※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

専門家の知見や現場の暗黙知(ノウハウ)をAI化する「Expert AI」を核に、さまざまな業界のDXを推進する株式会社Sapeet(サピート)。同社は、AIが姿勢の歪みを解析するシステム「カルティ シセイカルテ」をはじめ、独自のプロダクトを次々と展開している。代表取締役社長の築山英治氏は、自身の原体験からこの事業を創出した。医者の道を志した少年が、いかにしてAIの力で社会を変革する起業家となったのか。その軌跡とビジョンに迫る。

学生時代の原体験がすべての始まり

ーー起業に至るまでの経緯についてお聞かせください。

築山英治:
両親が医者だったこともあり、高校の途中までは同じ道を目指していました。しかし、当時活躍されていた経営者の方々への憧れから、次第に社長という職業を意識するようになったのです。大学では経営者になるためのスキルを模索する中でプログラミングに興味を持ち、理系の道へ進みました。

また、大学から始めたアメリカンフットボールの経験も起業の直接的なきっかけです。体を大きくするため、入部時に60kgだった体重が引退時には100kgまで増えていました。その結果、ECサイトで買った服の腕が通らないなど、部分的にサイズが合わないという苦い経験をしたのです。そんな課題を解決するために、大学院で3D仮想試着システムの研究開発に没頭し、そこで培った技術を基に、在学中にSapeetを創業しました。

専門家の知見や暗黙知をAI化する独自の事業

ーー貴社の事業の大きな特徴について教えてください。

築山英治:
私たちの強みは「Expert AI」です。これは、バックオフィス業務のような定型化された作業を効率化するAIとは一線を画すものです。お客様の売上や差別化の核となる業務領域において、専門家の知見やベテランの暗黙知をAI化し、その価値を増幅させることを目的としています。提供形態としては、お客様ごとに開発を行う「AIソリューション」と、パッケージとして提供する「AIプロダクト」の2種類があります。

ーー具体的にはどのような顧客がいらっしゃるのでしょうか。

築山英治:
創業当初はアパレル業界が中心でしたが、事業が変化する中で顧客層も大きく広がりました。現在の主力製品の一つであるAI姿勢分析システム「カルティ シセイカルテ」は、フィットネス業界のお客様からいただいた相談がきっかけで生まれました。展示会に出展したところ、整骨院や鍼灸院といった治療院の先生方から大きな反響があり、製品化に至ったのです。

最近では、歯科医院での導入も増えています。例えば、「歯並びが全身の骨格に影響する」、「姿勢と歯並びを同時に改善すべき」という考えを持つ矯正歯科の先生方に活用いただいています。

ロジックと情熱の融合、Sapeet独自の組織論と未来戦略

ーー現在、特に注力されているテーマは何ですか。

築山英治:
既存事業の拡大はもちろん、新規事業やM&Aにも力を入れています。特に、AIアバターが上司や同僚の代わりとなり、会話の練習相手を担う「カルティ ロープレ」というプロダクトです。このサービスは、営業や接客のロールプレイング、マネジメント研修での1on1練習、さらには英会話学習まで、その活用領域はすでに広がりを見せています。今後は、私たちの技術とシナジーのあるシステム開発会社などとのM&Aも進め、より大規模で安定したサービス提供を目指していく考えです。

ーーどのような組織文化を大切にされていますか。

築山英治:
私が体育会系出身のエンジニアであることから、「部活感」と「研究室感」という2つのカルチャーを重視しています。「部活感」とは、チームとして1つの目標に向かって努力する姿勢のこと。一方、「研究室感」とは、立場に関係なく事実に基づいて議論し、情報をオープンに共有する姿勢を指します。

ーー採用において、どのような方を求めていらっしゃいますか。

築山英治:
「素直でいいやつ」であること、これに尽きます。私たちは知的好奇心を原動力にしている会社なので、新しいことを面白がり、どうすれば価値を提供できるかを考えられる人が活躍できる風土です。そういう人には自然と面白い情報や機会が集まり、結果的に成長につながると考えています。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

築山英治:
私たちのミッションは「ひとを科学し、寄り添いをつくる」ことです。AIと人とのコミュニケーションが当たり前になる未来で、AIが人に寄り添うことで生産性を上げ、誰もが気持ちよく働ける社会をつくりたい。それによって、人と人との「寄り添い」が増える世界を実現することが私たちの目標です。

編集後記

医者を目指した青年が、自身の原体験をバネにAI起業家へ。築山氏の歩みは、課題解決への純粋な情熱そのものだ。専門家の知見や暗黙知という、形のない価値をテクノロジーで可視化する挑戦は、多くの業界に新たな可能性をもたらしている。「部活感」と「研究室感」が共存するユニークなカルチャーの下、Sapeetが描く「人とAIが寄り添う未来」の実現に、これからも注目していきたい。

築山英治/東京大学大学院工学系研究科卒。大学院で物理演算ベースのクラウド3D仮想試着の研究後、株式会社Sapeetを創業。研究の一要素であった身体分析AIの事業が発展・成長し、コミュニケーションAIも加わって、2024年10月に東証グロース市場に上場。「ひとを科学し、寄り添いをつくる」をミッションに、引き続きAI技術と専門家の知見や暗黙知を組み合わせたExpert AI事業に注力している。