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コロナ禍を経て、リアルとオンラインが融合した新たな交流の価値が再発見されている。そんな時代の潮流の中、イベント・コミュニティプラットフォームとして圧倒的な存在感を放つのがPeatix Japan株式会社だ。2011年のサービス開始以来、年間560万人以上のアクティブユーザーが利用する巨大プラットフォームへと成長。近年は企業向けの集客支援や新規事業にも注力し、その領域を拡大し続けている。同社が描く「出会いと体験」の未来図について、代表取締役の藤田祐司氏にうかがった。

世界を代表する稀代の起業家ジェフ・ベゾスから学んだベンチャー魂の原点

ーー藤田氏のこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。

藤田祐司:
社会人としての第一歩は、株式会社インテリジェンス(現在のパーソルキャリア株式会社)という人材紹介会社でした。新卒で入社し、転職を希望される方と企業とをつなぐ営業を担当しました。当時はまだ社員200名ほどのベンチャーでしたが、その後数年で数千人規模へと急成長することになる、その萌芽を感じさせる活気がありました。

その後、アマゾンジャパン株式会社(現 合同会社)へ転職します。学生時代から起業への思いが強かった私にとって、稀代の起業家ジェフ・ベゾスがつくった会社を内側から見てみたいという気持ちが大きかったのです。ここでは新規事業であるマーケットプレイスの立ち上げに営業担当として携わりました。

やがて会社が安定期に入ったと感じ始めた頃、同僚4名と「何か新しいことを仕掛けよう」と意気投合し、2007年にOrinoco株式会社の名で会社登記を行いました。しかし、私を含めた創業メンバー4名が事業に専念したのは、2009年からでした。

失敗の先に生まれた唯一無二の強み「人×イベント」をつなぐマッチングの力

ーーOrinoco株式会社ではどのような事業を展開していたのでしょうか。

藤田祐司:
私たちの根底には、創業当初から変わらず「何かをつくり出すクリエイターの方たちを支えたい」という強い思いがあり、「個のエンパワメント」をミッションに掲げていました。しかし、その思いを形にするまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。ピーティックス(Peatix)を立ち上げるまでの約2年間で、実に3つもの事業に挑戦しては失敗するという、苦しい時期を経験しています。

転機が訪れたのは2010年の秋です。他社様のマーケティング支援事業が軌道に乗り、会社が初めて黒字化したタイミングでした。もちろん、その事業をそのまま続ける選択肢もありました。ですが私たちは、「自分たちが本当に信じる価値を世の中に届けるには、やはり自分たちのサービスで勝負したい」と強く感じ、黒字化まで育てた事業を継続せずに、すべてを注ぎ込む覚悟でピーティックスの開発を決意したのです。

ーーピーティックスはどのようなサービスになりますか?

藤田祐司:
『ピーティックス』は、有志の集まりから大型フェスまで、あらゆるイベントやコミュニティ活動をサポートする「イベント・コミュニティプラットフォーム」です。イベントページを簡単に作成し即時公開できるシステムを持ち、無料イベントの集客支援から、有料イベントのチケット販売まで対応しています。その根幹にあるのは「出会いと体験を広げる」というコンセプトです。

『ピーティックス』の大きな強みはスポーツ、ビジネス、音楽など24もの多彩なジャンルを網羅している点です。さまざまな興味・関心を持って集まってくるアクティブユーザーは年間560万人以上にのぼります。蓄積されたアクティブユーザーのデータベースを活用し、ユーザーの興味・関心に合わせたイベントをレコメンドします。このマッチング機能がとても強力です。現在、参加者の37%が『ピーティックス』経由で集客されていることから、『ピーティックス』のイベント集客力はますます注目を集めています。

その結果、ワークショップや体験型イベントのほか、ビジネス系イベントや国際的なアートフェスティバルや、大量の泡にまみれて踊る体験型イベントの「泡パ」のようなユニークなイベントなど、かなり多種多様なイベントが集まってくる傾向があります。

ーー社名変更は、いつ頃されましたか?

藤田祐司:
2010年に『ピーティックス』の開発を始め、2011年にOrinocoPeatix株式会社に社名を変更。そして2017年に、現在の「Peatix Japan株式会社」になりました。紆余曲折はありましたが、「イベント主催者やコミュニティ運営者を全力でサポートする」という創業からのビジョンは、今この瞬間も全く揺らいでいません。

国内から世界へ、そして仮想空間へ ピーティックスの次なる挑戦

ーー貴社の今後の展望をお聞かせください。

藤田祐司:
我々の集客力に注目いただき、近年は企業によるビジネスイベントでの利用が急増しています。そこで、集客オプションを広告事業として体系化し、企業のビジネス成長を直接支援する取り組みを強化しています。さらに、アンケート配信サービス『Peatix インサイト』やテストマーケティングサービス『Peatixマルシェ』といった新規事業も始動させ、イベントという枠を超えて、企業のマーケティング活動を多角的にサポートする体制を整えています。

中長期的には、この巨大なユーザーデータベースをさらに活用し、新たな価値を提供していきます。まずはグローバル展開の強化です。特に、日本のサブカルチャーに熱い視線を送るファンが増えているアメリカ市場は最重要ターゲット。我々の強みである「日本の面白いコミュニティとのつながり」を活かし、現地のファンに直接届けたいと考えています。

また、インバウンド需要も見逃せません。単なる観光ではない「体験」を求める訪日外国人に対し、日本のユニークなイベント情報を提供する仕組みを構築中です。さらに、いずれ本格的な交流の場となるであろうメタバースなどの仮想空間についても研究を進めています。技術的な条件さえ整えば、そこは間違いなく人々が集う巨大なコミュニティになるはずです。

質の良い失敗こそが成長の糧となる

ーーご自身の経験を踏まえ、これからの時代を担う若者たちへメッセージをお願いいたします。

藤田祐司:
私たちは、本当に数多くの失敗を積み重ねてきました。失敗は当然落ち込みますし、辛い。しかし、創業期に致命傷にならない程度の「いい失敗」をたくさん経験できたからこそ、今の『ピーティックス』がある。事業も人生も、「あの失敗があったから今がある」と幸運に思えるくらいの気概で、何にでも挑戦することが大切です。

日本では失敗にネガティブなイメージがつきまといますが、逆です。失敗の数が多いほど、その人の成功確率は上がっていく。臆せず挑戦し、そこから学び続けることで、気づけば全く違う景色が見えてくるはずです。若い時に限らず、何歳になっても、質の良い失敗を積み重ねることこそが、成長に不可欠なのだと私は信じています。

編集後記

「出会いと体験を広げる」というコンセプトは、今やイベントという枠組みを大きく超えようとしている。個人の主催者から企業のマーケティングへ。国内のユーザーから、日本の文化を愛する海外のファンへ。そして、現実空間から仮想空間へ。その無限の広がりの原動力となっているのが、藤田氏の「失敗を恐れない」という強烈なリーダーシップであることは間違いない。ピーティックスがこれから世界中にどのような「出会い」と「体験」をつくり出していくのか、その挑戦から目が離せない。

藤田祐司/株式会社インテリジェンス(現在のパーソルキャリア株式会社)で営業を担当後、2003年アマゾンジャパン合同会社に入社。マーケットプレイス事業の営業統括を経て、ピーティックスの前身となるOrinoco株式会社を創業。2019年6月、CMOに就任し、コミュニティマネジメント・マーケティングを統括。2025年5月、Peatix Japan株式会社、代表取締役に就任、Peatix Inc. CMOを兼務。著書に『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』(ダイヤモンド社※共著)。