
テレビ番組制作を主軸に、ドラマや映画、CMまで手掛ける株式会社UNITED PRODUCTIONS。同社は戦略的なM&Aを重ね、わずか5年で売上規模を約7倍に拡大させるなど、業界屈指の成長を誇る。その変革を率いるのが、代表取締役社長の森田篤氏だ。大手商社から映像業界へ転身し、「行列のできる法律相談所」「しくじり先生 俺みたいになるな!!」などの人気番組を制作。同氏は今、テレビ局の下請けという従来の構造を覆そうとチャレンジしている。そして、自社でIP(知的財産)を保有する「日本一のコンテンツサプライヤー」になるという目標を掲げる。その道のりと未来への展望に迫った。
原点はバラエティへの憧れ 商社から映像業界への転身
ーーこれまでのご経歴について、お聞かせいただけますか。
森田篤:
幼少期はアメリカで過ごしました。当時、通っていた学校に日本人は自分一人だけ。そんな環境だったので、日本のバラエティ番組を夢中で見ていました。日本のコンテンツが心の支えとなり、救われたと感じた経験が、この道へ進むきっかけです。この経験からテレビ業界、特にバラエティ番組制作への強い憧れを抱きました。ただ、就職活動ではテレビ局にご縁がなく、海外経験を活かせる総合商社の丸紅へ入社しました。
ーー大手商社からキャリアチェンジを決意されたのはなぜですか。
森田篤:
丸紅に入社した年にアメリカ同時多発テロ事件が起きました。この未曽有の出来事は私の人生観を大きく変え、「本当にやりたいことを追求しよう」と強く思うきっかけとなりました。そこで、入社した年の年末に丸紅を退職し、念願だったバラエティ制作ができる番組制作会社への転職を決意。日本テレビの「ぐるぐるナインティナイン」(以下、ぐるナイ)アシスタントディレクターからキャリアをスタートさせ、3年でディレクターになることができました。
独立 挫折 そして再起 仲間と歩んだ創業期
ーー順調にキャリアを積まれる中、なぜ独立の道を選ばれたのですか。
森田篤:
ディレクターとして働く中で、「自分たちの手で、世界でヒットする面白いコンテンツを作りたい」という新たな目標が芽生えました。当時、アメリカの動画共有サービス「REVVER」(※)がYouTubeに先駆けてクリエイターへの収益還元機能を実装したことを知り、「これだ!」と直感。自分たちで創るコンテンツを世界でヒットさせて稼ぐ。その思いに突き動かされ、仲間4人と独立しました。
独立は、まさに向こう見ずなチャレンジでした。結果は全く稼げず、わずか3ヶ月で貯金は底をつきました。YouTubeが収益還元プログラムを始めたのが翌年ですから、少し時期が早すぎたのかもしれません。
この大きな挫折を経て、私たちは再びテレビ番組制作の道に戻ることを決意し、この4人で「フーリンラージ合同会社」を設立しました。ある意味、一度挫折を味わった負け組4人の再出発が、私たちの起業の原点です。
(※)REVVER:アメリカのユーザー生成コンテンツを共有するウェブサイトで、ユーザーが投稿した動画に広告を付け、その広告収入の一部をクリエイターに分配するビジネスモデルが特徴。2011年に閉鎖。
飛躍の転機と事業の柱 統合が生んだ圧倒的な組織力

ーー会社のターニングポイントとなった出来事は何でしたか。
森田篤:
一つは、担当していた番組「しくじり先生」が2015年に深夜帯からゴールデンタイムへ昇格したことです。これにより組織を拡大する必要に迫られ、会社として大きく成長するきっかけとなりました。もう一つは、2019年にKeyHolderグループの傘下に入ったことです。エンターテイメント事業への転換を進めていたKeyHolderと、映像コンテンツを軸に成長したい私たちの方向性が合致し、傘下に入ることを決めました。これにより、豊富な資金力を得て、事業の幅を広げることができました。
ーーグループ参画後の事業内容や強みについて教えてください。
森田篤:
弊社はグループ内で映像コンテンツセグメントの軸を担っています。現在の主要な収益源としては、「千鳥の鬼レンチャン」「THE神業チャレンジ」などバラエティ番組制作が挙げられます。また、M&Aを重ねることで組織力とコンテンツ制作力を飛躍的に高めてきました。私が創業した会社を含めこれまでに4社を統合し、他に類を見ない規模の拡大を実現しています。この成長の結果、現在はバラエティ、ドラマ、映画、MV、SNSコンテンツ、CM、縦型ショートドラマ制作やテレビ番組への人材提供に加え、映画配給にも着手するなど、事業の幅は大きく広がりました。
