は、営業、人事、自動車保険の商品開発、秘書部と、さまざまな部署を経験しました。その中で最大のターニングポイントは、2016年にグループの一員となった介護事業会社「SOMPOケア」への出向です。
当時、SOMPOホールディングスは新たな成長戦略として、日本の大きな社会課題である「介護」の領域へ参入しました。私に与えられたのは、グループ内外のステークホルダー(※1)に対し、「なぜSOMPOグループに介護事業が必要なのか」を説明し、理解をいただくことがSOMPOケアにとって、重要かつ困難なミッションでした。私自身も初めての経験でしたが、皆さんに丁寧に説明をして協力を得ながら、無事に進めることができました。
(※1)ステークホルダー:企業やプロジェクトなどの活動に関わる、直接的または間接的に影響を受けるすべての利害関係者
ーー現在はどのような使命を持って事業を率いていらっしゃいますか。
久米康樹:
介護事業への挑戦も大きな転機でしたが、生命保険会社の社長となった今も、新たな挑戦の最中であると認識しています。人生100年時代を迎え、お客さまのニーズは「万一への備え」だけにとどまりません。「健康で長生きしたい」という思いへと拡がっています。
その思いに応えるため、「健康応援企業」への進化を掲げてきました。そして、今年度からはウェルビーイング体制となり、伝統的な生命保険の在り方を進化させていくことが、私の使命です。
お客さまの人生に寄り添うパートナーへ
ーー貴社のビジョンについて教えてください。
久米康樹:
これまでの生命保険は、病気や死亡といった「万一の出来事」に備える、いわば「お守り」のような役割でした。しかし、お客様の本当の願いは、そもそも病気にならず、健康で長生きすることのはずです。
その願いに応えるためには、万一の事態に備える保障だけでは不十分です。万が一を可能な限りなくしていくために、病気を予防し、日々の健康増進をサポートする存在、つまりお客様の人生に寄り添う「パートナー」へと、私たち自身が進化する必要があると考えました。これが「健康応援企業」というビジョンの原点です。
そして、そのビジョンを体現するのが「Insurhealth®(インシュアヘルス)」という価値です。「インシュアヘルス」は、「保険(Insurance)」と「健康(Healthcare)」を組み合わせた弊社独自の造語であり、事業活動すべての根底に流れる考え方です。従来の保険が担ってきた「万一に備える」役割に加え、お客様が「健康であり続ける」ことを積極的に応援し、サポートします。お客様の人生に真に寄り添うパートナーとなることを目指す考え方、それが「インシュアヘルス」です。
この考え方を商品やサービスに反映させています。たとえば、保険加入後に健康状態が改善した場合は保険料が割安になるとともに、健康チャレンジ祝金をお受取りいただける「健康☆チャレンジ!」といった仕組みを持つ保険商品。日々の健康活動をサポートするアプリ「MYひまわり」などのサービスがその具体例です。これらはすべて、「インシュアヘルス」を実現するための大切な手段です。
ーー今後の目標についてお聞かせください。
久米康樹:
ウェルビーイング事業は、SOMPOホールディングスがグループ全体で推進する構想です。それは、健康の「不」、介護の「不」、老後資金の「不」という、人生100年時代の3つの大きな不安の解消を目指すものです。SOMPOケアなどのグループ各社が、それぞれ持つ「健康」「介護」「老後資金」の知見を活かし、事業の強みや顧客接点を繋ぎ、グループの総合力で、お客さまの多様なニーズに応えていくことを目指しています。
また、2030年までに、ウェルビーイング事業全体で1000億円規模の利益創出を目標に掲げています。その中で、SOMPOひまわり生命単体としては、現在の約570億円から800億円以上へと成長させ、事業全体の目標達成に貢献したいと考えています。
変革の時代だからこそ挑戦者に来てほしい

ーー会社の未来の姿として、どのようなビジョンを描いていますか?
久米康樹:
弊社のビジョンは大きく2点あります。1点目は、少子高齢化という社会課題に対し、「健康応援企業」としての進化をさらに加速させることです。ウェルビーイング事業という新しい枠組みを推進し、グループ内の商材、サービス、能力、人材を融合させ、提供価値の最大化を目指します。
2点目は、お客さまに届ける価値の変化に対応するため、研究開発を加速させることです。特に生成AIやAIアドバイザーのような技術を活用し、お客さまにとって真に必要とされる価値を提供できるよう努めます。社内的には、保険金の支払い、新規契約の査定、保険料の収納といった業務プロセスにAIやデジタルデータの活用を進めます。これにより、生産性を大幅に向上させることを目指しています。
ーー今後、どのような人材を求めていますか。
久米康樹:
今の保険業界は、大きな変革期にあります。その中で弊社では、既存のやり方を踏襲するのではなく、多様な考え方を尊重しながら新しい価値を創り出そうとしています。前例や常識にとらわれず、「挑戦」や「変革」そのものに面白さややりがいを感じられる方にとって、これほどエキサイティングな環境はないでしょう。私たちが大切にする価値観「誠実・自律・多様性」に共感し、困難な社会課題の解決に情熱を燃やせる方と、ぜひ一緒に未来を創っていきたいですね。
編集後記
損害保険、介護、そして生命保険。全く異なる事業領域を渡り歩いてきた久米氏のキャリアの根底には、「困難な課題から逃げない」という揺るぎない哲学があった。保険を単なる「お守り」から、人々の健康と人生に寄り添う「パートナー」へと進化させる同社の挑戦は、久米氏自身の生き様そのものだ。業界の未来を切り拓くその歩みから、目が離せない。

久米康樹/1972年、徳島県出身。1995年東京大学文学部卒業後、安田火災海上保険株式会社(現:損害保険ジャパン)に入社。SOMPOホールディングス株式会社、介護・シニア副事業オーナー執行役員、SOMPOケア株式会社取締役、SOMPOひまわり生命保険株式会社取締役副社長などを経て、2025年4月、代表取締役社長に就任。