※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

近年、不動産業界は少子高齢化や人口減少の影響により、空き家や空き地の増加、建物の老朽化といった問題に直面している。一方で、コロナ禍を経て働き方が変化し、シェアオフィスなどの新しい空間の提供も浸透してきた。長年にわたり不動産賃貸業で地元京都から愛されている株式会社長谷ビル。代表取締役社長の長谷拓治郎氏に、社長としてのこだわりや苦労、そして今後の展望についてうかがった。

「新しいことをやってみたい」社長就任前の挑戦と苦労

ーー入社前の経歴についてお聞かせいただけますか?

長谷拓治郎:
長谷ビルは1953年に祖父が始めた会社ですが、私はもともと家業を継ぐ予定はなく、高校卒業後は東京の大学へ進学し、製薬会社に営業職として入社しました。営業をしてみたいという思いと、医療という新しい分野に挑戦したいという気持ちがあったのです。製薬会社で3年勤めた頃、祖父の体調が悪化し、家族を助けたいという思いから家業に入ることを決意したのです。

ーー入社後に取り組まれたことについて教えてください。

長谷拓治郎:
入社後1年間勤めた後、より会社に貢献できるようにという思いから、アメリカの大学で経営を学びました。2011年に帰国してすぐ、弊社が保有するビルを活用して、シェアオフィス「share KARASUMA(シェアカラスマ)」(現在は閉鎖中)を始めました。当時、ビルの空室率が高かったため、何か有効に活用できる方法はないかと考えたのがきっかけです。

シェアオフィスの特徴のひとつは、その価格設定にあります。一般的な不動産賃貸オフィスでは、契約時の保証金や月々の賃料、退室時の原状回復費用などが多くかかりますが、シェアオフィスでは会員制として月額料金を設定し、光熱費などの費用をすべて含むことにしました。退室時にも費用がかからない仕組みにしたことで、個人事業主様やベンチャー企業様を中心に、約150社にご利用いただきました。

地元とのつながりを大切に、時代に合わせた空間作りを重視

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

長谷拓治郎:
弊社は不動産賃貸業を営んでおり、オフィスビルやマンションの建設、およびその貸し出しが基本事業です。祖父の代から続いているため、古いオフィスビルもありますが、シェアオフィスのような新しい働き方に対応した空間づくりも重視しています。賃貸業はオフィス事業から始めましたが、都市中心部に住みたい方のニーズに応え、ネットワークを活用してマンション事業も開始しました。

また、こだわりのある空間で働きたい方をターゲットに、新しくシェアオフィスを開発しています(2026年春頃にオープン予定)。入居されている方との交流を通じて、新しいオフィス設計の参考にしています。今後もつながりのある方々にとって、重要で必要とされる空間づくりを大切にしながら、新しい事業を展開していく予定です。

ーー貴社の強みは何だとお考えですか?

長谷拓治郎:
京都を拠点にしている点は非常に大きな強みです。日本文化の魅力を感じられる京都で働きたい、住みたいという方が多いため、その受け皿となるべく、オフィスやマンションを展開しています。また、地元とのつながりを大切にしているため、多くの場面で声をかけていただけます。不動産の枠にとらわれず、幅広い業務を受けることができる点も、弊社の強みです。

「人とのつながり」を大切に歩んできた人生

ーー社長として、どのような姿勢で事業に取り組んでいるのでしょうか。

長谷拓治郎:
私自身の「原動力」が何か、を常に意識しています。目標や社会貢献も大切ですが、私は人との関わりの中で信頼され、感謝されることにモチベーションを感じます。人とのつながりを大切に活動することが私自身のエネルギーとなり、会社を前に進める力になっているのです。

人との関わり合いにおける信頼や感謝が自身の原動力であることは、小学生の頃から感じていました。当時通っていた塾の算数の先生に褒められたことで算数が好きになった一方、高校の数学の先生が苦手で、数学を全く勉強しなくなったのです。

この経験から、私の原動力は人との出会いや関わりに深く関係していると気付きました。もし今まで出会ってきた人が違っていたら、全く別の人生を歩んでいたかもしれません。

ーー貴社はどのような人材を求めていますか?

長谷拓治郎:
相手の役に立とうとする人、親切な人を求めています。また、感性が異なる人が多くいるほうが会社は成長するため、さまざまな感性の人に来ていただきたいですね。そして、入社後も自分の感性を大切にしてほしいと思っています。

「今、関わっている人」を大切にして展開する未来

ーー今後、特に注力していきたいことを教えてください。

長谷拓治郎:
新しいビルの建設やオフィス・マンションの展開と、取引先との親交を図ることに注力したいと考えています。取引先には、オフィスやマンションを建設する際のデベロッパーやゼネコン、建設後のビルの保守関係の会社、内装関係・空調関係の業者、ビルマネジメント事業におけるビルオーナー、オフィスビルのテナント企業などが含まれ、多岐にわたります。

また、テナントとして入っていただく企業は、仲介業者に任せるのではなく、そのビルにふさわしい企業を自分たちで探し、交渉を行っています。今後もこの方針を大切にしていきます。

ーー最後に、貴社の今後の展望についてお願いします。

長谷拓治郎:
以前は、経営者として大切なことは、目標を掲げて未来をつくり上げることだと考えていたのですが、その考えは変わりました。今は、一緒に働く従業員を大切にし、自分の価値観や考え方を彼らに理解してもらうことに注力しています。

みんなの価値観を合わせて未来を築き上げていく方が面白いと感じているからです。今行っている一つひとつのプロジェクトを丁寧に積み上げていくことで、気付いたときには大きな未来が開けていると信じています。

編集後記

長谷社長は取材中、「人との付き合いには相性があるが、苦手な人も含めて誰とでもしっかり付き合うことが大切」だと語った。前職で営業をしていた時には、苦手な人とのコミュニケーションを避けて失敗した経験や、積極的にコミュニケーションをとって関係を改善した成功体験があったという。

お話をうかがって、京都という街に根付き、人とのつながりを大切にしながら事業を展開していることが実感できた。長谷社長が牽引する株式会社長谷ビルのような会社が、これからも必要とされるだろう。

長谷拓治郎/1980年生まれ、京都市出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手製薬会社の営業職を経て、2006年に株式会社長谷ビルに入社。2010年に米国デンバー大学でMBAを取得し、帰国後、オフィスビル・マンションの運営に関わる。2014年に株式会社長谷ビル代表取締役社長に就任。