※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

不動産の複雑な権利関係を調整するソリューション事業を基盤に、分譲マンション開発などを手がける株式会社ワールドレジデンシャル。大手デベロッパーが参入しにくい領域で独自の強みを発揮し、成長を続ける企業である。同社を率いるのは、リクルートコスモス(現・コスモスイニシア)で長年キャリアを重ね、顧問まで務めた桑原伸一郎氏だ。一度はキャリアの第一線を退いた同氏が、再び挑戦の舞台に立ったのはなぜか。その決断の背景にある思い、そして会社の未来像について話を聞いた。

大手ではなく選んだ黎明期の企業への挑戦

ーー不動産デベロッパーの道を志した経緯をお聞かせください。

桑原伸一郎:
小学生の頃から設計に興味があり、新聞チラシの裏に基地の設計図のようなものを描いていました。もともと理系科目が得意だったこともあり、東京大学では都市工学を学びました。次第に自分で手を動かすより「こういう街をつくりたい」と構想を練る方が好きだと気づきました。そして、不動産開発という仕事に惹かれていきました。

大学卒業後、リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)入社、同日付けで子会社のリクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)へ出向、程なく転籍・入社しました。私がいた学部学科では、官僚か大手デベロッパーを目指すことが一般的でしたが、大手の安心感と、小規模会社(当時100人程)の自由と成長性の両面が叶えられるはず!と目論んで同社を選択しました。しかしながら、当時の会社は大半の事業が赤字物件であり、「会社は潰れるのでは」「目論見は学生の浅知恵」と本気で心配し、後悔したことを覚えています。

急成長と未曾有の試練の中で培われた仕事の哲学

ーーリクルートコスモス時代はどのような経験をされたのでしょうか。

桑原伸一郎:
入社後は用地仕入れ部門に配属され、会社は凄まじい勢いで成長しました。4〜5年で社員は1500人規模に拡大し、私も5年目になる前に課長になりました。

そんな中、リクルート事件(※)を経験します。世間から猛烈なバッシングを受け大変な状況でしたが、若かったこともあり、未来志向で乗り越えることができました。こうした困難や苦難が、今の自分を形成する肥やしになったと感じています。

(※)リクルート事件:1988年に発覚した、リクルートが未公開リクルートコスモス株を政治家、官僚、財界人などに譲渡した贈収賄事件。

ーー仕事をする上で大切にされている考え方は何ですか。

桑原伸一郎:
仕事に人生の3分の1の時間を費やすわけですから、ただ生活のためだけでなく、刺激的でなければ意味がないと考えています。「ハイレベルで自分の成長につながる働き方をしたい」と常に思っていますし、少なくとも自分の周りはそうした心持ちで臨める環境でありたいです。

大手が挑まない領域にこそ潜む勝機 事業の根幹

ーー貴社の社長に就任されることになった経緯をお聞かせいただけますか。

桑原伸一郎:
コスモスイニシアで最後までやりきった達成感もあり、実は、顧問退任後は特に働くつもりはありませんでした。ゴルフでもしながら過ごそうかと、いわゆる「終活モード」に入っていたのです。そのため、お声がけをいただいた当初は、一度終えたマインドを再び燃え上がらせる自信がなく、何度かお断りしました。

しかし、お話を聞くうちに、この会社の黎明期の雰囲気がかつて100人規模だった頃のコスモスイニシアと重なって見えたのです。そこに運命的なものを感じ、お引き受けすることにしました。

ーー貴社の事業の柱と、その強みについて教えてください。

桑原伸一郎:
最も強いのは、都市開発における複雑な権利関係の調整を行うソリューション事業です。非常に手間がかかるため大手は参入しにくい領域ですが、ここに弊社の強みがあり、事業の基盤となっています。

この事業で生み出した開発用地は、自社の分譲マンションを開発するレジデンス事業を展開しています。これらが弊社の主要事業です。

ーー今後、新たに注力していく分野はありますか。

桑原伸一郎:
次の柱として、プロパティマネジメント事業(賃貸管理)と再生事業に力を入れています。プロパティマネジメント事業によって安定的な収益基盤を築くとともに、建築費が高騰する中、中古物件を再生・リノベーションして価値を高める再生事業は現実的だと考えています。これから大きく育てていきたい事業です。

求める人物像は「貪欲さ」 成長を加速させる人材戦略

ーー事業環境の変化に対し、組織としてどのように対応されていますか。

桑原伸一郎:
マンション価格が高騰し、高額物件を扱うにふさわしい会社全体の構えが求められています。お客様をお迎えするギャラリーの内装からブランディング、顧客体験のすべてを見直しているところです。

また、会社の永続的な発展のためには経営幹部の育成が不可欠だと考えています。社長の仕事は次の社長を育てること。役員や部長クラスには、より広い視野で経営を考えられるようになってもらう必要があります。

ーー採用や人材育成の面で、取り組まれていることはありますか。

桑原伸一郎:
若手人材の採用や育成についても積極的に取り組んでいます。私が社長に就任後、それまでのキャリア採用中心から新卒採用へ大きく舵を切りました。活躍している人材の共通点は「貪欲さ」だと感じています。不動産の仕事は心が折れそうになることも多いからこそ、強い意志が必要です。「結果を出したい」というハングリーさが人を成長させると確信しています。

その成長を後押しするため、入社後6ヶ月間の仮配属制度を設け、実際の仕事を経験した上で自分のキャリアを選択できる仕組みも整えました。

景気の波に左右されない 永続する企業への揺るぎない意志

ーー社員と向き合う上で大切にされていることは何ですか。

桑原伸一郎:
70人規模の会社なので、社員と直接対話することを大切にしています。立ち位置としては、社長ではなく営業所長くらいの感覚です。今の若い世代は「やりがい」や「成長実感」を重視するためです。

ーー今後、貴社をどのような会社にしていきたいですか。

桑原伸一郎:
サステナビリティ、つまり会社の永続性を確立することです。不動産デベロッパーは景気の波に左右されがちですが、そこから脱却し、どんな嵐が来ても揺らがない安定した収益基盤を築きたい。それが私の最大の目標です。

編集後記

リクルートコスモスで一時代を築き、第一線を駆け抜けた桑原氏。穏やかな引退生活から一転、再び挑戦の舞台に同氏を駆り立てたのは、若き日の自身と重なる創業期の熱気と、未来への大きな可能性だった。幾多の困難さえも成長の糧に変えてきたその歩みは、同氏の揺るぎない仕事の哲学を物語る。確固たるソリューション事業を土台に、卓越した経験と経営手腕が融合した今、同社は不動産業界に新たな軌跡を刻むだろう。

桑原伸一郎/1959年生まれ。1984年3月東京大学卒業後、株式会社リクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)に入社。1986年、株式会社リクルートコスモス(現・株式会社コスモスイニシア)に入社。2008年6月、同社取締役 兼 西日本支社支社長、2021年、同社顧問に就任。2023年1月、株式会社ワールドレジデンシャル代表取締役就任し、2024年3月には親会社である株式会社ワールドホールディングスの取締役に就任。