
心理学とAIを融合させ、個々のモチベーションを可視化するSaaS型 HR Techサービス「Attuned(アチューンド)」を提供する、EQIQ株式会社。同社の代表取締役社長、ウォール・ケーシー・ジェームズ氏は、「自身のマネジメントにおける数々の失敗こそが事業の原動力」と語る。人と組織という根源的な課題に挑み、パフォーマンスと心理的安全性の両立を目指す同氏の情熱と、その哲学に迫った。
グローバルな生い立ちと経営者としての原点
ーー社長の生い立ちについてお聞かせください。
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
ニューヨーク州のカナダに近い場所で生まれ、1歳からサウジアラビアで育ちました。父が石油会社に勤めており、私たちは砂漠の真ん中にある町で暮らしていました。そこは900人ほどの外国人が住むコミュニティでした。16歳でアメリカのボストンへ渡り、大学卒業後に来日しました。来日を決めたのは、「国際的なビジネスに携わりたい」という思いと、忍者や将軍に象徴されるような、世界的に見ても他に類を見ない特別な文化への強い憧れがあったからです。
ーー現在の会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
来日後は人材紹介会社でキャリアをスタートさせ、イギリスの大手上場企業ではトップ営業マンとして活躍し、取締役に就任しました。しかし、会社の方針と自身の考えにギャップを感じ、「自分の力を試したい」という思いから独立を決意します。2010年に現在の会社の母体となる会社を設立しましたが、東日本大震災で売上がゼロになるなど、多くの困難に直面しました。
ーー経営において大切にされていることは何ですか?
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
私が大切にしていることは「透明性」です。過去に共同創業者と価値観の違いから対立した経験があり、社内で本当の問題や課題について率直に話し合える文化が不可欠だと痛感しました。そのため、常に本音で語り合える組織づくりを重視しています。
また、かつては「社員が第一」と考え、心理的安全性を追求するあまり、パフォーマンスが疎かになった失敗経験がありました。その反省から、今ではまず「お客様が第一」だと考えています。お客様に価値を提供してこそ会社は存続でき、その結果として社員が安心して働ける文化がつくれると考えています。
自身の失敗から生まれたSaaS「Attuned」

ーー主力製品である「Attuned」について教えてください。
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
「Attuned」は心理学とAIをベースにした管理職向けのSaaSで、部下の内発的動機、つまり「何にやる気を感じるか」を科学的に見える化するツールです。管理職が部下一人ひとりに響く言葉を選べるよう支援し、誰もが意欲的に働ける職場づくりに貢献します。
ーーサービス立ち上げのきっかけは、何だったのでしょうか。
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
2つの原体験がきっかけです。1つ目は、人材紹介業での経験です。候補者のパフォーマンスはスキルよりもモチベーションに左右されると痛感したものの、採用時点で見抜くのは困難でした。
2つ目は、私自身のマネージャーとしての失敗です。非常に意欲的な部下がいたのですが、どうしても彼女の能力を引き出せず、個別面談が苦痛にさえ感じられました。しかし彼女が他部署へ異動した途端、素晴らしい成果を上げたのです。その時、私は彼女のモチベーションを全く理解できていなかったと、強く痛感しました。
ーー貴社製品はどのような企業で活用されていますか?
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
現在は大企業のお客様が多く、特に製造業で導入が進んでいます。その他、データに基づいたアプローチを好むエンジニア、データ分析といった部署でも活用されています。旧来のマネジメント手法に課題を感じ、「若手社員とのコミュニケーションを改善したい」「個別面談をより効果的にしたい」といった目的で導入される事が多いです。
私は「Attuned」を通じて、ユーザーに「This is magic.(これは魔法みたいだ)」と感じてほしいのです。「なぜ、こんなことまで分かるんだ?」と驚くような体験を届けたい。そのために、欲しい情報を欲しいタイミングで提供できるよう、プロダクトをよりシンプルに、より分かりやすく進化させることにこだわっています。
「少人数精鋭」で世界へ EQIQ社が描く未来
ーー採用では、どのような人物を求めていますか?
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
弊社のミッションに対する「パッション(情熱)」、最低3年はやり遂げるという「コミットメント(責任感)」、決めたことをすぐに実行に移す「スピード感」の3つを重視しています。スキル以上に、こうした姿勢が大切だと考えています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
ウォール・ケーシー・ジェームズ:
5年後には、この分野で世界一になりたいです。そのために、大きなサービスをつくる少数精鋭の組織構築を目指します。人数を増やすと、スピードや創造性が失われがちです。少人数だからこそ、リスクを取った創造的な挑戦ができると信じています。また、今後は海外展開も本格化させます。
そして、サービスのアップデートを継続することが何よりも重要です。現状、弊社のサービスを「最高だ」と言ってくれる熱心なファンは約30%です。この割合を40%、50%に引き上げることができれば、サービスは自然に広がっていくはずです。これからも本質的な価値は変えることなく、より多くの人に満足していただけるよう、改善を続けていきます。
編集後記
自らの失敗や弱さを隠すことなく、それを事業の原動力へと昇華させるウォール氏。その誠実な姿勢こそが、人と組織という複雑な課題に挑む上での最大の強みだと感じた。過去の自分が救われなかったように、同じ苦しみを誰にも味わってほしくないという切実な願い。それは、「魔法のような体験を届けたい」という言葉の中に隠されている。世界を見据えるその挑戦は、まだ始まったばかりだ。

ウォール・ケーシー・ジェームズ/米国ニューヨーク州に生まれ、サウジアラビアなどで育つ。大学卒業後に来日。人材コンサルティングや複数のITサービス立ち上げを経験し、2010年にEQIQ株式会社を起業。組織心理学をビジネスに応用したサービス「Attuned」を展開している。このサービスは、個々のモチベーションを可視化することで、管理職の人材マネジメントや人材教育を支援するものである。