※本ページ内の情報は2025年8月時点のものです。

株式会社協同は、農機や建機、半導体関連の精密機械部品など、多岐にわたる製品の設計・製造・販売を手掛ける会社だ。海外に自社工場を有し、品質と提案力、購買力を強みにグローバルに事業を展開している。

元プロサッカー選手という異色の経歴を持つ代表取締役社長の斉藤浩史氏に、その挑戦の軌跡と事業への思い、そして未来への展望を聞いた。

プロサッカー選手から経営者へ、異色のキャリアパス

ーー貴社に入るまでの経歴をお聞かせください。

斉藤浩史:
私は東京の杉並で生まれ育ち、小学校からサッカーを始め、中学2年生の時には同クラブのジュニアユースに所属し、学校に通いながら毎日のように練習に明け暮れる日々でした。

当時はまだJリーグがなく、プロになるという明確な道筋はありませんでしたが、海外でプロ選手になりたいという夢を漠然と抱いていました。

高校3年生の時、読売サッカークラブのトップチームから昇格の話をいただき、18歳でプロ選手としてのキャリアをスタートさせたのです。当時の読売サッカークラブはプロ契約選手が多く、サッカーに専念できる環境でした。そこで3年間プレーした後、1992年に三浦知良選手に紹介していただき、ブラジルのプロチームへ移籍しました。

その後、1993年にはJリーグが開幕するにあたり、新設された清水エスパルスからオファーをいただきました。ブラジルでのプレーを続けたい気持ちもありましたが、Jリーグ開幕という歴史的な瞬間に立ち会えるチャンスはまたとないと考え、日本に戻りエスパルスに入団。その後、仙台のチーム(現:ベガルタ仙台の前身)、再度ブラジルで挑戦をし、27歳の時に現役を引退しました。

父の会社へ入社、製造業での新たな挑戦

ーー引退後、協同ゴム工業株式会社(現:株式会社協同)に入社された経緯をお聞かせください。

斉藤浩史:
引退を決意し、長男として父の会社を継ぐことを考え、1998年に入社しました。最初は、父が設立した台湾の自社工場に赴任し、3年間勤務しました。プロサッカー選手としての華やかな生活から一転、地道な工場の仕事に慣れるため、サッカーから意識的に離れ、ものづくりの基礎を学びました。

最初に配属されたのは、品質保証部門です。製品情報が集まる部署で事業全体を早く理解できるという考えからです。検査業務などを通じて品質管理を学ぶ一方、営業活動にも携わって部品営業や販売についても並行して経験を積みました。週の半分は工場業務、もう半分は営業や購買といった事務所業務という形で、製造業のイロハを叩き込まれましたね。

ーーその後のご自身の役割や海外展開について教えてください。

斉藤浩史:
台湾での経験後は東京本社に戻り、主に海外営業を担当しました。ブラジルでの経験から外国語でのコミュニケーションに抵抗がなかったため、自社製品の海外展開、特に東南アジアや欧州への販売に注力しました。その後、お客様のニーズに応えるため、31歳の時にタイに自社工場を設立。台湾工場で培ったものをタイに移管するため、台湾とタイ、そして日本を行き来する多忙な日々を送りました。その後、営業全体を統括する専務を経て、2013年に代表取締役社長に就任しました。

「安心」を届ける、品質・提案・購買の連携術

ーー改めて、事業内容について教えていただけますか。

斉藤浩史:
弊社は製造業を営んでおり、プラスチック樹脂部品、アルミダイカスト部品、機械加工品などを中心に、農機具や建設機械、さらには半導体検査装置に使われるプローブカードの輸送ケースといった精密機械部品など、幅広い製品の設計・製造・販売を行っています。生産拠点はすべて海外にあり、東京の本社は設計や販売、開発機能を担っています。

ーー貴社の特徴や強みは何でしょうか。

斉藤浩史:
弊社の強みは大きく3点あります。まず第一に、高品質な製品を提供できることです。特にタイ工場設立後、大手のお客様との取引が増える中で品質管理体制を徹底的に強化しました。本田技研工業様から品質優良賞をいただいたことは、私たちの取り組みが正しかった証であり、大きな誇りです。

2つ目は提案力です。お客様のニーズを的確に捉え、時には材料研究の成果などを踏まえて、より良い製品やコスト低減に繋がる提案を行うことを重視しています。お客様との対話の中から新たなビジネスチャンスが生まれると考えており、常に新しいアイデアを提供できる企業でありたいですね。

3つ目は購買力です。たとえば、海外の小規模な町工場であっても、私たちの目で品質を見極め、日本のお客様が求める品質レベルに合わせたコミュニケーションを取りながら部品を調達できる体制を構築しています。これにより、お客様に安心して製品を供給できる点が強みだと考えています。

「挑戦しないことがミス」!成長を促す理念

ーー今後の事業展開やビジョンについてお聞かせください。

斉藤浩史:
市場環境の変化が激しい時代ですが、常に新しいことに挑戦し、お客様に魅力的な提案をし続ける会社でありたいと考えています。具体的な製品開発はもちろんですが、新しいものを取り入れ、自ら変化を生み出していく姿勢が重要です。そのために、従業員一人ひとりが自立した考え方、個性的な発想力、そしてチャレンジ精神を持つことが不可欠だと考えており、社員の成長に大いに期待しています。

ーー採用においてはどのような人材を求めていますか。

斉藤浩史:
チャレンジ精神が旺盛な方に来てほしいですね。新しいことに挑戦したい、自由な発想で何かを生み出したいという意欲のある方を歓迎します。私は、チャレンジしないことが一番のミスだと考えています。

挑戦すれば必ず何かしらの結果が得られ、それは失敗ではなく次への糧となります。新卒・中途問わず、そのような気持ちを持った方と共に働きたいです。特に技術営業ができる方は、お客様との信頼関係構築において非常に重要です。

ーー現在、注力している取り組みについて教えてください。

斉藤浩史:
現在、BtoBの領域でECプラットフォームのようなものを構築できないかと研究を進めています。工場と工場をインターネット上で効率的にマッチングさせることができれば、製造業全体の活性化に繋がるのではないかと考えています。

たとえば、弊社の強みである品質保証のノウハウを組み込んだ、品質に重きを置いたマッチング機能を提供できれば、新たな価値を生み出せるのではないかと期待しています。

編集後記

元プロサッカー選手から製造業の経営者へという異色の経歴を持つ斉藤社長。その言葉からは、常に新しいことに挑戦し続ける強い意志と、品質へのこだわり、そして社員への熱い期待が感じられた。サッカーで培ったであろうチャレンジ精神とグローバルな視点は、変化の激しい現代において企業を成長させる原動力となるに違いない。同社が描く製造業の新たなプラットフォーム構想にも、大いに注目していきたい。

斉藤浩史/1970年11月、東京生まれ。私立暁星高校卒業後、読売サッカークラブ(現:東京ヴェルディ)でプロサッカー選手契約。その後、ブラジルサンパウロリーグ、清水エスパルスなどを経て、1998年に現役を引退。同年4月、協同ゴム工業株式会社(現:株式会社協同)に入社。海外営業やタイ工場設立などを主導し、専務取締役を経て2013年に同社代表取締役社長に就任。現在はJFL所属のアトレチコ鈴鹿クラブの運営にも携わり、日本サッカーの発展に向けた活動も行っている。