
ラグジュアリーホテル開発事業を主軸に、日本の魅力と文化を「体験価値」として提供する、ウェルス・マネジメント株式会社。同社はグループ内に不動産開発事業を営むリシェス・マネジメント株式会社と、ホテル経営・運営事業を行うワールド・ブランズ・コレクション ホテルズ&リゾーツ株式会社、不動産投資運用事業を担うウェルス・リアルティ・マネジメント株式会社が一体となって不動産の取得・開発・運用・売却までを手がけている。日本の魅力を体現するホテルづくりに情熱を注ぐ、代表取締役社長の千野和俊氏に話をうかがった。
多様な経験を経て辿り着いた、日本文化の発信という挑戦
ーー千野社長のご経歴を教えてください。
千野和俊:
大学卒業後、三菱地所グループに入社しました。入社後はマンション販売に1年ほど携わり、2年目には広尾ガーデンヒルズの分譲マンション企画チームに配属され、高級マンションの企画に関わっていました。その後、約12年間にわたって、商業不動産の仲介や仕入れの仕事に従事。大阪支店での勤務を経て、東京に戻り、不動産証券化の業務に携わるようになりました。三菱地所グループには合計で約25年間在籍し、そのうち3分の1ほどは不動産証券化の仕事に関わっていましたね。
ーー起業の際、ホテル開発事業に着目されたのはなぜですか?
千野和俊:
仕事を通じて、外国人投資家を含めたさまざまな方と取引する中で、かつて父が「グローバルな仕事をするといい」と言っていたことを思い出しました。
そして、日本のデベロッパーがビジネスホテルを中心に開発している中で、日本には世界に通用するホテルブランドが不足していると感じるようになりました。また、学生時代から漠然とホテル業界に憧れを持っていたこともあり、それらが結びつく形で2006年にホテル開発事業という方向性で起業を決断しました。
投資家とホテルゲスト、双方に価値を提供するホテル開発事業を展開

ーー貴社グループの事業内容について教えてください。
千野和俊:
弊社グループの事業の中心はホテル開発とその運営です。観光業に焦点を当て、不動産証券化の手法を活用して投資家から資金を調達し、ラグジュアリーホテルを主軸に開発や運営を行っています。世界には、日本では馴染みのない有名な個性あるホテルブランドが多数存在します。そんなホテルブランドと提携しながら、日本の文化、精神性を融合させた独自の世界観をもった施設づくりを心がけているのが特徴です。ホテルを使用されるお客様だけでなく、投資家の皆様にも魅力的な事業として高く評価をいただいています。
ーーグループとしての強みはどのような点にありますか?
千野和俊:
グループとしての強みは、グループ4社の機能が有機的に連携している点にあります。投資事業とグループ会社の経営管理を担う弊社と、不動産開発事業を手がけるリシェス・マネジメント株式会社、ホテル運営事業を行うワールド・ブランズ・コレクション株式会社、不動産投資運用事業を担うウェルス・リアルティ・マネジメント株式会社、この4社が一体となって事業を展開しています。この体制によって企画、開発(ものづくり)、運用、売却の各フェーズにおいて事業に関わるステークホルダーに対して投資機会・収益分配を提供することができ、さらに高品質なホテル運営で収益を確保するという一連の流れをすべてグループ内で実現できています。
そして、日本文化の持つ稀有な価値をホテルご利用のお客様と共有し、それを世界に通用するおもてなしとして提供している点は、弊社グループ最大の強みだと考えています。
日本の価値観を大切にし、未来を切り拓く
ーー経営者として大切にしている価値観について教えてください。
千野和俊:
私が一番大切にしているのは「日本の精神性」です。日本の武士道には「7つの徳」と呼ばれる行動規範がありますが、その中でも「義(人としての正しさ)」「勇(正しいことを成す)」「仁(人を思いやる)」「礼(礼儀を行動で示す)」の4つを特に重視しています。しかし、近年はこうした日本の精神性、日本人としての価値観がやや薄れてきたように個人的に感じています。
ホテル開発・運営を通じて、これらの価値観を形にして見せていくことで、日本人自身が自らの文化を見つめなおすきっかけにもなれば嬉しいですね。ホテルに滞在される国内外のお客様に「日本は素晴らしい所だ」「日本に来てよかった」と心から感じていただけるような空間づくりが、私の目指すところなのです。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
千野和俊:
世界各地に点在する、知られざる魅力的なホテルブランドの開拓、そして日本の文化を発信していくという想いを共有できるホテルオペレーターと投資家とのネットワーク構築に力を入れていく予定です。加えて、社内ではインナーブランディングを推進し、社員一人ひとりが日本文化の価値を理解し、発信できる人材となるよう教育を進めています。
こうした取り組みを通じて、「日本の精神性」をさらに発揮できる体制を整え、世界の人々を魅了し続けたいと思います。
編集後記
グローバル化が進む現代社会において、自国の文化や精神を見つめなおす重要性を説く千野社長の言葉には、日本人としてのアイデンティティへの強い誇りがあふれていた。不動産というハード面と、おもてなしというソフト面の両方から日本文化の素晴らしさを発信する試みは、ビジネスとしての戦略を超えた使命感を帯びているように感じた。

千野和俊/1957年、大阪府生まれ。大学卒業後、三菱地所グループに入社。2001年に三菱地所投資顧問株式会社投資営業部長、2003年に取締役を歴任。2006年、ウェルス・マネジメント株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2016年、同社の東証二部(現 東証スタンダード)上場を実現。現在はグループ内のホテル運営会社であるワールド・ブランズ・コレクションホテルズ&リゾーツ株式会社の取締役会長も兼務している。