※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

双日グループの中核を担うIT企業、双日テックイノベーション株式会社。2024年7月に日商エレクトロニクス株式会社から社名を変更した同社は、商社として培ってきたグローバルな知見とITの専門性を融合させ、顧客企業の課題解決を支援している。2024年4月に代表取締役に就任した西原茂氏は、双日株式会社で石炭部長や代表取締役専務執行役員などを歴任。商社の最前線で培った「本質を見極める力」を武器に、同社の組織文化改革と持続的な成長を牽引する西原氏に、その哲学と未来への展望を聞いた。

理系から商社の世界へ キャリアの原点と双日の魅力

ーー大学卒業後のキャリアの歩みについてお聞かせください。

西原茂:
私は理系の工学部出身で、もともとは建築や土木のような、規模の大きなものをつくりたいという夢を持っていました。しかし、大学でラグビーに打ち込むうち、人と接しながら新しいビジネスを創造することへの関心が強まり、自身の適性もそこにあると感じ始めたのです。

当時は現在のように情報が多くなかったため、友人との会話で初めて「商社」という選択肢を知り、挑戦してみることにしました。そこで出会った日商岩井、現在の双日の社員の方々が心から楽しそうに仕事をしており、「この会社で働きたい」と強く感じて入社を決意しました。鉄鋼を扱う部署に配属され、当初は戸惑うこともありましたが、仕事は面白く、すぐに自分に向いていると実感しました。

ーー西原社長を惹きつけた双日の魅力とは何だったのでしょうか。

西原茂:
自分が「やりたい」と思ったことを、周囲を説得しながら挑戦させてくれる文化が一番の魅力です。やるべきことを全うするという前提の上で、新しい挑戦を後押ししてくれる文化が私を育ててくれました。「やらされる」仕事ではなく、主体的に挑戦できる。もともと同じルーツを持つ双日テックイノベーションにも、この双日の良さが受け継がれていますが、さらに引き出していきたいと考えています。

価値を最大化せよ 部長時代に貫いた「本質を見抜く力」

ーーこれまでのキャリアで特に印象に残っているエピソードはありますか。

西原茂:
石炭部長時代の経験は鮮明に記憶しています。当時、会社が双日となって数年で、資産の入れ替えを進める厳しい時期でした。私が担当する石炭部の資源会社の株式を売却する話が持ち上がったのです。財務部から提示された額に「この株式の価値はそんなものではないはずだ」と直感し、「3ヶ月ください。必ず今より高く売却します」と上層部に掛け合いました。部員一丸となって国内外を奔走した結果、当初の提示額の4〜5倍の利益で売却できました。

ーーその経験から得られた、現在に生きる価値観について教えてください。

西原茂:
あの時、なぜ「やらせてください」と言えたのか。それは、常に「本質は何か」を自問自答していたからです。この株式の本当の価値、そして自分のミッションである“価値の最大化”を見つめていました。私は社員に、ビジネスを成功させる要点は三つあると伝えています。第一に「本質を見極めること」、第二に「考え抜いてやりきること」、そして第三に「周りの共感を得ること」。この三つが揃わなければ、物事は前に進みません。

顧客の課題に深く入り込む 企業の強みと真摯な姿勢

ーー顧客企業とのかかわりにおいて、御社が大切にしている価値観や強みは何でしょうか。

西原茂:
私たちの最大の強みは、お客様に対して「真摯であること」だと考えています。単にシステムを納品するのではなく、お客様のビジネスに深く入り込み、お客様の立場に立ってその本質的な課題が何かを一緒に考える。その姿勢こそが、私たちの価値の源泉です。特に経営層の方々は、ITの専門知識がない中で「こうしたい」という理想と現実のギャップにジレンマを抱えていることが少なくありません。私たちは、そうした経営と現場の間に立ち、コミュニケーションを仲介することで、本当に価値のある解決策を導き出していきたい。そのための対話を、私たちは何よりも大切にしています。

組織と人が連携する文化へ 社長就任後に着手した改革

ーー社長に就任されてから、どのような組織改革に取り組んでいますか。

西原茂:
社員が侃々諤々と議論できる、風通しの良い組織は強いと考えています。その実現のために、私自身が社員と直接交流し、双方向のコミュニケーションが生まれる仕組みづくりを進めています。評価制度も見直し、来春の新制度導入を目指して議論を重ねている最中です。また、昨年導入したAsanaによるプロジェクト管理や方針共有を日常業務に定着させるとともに、"やりきる文化"を醸成することで、会社全体の生産性向上を目指しています。組織の付加価値を高めるには、社員同士、そして組織間の「連携」が不可欠です。各組織が持つナレッジを共有し、互いに知恵を出し合える関係を築けるかが課題となります。会社と個人、この両輪が共に成長を実感できる状態に向けて、連携の文化を根付かせたいですね。

ITで未来を切り拓く 「共感」を軸に描く会社の未来

ーー5年後、双日テックイノベーションをどのような会社にしていきたいですか。

西原茂:
常に新しいことに挑戦し、成長し続けられる会社にしたいです。会社の成長が社員の成長実感につながり、それが次の挑戦への意欲となる好循環の創出を目指しています。お客様の課題である生産性向上に対し、私たちのソリューションを組み合わせて応えたい。本質的な課題解決を提案できる存在でありたいと考えています。

ーーその未来を実現するために、どのような人材を求めていますか。

西原茂:
私たちが掲げる「ITで未来を切り拓く先駆者」というミッションに「共感」してくださる方に来ていただきたいです。共感力とは、相手を認め、互いに高め合う心だと考えます。周りと連携して挑戦し、誰かの挑戦を応援できる。そうした気持ちを持てる方々と一緒に会社を成長させていきたいです。

ーーこの記事を通じて、特に誰にメッセージを届けたいですか。

西原茂:
三つの層に届けたいです。まず、これから弊社に入社する方々。次にお客様やパートナーの皆様。そして何よりも、現在働いてくれている社員たちです。外部への発信は、ブーメランのように社員へのメッセージとなり、自社を再認識するきっかけになると信じています。

編集後記

「本質」を見極め、価値の最大化に挑んだエピソードは、西原氏の揺るぎない軸を物語る。その哲学は、ITという新たなフィールドでも組織と人を動かす原動力となっている。社員の主体性と「共感」を重んじる同社の挑戦は、多くの企業が抱える課題解決への一つの解となるかもしれない。「ITで未来を切り拓く先駆者」たちの今後の飛躍が楽しみである。

西原茂/1986年、横浜国立大学工学部卒。日商岩井に入社(日商岩井は2004年4月、ニチメンの合併により双日株式会社に商号変更)。双日においては石炭部長、経営企画部長などを務め、専務執行役員として石炭・金属、食料・アグリビジネス、生活資材、リテール事業などを管掌した。2018年6月に双日代表取締役専務執行役員に就任。2024年4月より現職。