ーー社名を「フーリンラージ」から「UNITED PRODUCTIONS」に変更された背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
森田篤:
グループイン後、立て続けにM&Aなどを重ねて、同業の映像プロダクションなど3社を吸収合併しました。その結果、社員数はフーリンラージ時代の50名から一気に3倍に。フーリンラージ社由来ではない社員が半数以上を占める中、旧社名へのプライドやこだわりを捨てるべきだと考えました。そして新しい社名には、出身社に関係なく社員一丸となってグローバルな戦いに挑むという決意を込めて「UNITED PRODUCTIONS」としました。
振り返れば、この社名変更はバラバラだった組織を一つに束ね、壮大な目標に向かって再出発するための決意表明だったのかなと。我ながら、いい名前を付けたと思います。ただ、現実的には社名の変更だけでは一枚岩になることは困難なので、社員とのランチ会を行うなど、社員との丁寧なコミュニケーションを心がけました。
2030年、日本一のコンテンツサプライヤーへ 道なき道を行く成長戦略
ーー貴社のミッションについて、詳しくお聞かせください。
森田篤:
弊社のミッションは、「日本一の『コンテンツサプライヤー』になる」です。あらゆるジャンルのコンテンツを、あらゆるメディアに供給する存在になる、ということを示しています。従来のテレビ局を頂点とする下請け構造から脱却し、企画からファイナンス、制作、IP保有、そして国内外へのディストリビューションまでを自社で担います。この目標達成のため、現在はグローバル展開とIP開発を成長戦略の柱に据えています。特にホラーコンテンツは、言語の壁を越えやすく、グローバルで通用するIPを構築できる可能性が高いと考え、グループ会社の株式会社・闇と共に開発を進めています。
ーーミッション実現に向けて、特に重要だとお考えの要素は何でしょうか。
森田篤:
コンテンツを生み出すクリエイターの存在こそが最も重要です。そこで弊社は、業界初の総合的キャリア支援エージェンシー「UPCA(UNITED PRODUCTIONS CREATORS AGENCY)」を立ち上げました。才能を最大限に発揮できるようキャリア支援はもちろん健康診断の無料受診、ワーケーションサービス、シェアオフィス「H1T」の利用など、クリエイターの活動をサポートします。クリエイティブに専念できる環境を整えることで、日本のエンタメ業界の人手不足問題の解決と活性化、さらに世界における日本のクリエイターとコンテンツのプレゼンスの向上に貢献したいと考えています。
ーー挑戦を続ける上で、大切にされている考え方はありますか。
森田篤:
松下幸之助の「道がなければ、自分でつくればいい」という言葉が、私の精神的な支柱です。弊社は2030年に向けて、「誰も到達したことのない領域への挑戦」を目標にしています。おそらく、そこに道はないでしょう。ならば、私たち自身がその道を切り拓いて進むしかありません。この「道なき道を切り拓く」精神で、新たな未来を創造していきます。
編集後記
幼少期の憧れから始まった映像業界でのキャリア。独立、挫折、仲間との再起を経て、今や業界の常識を覆すゲームチェンジャーとして走り続ける森田氏。その言葉の端々からは、苦労さえも楽しさに変えてきた揺るぎない情熱と、仲間への信頼がうかがえる。「道がなければ、自分で作る」。その言葉通り、同社が切り拓く日本のコンテンツ産業の新たな道は、世界へと繋がっている。

森田篤/1978年、埼玉県生まれ。幼少期を米国で過ごし、早稲田大学法学部を卒業後、2001年に丸紅入社。同年12月に退社し、2002年に番組制作会社に転職。「ぐるぐるナインティナイン」「行列のできる法律相談所」などの制作に携わり、2008年に映像制作プロダクション、フーリンラージ合同会社(以下、フーリンラージ)を設立。「しくじり先生 俺みたいになるな!!」「櫻井・有吉THE夜会」「マツコの知らない世界」などのバラエティ番組制作を手掛けるプロダクション事業を展開する。2019年にKeyHolderグループにフーリンラージの全株式を売却し参画。先行して傘下にあった制作会社を吸収合併して株式会社UNITED PRODUCTIONSに商号変更。現在は同社代表取締役社長のほか、親会社である株式会社KeyHolderの取締役副社長も務める。