※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

兵庫県丹波篠山に拠点を構え、ジャムやスプレッド類のOEMやPB商品の製造を手がける株式会社グリーンウッドファクトリー。親会社である加藤産業株式会社の「カンピー」ブランドをはじめ、数多くの製品を支える製造のプロフェッショナル集団である。同社は最新の衛生・品質管理体制を誇る新工場を強みに、食の安全とおいしさを追求し続ける。その舵取りを担うのが、代表取締役の石塚信典氏だ。大手乳業メーカー、大手生協でのバイヤーや生産事業部長など、多彩なキャリアを歩んできた同氏の仕事の哲学、そして新会社を率いるリーダーとしての未来像に迫る。

キャリアの原点 大手メーカーで叩き込まれた「仕事の基本」

ーー社会人としてのキャリアはどのようなお仕事からスタートされたのでしょうか。

石塚信典:
大学卒業後は、明治乳業株式会社(現:株式会社明治)に入社しました。一番の理由は、「健康」というテーマに魅力を感じたからです。食品は誰もがかかわるものであり、自分が手がけるものが誰かの健やかな生活に貢献できる点に惹かれました。配属されたのは酪農に関する部署で、具体的には、乳業メーカーの原料となる生乳を酪農家の方々から買い付けたり、飼料を販売したりする仕事でした。

ーー入社後、特に印象に残っている学びはありますか。

石塚信典:
今も私の仕事の基本となっているのは、「現状の把握」と「考えること」の2つです。事実を自分の目で見て、自分の耳で聞いて確認する。この姿勢が、後にバイヤーとして商品を実際に食べたり、工場へ足を運んだりする行動に直結しました。この仕事の基本は、東京本社へ移った際に当時の部長から徹底的に叩き込まれたものです。社会人としての基礎を築かせてもらったと深く感謝しています。

バイヤー経験で得た商売の要諦 神戸での転機

ーー転職のきっかけとその後の学びについて教えてください。

石塚信典:
もともと神戸に帰りたいという気持ちがあり、直接、生活協同組合コープこうべに連絡を取ったのがきっかけで転職しました。そこでは主にバイヤーとプライベートブランド(PB)商品の開発を担当しました。この経験を通じて、“スピード” “バランス” “タイミング”という商売の要諦を学びました。特にバイヤーの仕事では、売れると判断した商品をいち早く押さえるスピード、定番商品と販促商品の品揃えを考えるバランス、そして早すぎても遅すぎてもいけない商談のタイミングの重要性を深く学びました。また、生産事業ではどのような製品を作るかも大切ですが、どのように作られているかという、原価企画・原価管理の重要性にも気づきました。

新天地での挑戦 情熱渦巻く新工場立ち上げの舞台裏

ーー現職に就かれた経緯をお聞かせください。

石塚信典:
定年が近づく中で、もう一度新しいことに挑戦したいと考えていました。そんな時に登録していた転職サイト経由で「食品製造業の社長」というお話をいただいたのです。私の経歴と先方が求める人物像が合致したこともありますが、何より、もう一度食品製造業に携わりたいという自身の強い思いが決断を後押ししました。

ーー入社後は、どのような業務からスタートされたのでしょうか。

石塚信典:
入社当時、私は新会社と新工場をつくるというプロジェクトに参画しました。会社・工場の概要はほぼ固まっていましたが、親会社の社長からは、「今は夢が膨らんでいるが、本当にすべて必要なのか。製造業の視点と石塚さんの目で冷静に見てほしい」という指示を受けていました。新しい会社、新しい工場をつくるのだという参画者の”情熱”のすごさには驚かされ感謝するとともに、その熱意を尊重しつつ、やりたいことと、実際にやれること、そして限られた資源の中で何を優先すべきかを整理するのが私の最初の役割でした。

品質で選ばれるOEM製造 プロが明かすその事業の強みとは

ーー貴社の事業内容と、その強みについてお聞かせください。

石塚信典:
ジャムとスプレッド類の製造を専門としています。事業の基本はOEMで、加藤産業の「カンピー」ブランドや、スーパーマーケット、生協などのPB商品を受託して製造しています。私たちは現時点では営業部署を持たず、安定した品質の製品を生産することに集中できるのが特徴です。その高品質なものづくりを支えるのが新工場の強みであり、ハードとソフトの両面にあります。

