
心身が本来持つ輝きを取り戻し、より良く生きるための「ウェルネス」という概念。その思想に基づき、上質な空間でホリスティックなスパサービスを展開するのが、株式会社ザ・デイ・スパだ。同社の提供するサービスは、単なる美容やトリートメントにとどまらず、人の根源的な活力を呼び覚ますことを目指している。15歳での渡米や台湾での運命的な出会いを経て、同社を創業。「人間が人間らしく生きることに貢献したい」との強い使命感を抱く代表取締役の河﨑多恵氏。今回同氏に、その情熱の源泉と事業の未来像を聞いた。
台湾での出会いが導いたウェルネスへの道
ーーこれまでのご経歴についてお聞かせください。
河﨑多恵:
高校生の時、15歳でアメリカに渡り、大学ではビジネス経済学を専攻しました。これは一連の出来事が筋道立てて進んでいく論理的な点と、数字的な側面が自分に合っていると感じたからです。当初は4年間通う予定でしたが、1歳上の姉が卒業するタイミングで父から「一緒に帰ってはどうか」と勧められました。そこで大学を3年で卒業して日本に戻ることにしました。
帰国後すぐに阪神・淡路大震災を経験し、精神的に大きなストレスを抱えていました。加えて、それまでの生活とのカルチャーショックに陥りました。アメリカでの友人との会話は政治や社会についての議論が中心だったのに対し、日本へ帰国後の恋愛話ばかりの環境に馴染めなかったのです
この気持ちをリセットするため、以前から興味のあった中国語を本格的に学ぼうと台湾への留学を決めました。
ーー現在の事業の原点になった出来事はありますか。
河﨑多恵:
アメリカでの学生時代は勉強に追われる毎日でしたが、台湾では初めて自分と向き合う時間が持てました。その中で、自分に働いた経験が全くないことに強い危機感を覚えました。人生で初めて壁にぶつかったと感じ、アメリカ系華僑の化粧品輸入会社でインターンシップを始めました。
そこで現在の事業の根幹となるスパの世界観に出会いました。それは、単に体を癒すトリートメントや美容ではありませんでした。「ヒューマニティーズ」、つまり心身ともに満たされて自分らしく輝いて生きることを支えるアプローチだったのです。ビジネスを通して「人間が人間らしく生きることに貢献できる」と知り、衝撃を受けました。そして、「これこそが私の進むべき道だ」と思ったのです。
エステではない 使命感で創る真のウェルネスとは
ーースパ事業での起業を決意された経緯を教えてください。
河﨑多恵:
台湾から日本へと戻り外資系企業に勤めていた頃、厳しいノルマとプレッシャーで心身ともにすり減っていました。自分の目が輝きを失っていく中で、台湾で知ったような心からリセットできるスパが、日本中どこを探しても見つからなかったのです。
この状況を目の当たりにし、「これをやるのは、もう私しかいない」という強い使命感に駆られ、起業を決意しました。
ーー河﨑社長の考える「ウェルネス」の定義を教えていただけますか。
河﨑多恵:
一般的に「健康」の反対は「病気」です。しかし病気ではないものの、なんとなく体が重い、気分が晴れないという曖昧な不調を抱えている人は少なくありません。
「ウェルネス」とは、その状態から一歩進んだ考え方です。健康な状態をさらに超え、一人ひとりが輝くことを目指します。そして「自分の人生は良かった」と心から思えるように生きていくためのアプローチだと考えています。
ですから、私たちの事業は美しさを追求するエステティックサロンとは根本的に異なります。人生をより良く、自分らしく生きるためのお手伝いをするものなのです。
ーーホテルスパ事業を通じて、お客様に最も届けたいと願うものは何ですか。
河﨑多恵:
ホテルの施設には、時に何百億円という莫大な投資がなされています。その空間に身を置くだけで得られる非日常感や解放感。専門的なトレーニングを積んだスタッフによる施術。五感に訴えかける香りや空間演出。これらすべてを統合した「体験」そのものに価値があると考えています。
たとえば、好きなアーティストのコンサートに行く時、「一曲いくら」とは考えないはずです。私たちのサービスも同様で、包括的な体験への対価です。実際にサービスを受けてくださったお客様は、その価値を十分に理解してくださいます。
共感がすべて 会社の未来を担う仲間と描く展望

ーー今後の事業展開において、どのようなことを重視されていますか。
河﨑多恵:
サービス業界全体が、少子化や働き方の多様化により深刻な人員不足に直面しています。そのため、闇雲に店舗を拡大するつもりはありません。最も大切なのは、私たちの理念に共感してくれるスタッフをターゲットにしていくことです。
特に女性が多い職場ですから、働き方を常に模索しています。スタッフ一人ひとりが自身のライフスタイルを大切にしながら、心から仕事を楽しめる環境づくりを目指しています。
ーーどのようなスキルやマインドを持った方と共に働きたいとお考えですか。
河﨑多恵:
単にスキルの有無だけを問いません。まず自分自身と徹底的に向き合い、「他の誰にも負けない、自分だけの武器は何か」を自分の言葉で語れる人を求めています。
自分の価値観を理解し「5年後、10年後にどうなっていたいか」というビジョンを持っているか。そして、その目標を達成するために死にものぐるいで努力するという覚悟があるかどうかが重要です。そうでなければ、お客様やチームに対して失礼にあたると考えています。
ーー今後、特に注力していく事業について教えてください。
河﨑多恵:
一つはEC事業の強化です。ご自宅で心と体を整え、より豊かな時間を過ごしたいというニーズに応えたいと考えています。また、大切な方へのギフト需要にもお応えしていきます。
もう一つは、海外展開です。6年の歳月をかけてオリジナルの化粧品を開発しました。この製品は非常にユニークで、京都の神社で一つひとつご祈祷を受けています。「お客様が末永く幸せで健康で美しくありますように」と願いを込めているのです。この日本ならではの、身体だけではなく、心や精神面も含めた全体をケアできる価値を、海外の方々にも届けていきたいです。
編集後記
自らの原体験から「私がやるしかない」という強い使命感を抱き、事業を築き上げた河﨑氏。その言葉の端々からは、揺るぎない覚悟が伝わってきた。「ウェルネス」とは、単なる癒しではない。人が輝きを取り戻し、人生を肯定するための積極的な営みであるという。変化の激しい時代において、自分の価値観を見つめ、プロフェッショナルとして何を成すかを自問する。彼女の生き方と哲学は、私たちに自身のキャリアを深く問い直すきっかけを与えてくれる。そして、人生のあり方も考えさせてくれるだろう。

河﨑多恵/1972年生まれ、University of California,Santa Barbaraでビジネス経済を専攻し、卒業後帰国。その後、台湾に留学し、その際にアメリカ系スパ化粧品会社にてスパ運営のノウハウを伝授される。29歳で起業し、株式会社ザ・デイ・スパの代表取締役として、様々なウェルネス・スパプロジェクトを手掛けている。