※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

漁獲量の減少や燃油価格の高騰などを背景に、魚価の低迷が続いている水産業。この課題の解決に立ち上がったのが、株式会社ウーオだ。同社は、日本最大規模の産直鮮魚仕入れサービス「UUUO(ウーオ)」を展開。産地と消費地をつなぐ新たな流通の仕組みを構築し、水産業の持続可能な未来に向けて挑戦を続けている。今回、代表取締役の板倉一智氏に、起業のきっかけとなった原体験や、「UUUO」が水産業界で支持を集める理由などを聞いた。

地元鳥取での「水産業界を救いたい」という思いが起業の原点

ーー起業のきっかけや経緯をお聞かせください。

板倉一智:
新卒で大手物流会社へ入社しましたが、同社を退職し、2016年に株式会社ウーオを設立しました。

起業の理由には、私の生まれ育った環境が関係しています。私の実家は港から徒歩10分の場所にあり、親族も漁業従事者でした。子どもの頃は、港には船がたくさん行き交い、競りの活気にあふれていた光景が印象に残っています。ところが、大人になって地元へ帰省して港に訪れると、船の数が半分ほどに減っているなど、様子が一変していたのです。さらに、漁師になった幼馴染からは「自分の子どもには、この仕事を継がせたくない」と聞かされ、強いショックを受けました。

この問題の背景には、ある現状があります。燃油価格の高騰などによりコストは増している一方、魚価がそれに見合うほど上がっていないのです。漁師は命のリスクが伴う仕事なのに、儲けという見返りが少ない。この現状を前に「地元鳥取県の水産業をどうにか再生したい」という思いが芽生え、起業を決意しました。

魚価の底上げを目指し「UUUO」で新たな販路を構築

ーー貴社の事業内容を教えてください。

板倉一智:
弊社では「すべての町を、美味しい港町に。」というビジョンのもと、漁業産地の魚価向上を目的に、産地と消費地をつなぐマーケットプレイス「UUUO(呼び名:ウーオ)」を運営しています。

同サービスは、スマートフォンから誰でも簡単に利用できる水産物のマーケットプレイスです。産地の荷主と、消費地にいる市場の卸業者・仲卸業者・小売店などをつなぎ、いつでもどこでも直接取引が可能な仕組みを提供しています。

このサービスを始めた背景には、ある狙いがありました。それは、産地側の販路を拡大すれば、魚価の安定的な向上につながるだろうというものです。売り先が増えれば、各買い手が水産物を求めて競争する構図が生まれ、結果として魚価が上がると考えたのです。開発の際は、地元の水産業や漁協から声を聞きながら、現場のニーズを反映するよう意識しました。

また、2年前から新たなシステムの提供も始めています。水産卸会社の入荷案内や配送指示、受注に関する業務を効率化するシステム「atohama(アトハマ)」です。

未経験から魚屋に挑戦し、信頼を得る重要性を痛感

ーー起業後に直面した困難は何でしたか。

板倉一智:
「UUUO」のサービスリリース前に、まずは魚屋を始めました。私たちは水産業界で働いた経験がありませんでした。そのため、「まずは現場で知見を深めよう」と考え、魚屋を始めたのです。そこでプレイヤーとして競りに参加し、買い付けなどの業務を経験しました。

ただ、今まで競りでの買い付け経験が全くありません。最初の頃は買い付けの仕方も分からず、希望価格で購入することもできない状況でした。さらに、既存の買い付け業者にとって私たちは新たなライバルですから、業界の輪に入ること自体が難しかったです。そのため、まずは見よう見まねでトライアンドエラーを続けました。それと並行して、既存の買い付け業者の方々と仲良くなることに注力しようと決意しました。

試行錯誤しながらコミュニケーション量を増やしていった結果、「UUUO」開発に向けた有益な情報も得られるようになったという経緯があります。

産地と消費者の両方に価値を提供し「業界になくてはならない存在」へ

ーー貴社の強みはどういった点にありますか。

板倉一智:
弊社の強みは、売り手・買い手の双方にとって実質的なメリットのある価値を提供できている点です。

売り手に提供している価値として、「UUUO」にアクセスするだけで500社以上の買い手にアプローチできることが挙げられます。販路を広げたいけれどノウハウもリソースもない売り手にとって、これは大きなチャンスです。買い手側にとっても、これまで仕入れることができなかった鮮魚に出合えることは、大きなメリットだと言えます。

このように両者のニーズを把握できるのは、ユーザーとの対話を重ね、現場の声を反映したサービス開発を続けてきたからです。私たちは単に顧客対応をするのではなく、業界全体が抱える構造的な課題にも目を向け、解決に取り組んできました。

現在、水産業において「UUUO」のような販路拡大に強みを持ったサービスは他にありません。実際に水産卸の企業の方々からは「UUUOがないと困る」という声をよくいただくようになりました。こうした評価をいただき、「UUUO」が業界で唯一無二の存在として成長してきている実感があります。

ーー20代、30代の読者も多いため、社会で活躍する若手人材へ応援のメッセージを最後にお願いします。

板倉一智:
私が大切にしているのは、「自分で決断したことには全力でコミットすること」、そして「1回の失敗で終わらせず、次につなげること」です。たとえ失敗したとしても、仮説を立て直し、次のアクションを考えるなど、PDCAを回せる人になることが重要だと考えています。

これから何かに挑戦しようとしている方や、自分のキャリアに迷いがある方もいるかもしれません。そんなときこそ、他人任せにせず、自分で考え、動き、責任を持って取り組む姿勢が大切です。ぜひ、どんな状況でも主体性を持ってチャレンジを続けていける人になってほしいと思います。

編集後記

創業からまもなく10年が経つ株式会社ウーオ。「水産業にとってなくてはならない会社でありたい」という創業当初の思いは、今も変わらない。物価高騰や高齢化といった社会課題が重くのしかかる昨今。「UUUO」をはじめとしたサービスで、水産業の再生を目指す同社の挑戦に今後も注目したい。

板倉一智/鳥取県出身。実家から徒歩10分の場所に港があり、親族や幼馴染の多くが漁業従事者という環境で育つ。新卒で大手物流会社へ就職。帰省のたびに漁船の減少など水産業の衰退を目の当たりにし、このままでは地域が持続できないという危機感を抱く。現場で苦しんでいる人たちの役に立ちたいという思いから、水産流通の構造を変えるべく、株式会社ウーオを設立。