
居酒屋の経営を主軸に、設立からわずか数年で28店舗を展開する急成長企業、株式会社J-Connect。コロナ禍という未曾有の危機を乗り越え、V字回復を遂げた。その原動力は、創業者である同級生4名の強固な絆と、逆境から生まれた「感謝」の経営哲学である。事業拡大のみならず、日本の食文化の継承や子どもたちの未来支援にも情熱を注ぐ代表取締役社長の磯貝拓麻氏に、独自の経営論と未来への展望を聞いた。
知識ゼロからの挑戦 仲間とだから乗り越えられた創業期
ーー起業を志した原点についてお聞かせください。
磯貝拓麻:
専門学校を卒業する半年前に就職の内定を得ていましたが、現在の創業メンバーである同級生に誘われ、起業しました。当時はまだ10代で「誰かに指示されたくない」「自分の考えで挑戦したい」という自由への強い憧れがありました。居酒屋でのアルバイト経験から、「これなら自分たちでもできるはずだ」という、今思えば根拠のない自信だけで走り出したのが正直なところです。
ーー起業されてから、どのような困難がありましたか。
磯貝拓麻:
社会経験が全くない状態でしたので、名刺交換の作法すら分かりませんでした。銀行口座の開設にも苦労し、若さゆえに足元を見られ、騙されそうになったことも一度や二度ではありません。しかし、そうした経験があったからこそ「もっと知識を蓄えなければ」と経営者としての自覚が芽生えました。人間的にも大きく成長できたと感じています。どのようなピンチに陥っても、最後は創業メンバー全員が身を挺して乗り越えてきました。
ーー事業を拡大される中で、最大のターニングポイントはどこでしたか。
磯貝拓麻:
間違いなく、コロナ禍で会社が倒産しかけたときです。2020年が最も厳しく、資金も尽き、来月の支払いもままならない絶望的な状況でした。そのとき、創業メンバーの一人が「この会社がなくなったとしても、これからも土手で会議を続けるだけだろう」と呟いたのです。そのひと言が妙に腑に落ち、腹が据わって何も怖いものがなくなりました。
この経験を通じて、苦しいときに支えてくださるお客様や従業員への感謝の気持ちが、経営の根幹にあるべきだと確信しました。これが私の経営哲学を確立させた最大の転機です。
強さと独自性 少数精鋭によるチームワークと社会貢献

ーー貴社のチームワークは、どのようにして育まれているのでしょうか。
磯貝拓麻:
弊社の強みは、創業メンバー4人を中心とした家族のような一体感にあると考えています。上司と部下というより、部活の先輩と後輩のような関係性を大切にしてきました。実は、現在の幹部層の多くは、私たちが20歳の頃に経営していた店の元アルバイトです。彼らが高校生だった頃からのお付き合いだと話すと、多くの方に驚かれます。
これまで、一人ひとりと「何がやりたいのか」という自己実現を軸に対話を重ね、現場の意見を吸い上げる形で事業や人事の意思決定を進めてきました。創業時に抱いた思いを共有する仲間が会社の核となっていることが、弊社の強みです。
ーーそうした「思い」を大切にする経営は、事業にどのように反映されていますか。
磯貝拓麻:
たとえば、弊社が手がけるお米の事業に、その考えが色濃く反映されています。この事業は被災の不安が多い地域で育った私自身の経験が原点です。有事の際に日本の食の根幹であるお米がいかに重要かを痛感し、食料確保という課題に取り組みたいと考えました。同時に、第一次産業の担い手不足の解決に貢献するため、日本食や日本文化の価値を改めて示し、日本の食文化を未来へ繋ぐことも私たちの使命だと感じています。
また、弊社には養護施設で育った社員がいます。彼との出会いがきっかけで、養護施設出身の方々への支援も始めました。さまざまな事情で社会に複雑な感情を抱える子どもたちに、素敵な大人が関わることで、少しでも良い影響を与えられるのではないかと考えたからです。
今月、施設の近くに新たな店舗を構え、子どもたちに外食や農業体験の機会を提供していく予定です。そのような取組を通じて、楽しんで頂き、子供達の未来に選択肢を増やしてあげられたらと考えています。彼らの未来、ひいては日本の未来に繋がる活動だと信じています。
利益と理念の先に見据える日本の食の未来
ーー今後の事業展望についてお聞かせください。
磯貝拓麻:
5年後に年商80億円、80店舗の展開という目標を掲げています。その実現のため、しっかりと収益を上げる「稼ぐ業態」と、先ほどお話しした社会貢献に繋がる「思いの業態」。この二つの軸で事業を拡大していく戦略です。物件の取り合いが激化する中でも勝ち抜けるよう、さまざまな立地に対応できる5つの新業態を準備し、すでに始動しています。
そして最終的には、「日本の食文化という尊いものを、食を通じて後世に繋いでいる会社」として活躍し、幸福度の高い社会の実現が目標です。日本の良さを守り、育て、次の世代に継承していく。その役割を私たちの事業で果たしていきたいと考えています。
ーー採用に関して、どのような人材を求めていますか。
磯貝拓麻:
心から飲食が好き、接客が好き、日本の今後に不安を抱いている方や、社会貢献したいという方々と一緒に働きたいですね。今、飲食業界で働く人の中で、本当にこの仕事が好きだという人は、実は多くないかもしれません。だからこそ、私たちは仕事の楽しさや、やりがいを実感できる環境づくりに全力を注いでいます。評価制度を新たに整備し、今後は研修専門の店舗を設けて価値観の共有を図る計画です。まずは自分たちが楽しみ、その楽しさをお客様に伝えていく。そして幸福度の高い社会の実現に近づく。そんなポジティブな循環を生み出せる仲間を求めています。
編集後記
根拠のない自信から始まった挑戦は、仲間との絆と社会への感謝を羅針盤に、今や日本の未来を見据える大きな航海へと乗り出している。磯貝氏の言葉には、経営者としての冷静な戦略性と、社会課題に挑む熱い情熱が共存していた。単なる飲食店経営ではなく、日本の食文化を守り、困難を抱える子どもたちの未来を照らす。その温かい眼差しこそが、同社の真の強さである。利益と理念の両輪が描く航跡は、飲食業界の新たな地図となるに違いない。

磯貝拓麻/1994年5月18日生まれ。東京都葛飾区出身。2013年、中央工学校へ進学。在学中に同級生とともに居酒屋でアルバイトを始め、学生ながら店長を任される。この経験を通じて、共に働いていた同級生と起業を決意し、専門学校を中退。2014年、株式会社J-Connectを設立。現在、北海道から福岡まで全国に28店舗の飲食店を展開する企業へと成長を遂げている。