ハード面における最大の強みは、徹底した衛生管理とフードディフェンス(食品防御)体制です。その象徴的な設備が「陽圧管理」システムです。これは、工場内の気圧を外部よりも常に高く保つことで、目に見えない塵や虫などが外から侵入することを物理的に防ぐ仕組みであり、極めてクリーンな製造環境を維持しています。加えて、生産ラインは一直線で見通しが良く、各所に設置されたカメラが24時間稼働するなど、あらゆるリスクを想定した最新の設備を整えています。

ソフト面では、農薬や化学肥料などに頼らず生産された原料を使用した有機食品の証である、有機JAS認証や食品安全の国際規格である「FSSC22000(食品安全システム認証)」を取得し、品質を担保する仕組みがグローバル基準に達していることが大きな強みです。

組織と製品の未来をどう描くか 社長が語る「改善」と「融和」への道

ーー現在、組織を運営する上での課題と、その解決に向けた取り組みを教えてください。

石塚信典:
製造部門、管理部門含め、社員のベクトルをいかに合わせていくかが一番の課題です。お互いの良いところに目を向け、組織としての一体感を醸成することが不可欠だと考えています。その解決策の一つとして、親会社と連携しながら中期計画で賃金体系も含めた人事制度を整えているところです。弊社独自の資格取得制度や表彰制度なども設け、誰もが働きがいを感じられる環境をつくっていきたいです。

ーー今後の商品展開については、どのような方針をお持ちでしょうか。

石塚信典:
ゼロから新商品を開発するよりも、今ある定番商品の味や食感といった部分を少しずつでも良くしていく“改善”に力を注ぎたいです。見た目の変更よりも中身の品質を高める。その商品のコンセプトに合った本質的な改善を追求し、オーナー企業様に提案していくことが私たちの使命だと考えています。

ーー社長に就任されてから3年目を迎えられましたが、今後の目標についてお聞かせください。

石塚信典:
まずは、就任3年目での営業利益黒字化です。これは必達目標として掲げています。そのために、生産現場における「3M(ムリ・ムダ・ムラ)」を徹底的になくしていく必要があります。そして、この会社、この工場で働いて良かったと社員一人ひとりに心から思ってもらえるような会社にすることが私の願いです。

将来的には、丹波篠山の特産品を使ったオリジナル商品を開発し、地域と共に発展していく企業を目指したいと考えています。その一環として、工場に併設したアンテナショップでは、一般スーパーでは品ぞろえが少ない商品を販売しています。また、近隣の農園で採れたイチゴをたっぷり使用したジャム作り体験も実施しており、ジャムという製品をより身近に感じていただけるような取り組みも始めています。地元の小学生が工場見学に訪れ、「スーパーで見るジャムがここで作られているんだ」と驚き、手紙をくれることもあるのですが、そうした地域との繋がりは、私たちにとって大きな喜びであり、励みになっています。

編集後記

大手メーカー、生協、子会社社長という多彩なキャリアを通じて、石塚氏が一貫して持ち続けてきたのは“現状把握”と“原価意識”という、極めて実践的な仕事の哲学だ。その冷静な視点の一方で、新工場立ち上げに注がれた”情熱”を尊重し、異なる背景を持つ社員同士の“融和”を語る言葉には、組織を率いるリーダーとしての温かさがうかがえる。着実な“改善”を積み重ねる同社の挑戦に、今後も注目したい。

石塚信典/1963年鹿児島県出身、神戸大学農学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了(MBA)、明治乳業株式会社 福岡工場・本社で酪農部に配属。1991年生活協同組合コープこうべに転職し、デイリー商品バイヤー・PB商品開発、PB製品の生産事業部長、同生協関連会社社長を経験。2023年加藤産業㈱に転職。新会社・新工場プロジェクトに参画し同年10月から現職。