
兵庫県丹波市に本社を構える丸栄自動車株式会社。同社はボルボ・トラックの正規ディーラーとして地域の物流を支えている。軽自動車から大型トラックまで幅広く取り扱い、近畿・北陸エリアをカバーする広域なサービスネットワークが強みだ。3代目社長の北野裕輔氏は、「言われた以上の価値を提供する」という哲学を経営の核に据える。中古車ビジネスを新たな柱に「売上倍増」を掲げる同氏。従業員への豊かな還元も目指すその軌跡と展望について話を聞いた。
車好きの青年をトラック業界へ導いたオーストラリアでの原体験
ーー社長は創業家出身ですが、幼い頃から家業を継ぐ意識はありましたか。
北野裕輔:
親からも「嫌なら継がなくていい」と言われていましたし、特に意識をしておりませんでした。ただ、車が好きだったので、この業界が嫌いというわけではなく、ごく自然な流れで今に至ります。
車好きからトラック業界へ興味が移ったのは、大学生のときに留学したオーストラリアでの経験がきっかけです。日本では見られない巨大なトラックが走っていたことに衝撃を受けました。「ロードトレイン」といって、トラクターの後ろに複数のトレーラーを連結した、まるで電車のような長大な車両です。それを見てトラックという存在に強くひかれ、自分でも調べるようになりました。
ちょうどその頃、父がボルボのトラックを扱い始めたこともあり、さらに興味が深まっていきました。
ーー貴社の事業は、どのようにして現在の形になったのでしょうか。
北野裕輔:
祖父が中古自動車の販売から始めた事業を、父の代でトラックへシフトさせました。当時は国産トラックがメインでした。しかし1999年に日本ボルボから「ディーラーにならないか」というお話があったそうです。「この田舎で外国製のトラックが売れるか」という不安はあったそうですが、「会社の武器にしたい」という思いでスタートしたと聞いています。
顧客満足の原点 300円のミニカーが拓いた経営哲学
ーー入社後、特に印象に残っているエピソードはありますか。
北野裕輔:
入社当初は営業を担当していました。当時はボルボの車両トラブルが多く、訪問先で敬遠されるなど、営業には大変苦労しました。その一方で、言われたことをきっちりこなすだけではなく、それ以上の価値を提供することの大切さを学んだのもこの時期です。愛車を買い替えるお客様へ、思い入れの深い前のお車のミニカーを贈ったところ、大変喜んでいただけました。この経験が、「言われた以上の価値を提供する」という現在の経営方針の原点です。
ーーその後は、どのような業務をご経験されたのでしょうか。
北野裕輔:
当時、福井支店の中心人物が退職し、支店の運営が困難になりかねない危機的な状況に陥りました。そこで「私が福井へ行く」と覚悟を決め、整備士に仕事を割り振る「整備フロント」という未経験の業務に約10カ月ほど挑みました。
営業とは異なり、メカニックの仕事は必ず明確な答えを出さなければなりません。「ここが故障原因でしたので、修理して直しました」と、結果できちんと示さなければ信用問題になります。言葉のニュアンスでごまかすことが一切できない世界だと痛感しました。
物流の安心を支える拠点ネットワークとボルボの付加価値

ーー貴社の強みと、主力製品であるボルボ・トラックの価値を教えてください。
北野裕輔:
弊社の強みは、まずその拠点網にあります。福井、丹波、神戸と、日本の大動脈である高速道路の近くに拠点を構え、近畿圏や北陸エリアを迅速にカバーできる体制を整えています。全国のボルボ・ディーラーとの強固な連携も、お客様の安心を支える大きな力です。
もちろん、ボルボ・トラックそのものにも優れた特徴があります。国産車と比べて格段に良い乗り心地は、ドライバーの疲労を軽減し、安全運転に大きく貢献します。さらに、その特徴的な外観は「走る広告塔」として企業のブランディングに役立ちます。優秀なドライバーの採用につながるリクルート効果も期待できるのです。
事業の成長と従業員への還元 3代目社長が描く未来の好循環
ーー貴社で取り組まれている組織づくりについてお聞かせください。
北野裕輔:
社長就任当初は全ての案件が私に集中していました。そこで各部署に部長を立てて権限を委譲し、現場からボトムアップで課題解決を目指す体制を整えました。
現在は、単に車を販売するのではなく、お客様の課題を解決する「コト売り」ができる専門人材の採用と育成が課題です。そのために、従業員の紹介によるリファラル採用や、本人の希望に応じた柔軟な部署変更を受け入れるなどの体制を整備。社員が成長し、働きがいを感じられる環境づくりを進めています。
ーー今後の事業展望と、会社としての最終的な目標を教えてください。
北野裕輔:
中期経営計画の柱として、中古車トラック販売を新車販売に次ぐ第二の収益源に育てる方針です。現在は新車販売が売上の中心ですが、これを中古車と5対5の比率にしたいと考えています。目標は、「トラックを探すなら、まず丸栄自動車のサイトを見る」と言われる存在になることです。
そして5年後には売上を現在の倍にし、増えた利益を社員にしっかりと還元していきます。社員一人ひとりが、自分の家族や子どもに「この会社で働いているんだ」と胸を張って自慢できるような会社にすることが、私の最終的な目標です。
編集後記
営業時代に300円のミニカーで顧客の心をつかんだエピソード。そこから現在の「言われた以上の価値を提供する」という経営哲学に至るまで、その視線は常に顧客と従業員に向けられている。「売上倍増」という高い目標を掲げつつも、「社員が誇れる会社にしたい」と力強く語る姿から、数字の追求だけではない温かいリーダーシップがうかがえる。中古車事業という新たなエンジンを搭載した丸栄自動車の挑戦は、これからも続く。

北野裕輔/1984年兵庫県生まれ。2007年に大阪学院大学を卒業後、家業である丸栄自動車株式会社に入社。約10年営業職や整備フロント職を経験し、当時国内でも数少ないボルボ・トラック正規ディーラーとしての事業に携わる。2021年に同社代表取締役に就任。地域貢献の一環で各種団体の活動にも注力している。