
ビジネスオートメーションSaaSを開発・運営するYoom株式会社。同社が開発した、業務自動化ツール「Yoom(ゆーむ)」は、サービス開始から3年で登録者数20,000社、成長率約300%という驚異的な成長を遂げる。同社を牽引する、代表取締役の波戸﨑駿氏は、新卒で入社した株式会社じげんで培った経営視点や市場分析力を土台に、2019年に独立。AIの波を敏感にとらえ、マーケティング事業で資金基盤を築きながら「Yoom」を開発した。未来創造型の事業で新しい働き方を提案する同氏に、経営哲学や今後の展望について聞いた。
事業化集団の会社で学んだ経営者の視点
ーーこれまでのご経歴について、おうかがいできますか。
波戸﨑駿:
ライフサービスプラットフォーム事業を展開する株式会社じげんに新卒で入社し、3年目から事業責任者を務め、7年在籍しました。入社を決めた理由は、30名以下の規模の会社で、新規事業を実際に立ち上げられる環境があり、優れた経営者の下で事業創造を学べる環境だったからです。入社当時の社員数は20名程度でしたが、事業数は10~20ほどあったので各人の裁量が広く、複数の事業の立ち上げや運営に関われました。幅広い業種に携わる中で、事業の本質や市場構造を理解する力が養われたと感じています。
新卒時代の私は売上や利益を上げることに喜びを感じていましたが、社長からは器が「小さい」と何度も指摘されていました。3年目で事業責任者になってから、自身の管掌事業の単月営業利益を1億円に持っていくことを目指し、実際に数年後に達成できました。その際、一時的に達成感や喜びは感じたものの、逆に数値だけを追い続けることへの虚無感を強く感じました。そのとき初めて、経営者として何を成し遂げるかが重要だと気づきました。これは私にとって非常に大きなターニングポイントでした。
起業を決断させたAIの大波
ーー会社を設立された背景や理由をお聞かせください。
波戸﨑駿:
きっかけは、AIの大きな波を感じたことです。このタイミングを逃すと、同じ規模で再挑戦できるのは20年先かもしれないと思い、2019年1月に起業しました。当初は、AIと個人向け事業を組み合わせることを模索し、人口の多いインドで起業できないか視察にも行きましたが、最終的には法人向け事業へシフトして現在の成長につながりました。
創業当初は大変でした。自己資本だけで経営し、外部からの資金調達はしないと決めていたため、一気に黒字化させる必要がありました。体力が追いつかず、片耳が突発難聴になったこともあります。
ーー事業が成功した要因を、どう分析されていますか。
波戸﨑駿:
「Will(やりたいこと)」と「Can(できること)」を適切に選択した点が大きいと思います。当初から自動化ツールを開発したいと考えていましたが、自己資本だけでは開発コストが膨大で現実的ではなかったため、まずは得意分野のマーケティング領域の事業から始めて、資金基盤を整えることにしました。
マーケティング領域の事業が順調に成長した後にYoom事業を開始しました。当初は2つの事業を並行していましたが、別事業はM&Aで譲渡し、得た資金をYoom事業1本に集中させました。結果として、より早い成長スピードを実現できたと思います。
ーーここまで順調に進んだ理由について教えてください。
波戸﨑駿:
AIの波にうまく乗れたことが大きいと考えています。Yoom事業はAIの普及を見越して構想し、2021年から開発を進めました。市場の変化は想定より早かったものの、私たちはすでに事業基盤を築き始めており、一気に生成AIの波に乗ることができました。
少し話が変わりますが、私は死生観が強いタイプでして、死ぬときにいかに後悔しないかという”後悔最小理論”を重視しています。これは、起業家としての意思決定の指針にもなっています。
専門知識は不要 現場が使えるオールインワン自動化プラットフォーム

ーー貴社の事業内容と強みについて教えていただけますか。
波戸﨑駿:
弊社は、業務自動化を実現するハイパーオートメーションサービス「Yoom」を提供しています。従来のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)(※1)は専門性が高くて一部の大手企業にしか浸透しませんでしたが、Yoomは見た目や操作性にこだわり、人事や経理など現場の担当者の方々でも自動化を構築できる仕組みを整えました。
さらに、AI、RPA、OCR、API連携、データベースなど、自動化に必要な機能を1つのプラットフォーム上で完結できるのは弊社ならではの強みです。これだけ多くの自動化機能を1つのプラットフォームで提供しているサービスは、世界的に見てもほとんどありません。
直近の売上成長率は約300%と大幅に伸びました。開発には約3年を要しましたが、ここ1〜2年で成長軌道に乗ったと感じています。
長期的には売上1000億円規模の事業を構築したいと考えています。自動化を提供する企業として、できるだけ少数で高い生産性を維持し続けることを目指しています。
(※1):ソフトウェアロボット(ボット)などに基づく事業プロセス自動化技術の一種
プロダクト愛を胸に世界へ 未来を創る仲間と描く成長戦略
ーー今後の事業目標や展望をお聞かせください。
波戸﨑駿:
今後は、海外展開と採用強化が大きなテーマです。プロダクトの完成度はまだ5%程度であり、グローバルで通用するプロダクトをつくるため、エンジニアを中心とした採用を強化しています。
海外展開についてはすでに英語版から始めており、今後はスペイン語、ポルトガル語、フランス語など多言語での展開を目指しています。長期的には、世界中で使われるプロダクトにしたいです。
求める人材は、スキルよりも潜在的な能力や将来性を重視しており、未経験でも積極的に採用しています。弊社は裁量権が広く、年齢や社歴に関わらず昇進できる成長の機会を提供しています。今年度からは新卒の採用も始める予定です。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
波戸﨑駿:
弊社は、自律性と本質思考を重んじる点が特徴です。全社員に自律性を求め、リモート勤務も可能な自由な働き方を実現しています。また、オープンな情報共有を徹底しており、毎月の口座残高や経営数値など、会社の情報を社員は見ることができます。
また、弊社はプロダクト愛が強い会社です。製品の価値を最優先に考え、それを中心に事業戦略や組織運営を行っています。今後は、国内はもちろんグローバルでも通用するプロダクトをつくっていきたいと考えています。
課題解決型ではなく未来創造型の事業として、新しい未来をつくっていく。そういった志を持つ方であれば、職種を問わず、ぜひ私たちに声をかけていただきたいです。共に未来を築いていけることを楽しみにしています。
編集後記
自己資本での起業というリスクを背負いながらも、未来予測の力と「WillとCan」を見極める冷静な判断力で、着実に事業を成長させてきた波戸﨑氏の手腕は圧巻だ。自社開発にこだわり、高機能でありながら現場担当者が使いこなせる「Yoom」のプロダクト力、そしてグローバル展開を見据える壮大なビジョンからは、今後のさらなる飛躍と、世界を席巻するプロダクトへと進化する可能性を感じる。さらなる業界変革を期待したい。
