※本ページ内の情報は2025年9月時点のものです。

押出発泡ポリスチレンフォームのリーディングカンパニーとして、日本の建築業界を支えるデュポン・スタイロ株式会社。同社の青い断熱材「スタイロフォーム」は、快適な住環境の実現にとどまらず、空港や道路といった社会インフラの整備、さらには災害復旧の現場でも活用され、その可能性を広げ続けている。その事業の根底には、環境・健康・安全(EH&S)と倫理・コンプライアンス(E&C)を最優先する「コアバリュー」の確固たる理念が存在する。約30年にわたりグローバルな化学業界でキャリアを積み、同社を率いる代表取締役社長、有友完氏に、技術力の源泉と未来へのビジョンについて聞いた。

グローバルな経験が育んだ経営者としての信念

ーーはじめに、社長のご経歴についてお聞かせください。

有友完:
私はアメリカの総合化学会社であるダウ・ケミカルに新卒で入社しました。ダウとデュポンは、約6年前に一度合併し、その後の計画的な事業再編を経て、一部の事業と社員が現在のデュポンに移籍したという経緯があります。私もその一人で、ダウ・ケミカルで約30年勤務したのち、デュポンの一員となりました。これまで、水処理関連の事業部に約10年、自動車関連に約17年、そして現在の建材関連で約10年と、大きく3つの業界を経験してきました。

ーー社長ご自身のキャリアにおける、転機となったご経験を教えてください。

有友完:
ダウ・ケミカルに在籍していた1998年からの約7年間、米国本社で勤務した経験が最大の転機です。“Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、足元から行動せよ)”という言葉がありますが、グローバル企業全体の視点や、世界中のお客様の動きを肌で感じたことで、視野が大きく広がりました。この経験を通じ、仕事の責任は最終製品を使ったお客様に“良かった”と感じていただくまで続くと学びました。目先の利益だけでなく、その先まで見据えて責任ある仕事をするという考え方は、この時の経験がなければ生まれなかったでしょう。現在の経営においても、この信念が私の土台となっています。

ーー経営者として、従業員やパートナー企業と、どのように向き合っていますか。

有友完:
まず、従業員には“この会社で働いてよかった”と心から思える組織をつくることを約束しています。人生の多くの時間を費やす場所だからこそ、働く価値を見出せる環境が不可欠です。同時にお客様やパートナー企業の皆様にも、私たちの製品やサービスを通じて“取引してよかった”と感じていただき、長期的な関係を築いていきたいと考えています。この二つの思いは、私が経営を担う上で変わることなく大切にし続けていることです。

断熱材の枠を超えて進化する「スタイロフォーム」の技術力

ーー貴社の主力製品「スタイロフォーム」の特徴と、その可能性についてお聞かせください。

有友完:
「スタイロフォーム」は、ポリスチレンというプラスチックを原料とした板状の断熱材です。主な用途は住宅の断熱で、壁や床、基礎、天井、畳の一部に施工することで、夏は涼しく冬は暖かい、快適な住環境をつくります。しかし、その用途は住宅にとどまりません。軽量で施工しやすい特徴を活かし、非住宅建築、冷凍倉庫、土木工事の分野でも活躍しています。ビル建設ではコンクリートの代わりに床の段差を埋め、土木工事では軟弱な地盤に道路を建設する際には土台として活用されるなど、その用途は多岐にわたります。工期短縮や人手不足の解消にも貢献できるため、社会インフラを支える重要な素材となっています。このように、私たちは断熱材という枠組みを超え、常に新しい用途を広げています。

ーー競合他社にはない、製品独自の強みは何でしょうか。

有友完:
断熱性能に加え、独自の付加価値を提供できる点が私たちの強みです。代表的な製品が、防蟻性能を持たせた「スタイロフォームAT」です。温暖化でシロアリの被害が広がる中、断熱材が食べられてしまうという課題がありました。「スタイロフォームAT」は、断熱材そのものに防蟻機能を持たせた画期的な製品で、押出発泡ポリスチレンの業界内でこの特徴を持つ製品は弊社の「スタイロフォームAT」のみです。また、製品だけでなく新しい工法の開発にも力を入れています。たとえば「スタイロライナーWSF工法」は、簡単な施工でコンクリートの使用量を削減できる嵩上用の工法です。こうした独自の製品や工法の提案を通じて、他社との差別化を図っています。

