※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

自分の好きな人や物事を応援する「推し活」は、もはや趣味の枠を超え、日常を彩る文化として広がっている。「好きなものがあることが人を強くする」と、その熱量と発信力にいち早く注目し、「推し活」をマーケティングや商品企画の文脈に取り込んできたのが、株式会社Oshicocoだ。自己肯定感を支える“好き”という感情に着目し、企業とファンをつなぐ仕組みをつくるため、社会人1年目で起業した代表取締役の多田夏帆氏に、「推し活」の可能性とその先にある未来について話を聞いた。

SNSの声を追い風に起業

ーーまず、多田社長の経歴や貴社を立ち上げた経緯について教えてください。

多田夏帆:
社会人1年目のときに、自身の推し活経験をもとにOshicocoを創業しました。

社会人歴が浅い中でこのような思い切った決断ができたのは、自分で立ち上げた推し活関連のSNSアカウントが数カ月で数万人規模まで成長したことが背景にあります。その手応えから、「推し活には確かなニーズがある」と感じ、起業の決意が固まりました。

創業当初のメンバーは3人で、請求書や契約書といった基礎的な業務すら初めてという状況からのスタート。一方で、SNSのフォロワーの皆さんに支えられ、グッズ販売や広告案件を受ける機会に恵まれていたので、苦戦しつつも無事事業を軌道に乗せることができました。

今では仲間も増え、それぞれの専門性を活かしながら組織が少しずつ大きくなってきています。今は心から、「あのとき起業という決断をして本当によかった」と思っています。

ーー起業の原動力になった体験や思いについて、お聞かせいただけますか?

多田夏帆:
大学時代に続けていたファッション系の女性向けメディアでのインターン経験が起業に至る原体験です。4年間で何百本もの記事を執筆したのですが、その中で「着痩せ」や「小顔」といったコンプレックスに寄り添うテーマがよく読まれることに気づきました。

一方で、「好きなものを持っている人は強い」という事実にも気づいていました。実際、私自身も推しの存在がきっかけで、タイ語を学んだり、ライブのために見知らぬ土地へ行ったりと、以前なら考えられなかった挑戦にも、自然と踏み出せるようになっていたのです。

そこで、「悩みを解消できる方法の一つとして『推し活』を提案してはどうか」と考えたのです。

「推し活」の感情を起点に、BtoC・BtoB両面で事業を展開

ーー現在展開されている事業内容について教えてください。

多田夏帆:
私たちは、推し活するファンと企業をつなぐことを軸に、一般消費者向け(BtoC)と企業向け(BtoB)の両面で事業を展開しています。

BtoCでは、推し活応援メディアの運営、自社グッズの企画・販売、全国でのポップアップイベントの開催などを行っています。これまで、ファンのニーズに沿った商品や情報を、さまざまな形で届け続けてきました。

一方、BtoBでは、出版社やゲーム会社、保険会社、家電メーカーなどと連携し、「推し活」を切り口にした商品開発やプロモーションを支援しています。SNSやメディア、500人以上のインフルエンサーとの連携などを活用しながら、企業と「推し活」を楽しむ方との接点づくりに取り組んでいます。

弊社の大きな強みは、「推し活」を起点にして企画から発信・販売までを一気通貫で行える体制を持っていることです。ファンと企業の両方の立場を理解しながら、感情を軸にした接点をデザインできる点が、弊社ならではの価値だと考えています。

保険からスポーツ、家電まで。異業種とつながる推し活マーケティングの力

ーー今後、どのようなテーマに力を入れていきたいですか?

多田夏帆:
「推し活」の裾野の広さを活かして、これまでの実績を踏まえて、これまで推し活とあまり結びつかなかった業界との連携強化に力を入れていきたいです。

これまでに企業と連携して企画を実現した例として、保険会社との取り組みでは、イベントが中止になった際に交通費や宿泊費を補償する「推し活キャンセル保険」を企画。これは、実際に推し活で困った経験がある方にとって、リアルな安心感につながる商品です。

また、家電メーカーとのコラボでは、もともと販売していた家庭用プリンターのアプリ上の追加機能を作成させていただきました。これはテンプレートを使ってオリジナルグッズを自宅で手軽に印刷できるもので、幅広いシーンで使える自由度の高さを実現し、「推し活」の楽しみ方に新しい選択肢を加えることができたと自負しています。

そして、スポーツ分野は大きな可能性を秘めた領域だと感じています。実はスポーツ観戦には遠征や応援スタイル、グッズの購入などの構造が、アイドルや歌手などのライブとかなり近い特徴を持っています。しかし、推し活的な楽しみ方はまだ浸透していないので、ここに私たちが持つ女性視点や可愛いデザインを取り入れることで、新しい層との接点が生まれると考えています。

「推し活=Oshicoco」といわれる未来へ。文化をつくる企業を目指して

ーー最後に、5年後、10年後に目指す貴社の姿についてお聞かせください。

多田夏帆:
「推し活という文化を社会に広げたのはOshicocoだよね」と言われる存在を目指しています。「バレンタインといえばモロゾフ」、「ギャル文化といえば109」のように、企業名が文化の象徴として語られるようになりたいですね。

そうした未来を実現するうえで、特に大事なのが“発信力”です。私たちは単に情報を届けるだけでなく、「推し活」の楽しさや誰かを好きになる尊さといったポジティブな気持ちや空気感まで届けたいと考えています。

そして、「推し活」は日本だけでなく、海外にも広げられると感じています。誰かを全力で応援することで前向きなエネルギーが得られる「推し活」は、世界に誇れる文化です。この事実をもっと社会に広めて、その文化がより肯定される社会をつくりたい。Oshicocoを立ち上げた理由は、まさにここにあります。今後はアジアを中心に、現地の文化や企業とも手を取り合いながら、展開を進めていくつもりです。

「推し活」は日本発のカルチャーですが「応援したい!」という気持ちは世界共通です。私たちの事業でその感情を支える仕組みを提供できれば、もっと社会をポジティブに変えていけると信じています。

編集後記

Oshicocoが実現しているのは、いわば感情のエネルギーを社会とつなぐ仕組みづくりだ。「推し活」を楽しむ人たちの感性に敬意を払い、異業種と柔軟につながる姿勢は、マーケティングのあり方に新たなあり方を示している。“好き”という感情が自己肯定感を育み、文化となり、仕組みになる。その一連の流れを可視化し、動かしている点にこそOshicocoの真価がある。

多田夏帆/1998年生まれ。早稲田大学卒業。大学卒業後「推し活」に関する企業のマーケティング支援とグッズ販売を行う株式会社Oshicocoを創業。現在は推し活文化の解説者としても多数のメディアに出演。自社メディアは2年でSNSフォロワー10万人まで成長し、全国でポップアップ開催の実績も多数。イベント開催のたびZ世代を中心に1万人を集客している。