一方で、日本事業で開発し、ユニークな製品として市場で好評いただいているウッドラック™は、薄型のスタイロフォームのような製品として、畜舎や冷蔵庫などの断熱用途としてお使いいただいていますが、一方で広告業界のパネルや、産業資材などにも多岐の産業でご愛顧いただいています。

経営の基盤となる3つの柱と社会への貢献

ーー事業運営の根幹にある理念や、社会との関わりについてお聞かせください。

有友完:
私たちは、デュポングループ共通の「コアバリュー」を経営の基盤に置いています。これは、EH&S(環境、健康、安全)や高い倫理観を最優先するという考え方です。これに、企業として当然の“結果(Result)”、そして事業を支える“人(People)”を加えた3つの要素のバランスを非常に重視しています。どれか一つが欠けても、その事業は成功とはいえません。この理念は、具体的な社会貢献活動にもつながっています。建材を扱う企業として、劣悪な住環境にいる人々を支援する国際的なNGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」の活動に参加。東日本大震災の際には、被災地に家を建てるプロジェクトに協力しました。また、能登半島地震では避難所や仮設住宅など復興に断熱材を提供する、平常時も弊社近隣のコミュニティーへの必要な物資寄付や教育イベントなど、事業を通じて社会に貢献することを大切な使命だと考えています。

全社一丸で未来へ挑戦する組織づくり

ーー今後のビジョンと、その実現に向けた組織づくりについてお聞かせください。

有友完:
これからも断熱材業界のリーダーであり続けること、そして売上やシェアを伸ばすだけでなく、お客様や未来の仲間から“デュポン・スタイロだから選びたい”と思っていただける会社を目指します。その実現のために、今、社内の“アライメント”を強く意識しています。これは、製造、営業、開発といった全部門の進むべき方向(ベクトル)をそろえることです。世代交代が進む中、これまで培った価値観を新しいメンバーに継承しつつ、彼らの新しい発想を活かして価値を創造していく。会社が一体となって同じ目標に向かうことが、変化の時代を勝ち抜く力になると信じています。

ーー貴社で活躍できる人物像と、働く魅力について教えてください。

有友完:
指示を待つのではなく、自ら課題を見つけて行動できる“プロアクティブ”な人に来ていただきたいと考えています。そして、仕事を自分ごととして捉える“オーナーシップ”を持ち、最後までやり遂げる。そうしたリーダーシップを全員が発揮してほしいと考えています。働く魅力は、挑戦できる機会の多さです。当社には、年齢や社歴に関係なく、良いアイデアは積極的に採用する文化があります。組織がコンパクトな分、一人ひとりの裁量も大きく、成長のチャンスが豊富にあると自負しています。良い意味でたくさんのチャレンジができる会社でありたいと考えています。

編集後記

断熱材という一つの技術を核に、住宅から社会インフラ、災害復旧まで、社会の多様なニーズに応えるデュポン・スタイロ。その姿は、有友社長が語る“アライメント”という言葉と重なる。全社のベクトルをそろえ、ステークホルダーと共鳴しながら、社会課題の解決という一つの目標に向かって突き進む。変化の時代において、同社がこれからどのような新しい価値を社会に実装していくのか、その挑戦から目が離せない。

有友完/1965年兵庫県生まれ。上智大学卒。1988年ダウ・ケミカル日本入社。1995年アジアパシフィックエリア水処理製品マーケディングマネジャー、1998年ダウ・オートモーティブ米国セールスディレクター、2004年ダウ・オートモーティブ アジアパシフィック統括部長、2015年ダウ化工 副社長営業本部長、2016年代表取締役社長、2019年組織再編で、デュポン・スタイロ 代表取締役社長。