
システム構築から導入支援、運用保守までを一貫して手掛けるIT企業、株式会社クエスト。同社は、顧客に深く寄り添い伴走する「おもてなし」の精神を強みとする。中堅SIer(※1)でありながら、実に9割が顧客から直接発注を受ける「一次請け」であり、顧客との強固な信頼関係がうかがえる。2025年に創業60周年を迎えたクエストは、2030年に向けた成長戦略であるQuest Vision2030の達成をめざし、今まさに次なる成長フェーズへと舵を切った。代表取締役の鎌田智氏と、副社長の鈴木裕二氏に、独自の強みと未来への展望を聞いた。
(※1)SIer:「System Integrator(システムインテグレーター)」の略で、企業や組織の抱える業務課題に対し、システムを企画・設計・開発・導入・運用・保守まで一貫して提供するIT企業や事業体を指す。
顧客からの信頼が育んだ9割という一次請けの実績
ーー貴社の事業内容と、他社との差別化ポイントについてお聞かせください。
鎌田智:
弊社は、システムの構築から導入支援、そして稼働後の運用保守までをワンストップで展開しています。ITシステムの基盤となるインフラと、その上で動くアプリケーションの両方を手掛け、お客様を全方位で支援できるのが特徴です。何よりも、お客様の情報システム部門の一員であるかのように深く寄り添いながら、「おもてなし」の意識を大切にしています。この姿勢が実を結び、顧客から直接発注を受ける一次請け率が9割に達しているのです。
ーー一次請け率が高い理由をどうお考えですか。
鎌田智:
社員一人ひとりが誠実な探究心を持ってお客様に寄り添う姿勢で臨んでいることに尽きます。真面目で実直な仕事ぶりが、お客様にとって「なくてはならない存在」という評価につながり、長年にわたる信頼関係の礎となっているからです。
鈴木裕二:
弊社のルーツが、50年以上前の技術者派遣事業にあることが大きいと考えています。お客様先で仕事をする文化は当時からありました。そのため、単なる外部委託先という立場にとどまらず、弊社にはお客様の会社の一員として愛情を持って仕事に取り組む文化が根付いています。
この精神は、採用時から人間力やサービスマインドを重視することで受け継がれてきました。現場のOJT(※2)を通じて社員一人ひとりがプロとしてお客様の課題に向き合い、価値を提供する姿勢を育んでいます。こうした姿勢と長年の経験の蓄積こそが、お客様からの信頼につながっているのでしょう。
(※2)OJT:「On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」の略で、職場の上司や先輩が部下・後輩に実務を通して知識や技術を指導する人材育成方法。
創業以来の精神を受け継ぐ、次代へ向けた新たな決意

ーー2020年に理念を刷新されたのは、どのような経緯があったのでしょうか。
鈴木裕二:
2019年に売上が100億円を突破し、次の10年を見据えた成長戦略「Quest Vision2030」を策定したのがきっかけです。若手の事業部長なども交えて議論を重ね、「時代をリードする先端技術を探求し、お客様の課題に共に取り組む」という姿勢を明確にしました。そして「お客様と共に」という創業以来の思いを、「お客様と一体となって課題解決に取り組む、信頼関係が強い『伴走型』のパートナーであり続ける」という決意を込め、理念を刷新したのです。
ーーその理念には、どのような思いが込められていますか。
鈴木裕二:
クエストの60年の中で育まれたのは、お客様の心に寄り添う真摯なサービス姿勢とすべての関係者に対する誠実な探究心、そして「ありがとうを育むサービスマインド(DNA)」でした。Quest Vision2030の策定のプロセスでは、従業員にアンケートを取るなどして、社員が目指す会社の姿と経営陣が考える今後の成長を融合させることを目指しました。
また、60周年の節目にも「ARIGATOU ITの未来は『ありがとう』の中にある。」というスローガンを掲げました。私たちにとって、お客様からの「ありがとう」という言葉は、社員が感じる何よりのやりがいであり、事業を推進する上での最大のエネルギー源です。
この言葉には未来への思いも込められています。これからDXがさらに浸透すれば、単に新しい技術を導入するだけでは差別化が難しくなるでしょう。そのときに重要になるのが、人との接点やつながりで生まれる「おもてなし」の心です。技術の先にある温かみを大切にし、これからも「ありがとう」と言われる会社であり続けたいと考えています。

売上200億円達成へ向けた成長戦略と未来像
ーー今後の事業展開や、目標について教えてください。
鎌田智:
2030年に売上200億円、企業価値250億円を達成するという明確な目標を立てました。その実現のため、まずは弊社の最大の強みである「運用保守」で顧客との信頼関係を強固なものにし、さらにその企業への深い理解を活かし、ビッグデータやAI、自動化といった最新テクノロジーも活用した「ソリューションビジネス」を拡大させる計画です。
「ソリューションビジネス」は、顧客のビジネスそのものをアップグレードするもので、顧客の課題解決に主体的に関わっていくということでもあります。将来的にはこの事業の割合を全体の30%まで高めていきます。
ーー事業拡大に向けて、採用や人材育成ではどのようなことに注力しますか。
鎌田智:
採用活動を抜本的に見直しています。たとえばキャリア採用では、応募から内定までの期間を短縮する改善に着手しました。
また、ビジネス経験やサービスマインドのある方をポテンシャル採用し、自社で教育していく取り組みも始めています。育成面ではタレントマネジメントシステム(※3)を本格導入し、一人ひとりのキャリアに合わせたプログラムの開発を進めています。
(※3)タレントマネジメントシステム:社員一人ひとりの能力や経験をデータで管理し、最適な育成や配置に活かす仕組み。
社員一人ひとりのやりがいや生きがいを実現する組織づくり

ーーお二人が感じる、貴社ならではの良さや魅力は何でしょうか。
鎌田智:
真面目で優しい社員が多く、非常に温かい社風が根付いている点です。私自身、5年ほど前に入社しましたが、外部から来た人間もすぐに馴染める雰囲気がありました。役職名で呼ばず「さん付け」で話す文化も、風通しの良さにつながっていると思います。仕事の面では、お客様の事業に直接関われる点も大きな魅力です。顧客先のIT部門のような立ち位置で働けるため、大きなやりがいを感じられるはずです。
鈴木裕二:
私も、誠実で真面目な社員が多いのがまず一点だと感じます。それに加え、弊社は現場を非常に大切にする文化があります。現場の担当者レベルはもちろん、経営層まで各階層でお客様と強固な信頼関係を築けている点も大きな魅力です。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか。
鎌田智:
私の目標は、社内で「Quest2.0more」と呼ぶ「クエストの次の形」を実現することです。会社が次のステージへと大きくなったときに、私たちがどのような組織であるべきか。その仮説を形にし、全社員に考え方を浸透させたいと考えています。そして、全員で同じ未来へ向かって進む、そんな組織をつくりたいです。
鈴木裕二:
弊社は次のステージに向けた変革の真っ只中にいます。この変化を前向きに楽しみ、自ら考えて行動できるマインドを持った方とぜひ一緒に働きたいです。私たちの目標は、社員一人ひとりがやりがいや生きがいを感じられる会社をつくり、それを次世代に引き継いでいくこと。「好きなこと」「得意なこと」「稼げること」「社会の役に立つこと」、この4つの中心に生きがいがあると言われます。これをビジネスで実現したいと考えています。明確な目標に向かい、共に成長できる方との出会いを楽しみにしています。
編集後記
創業60年で築いた顧客との深い信頼関係を軸に、「Quest Vision2030」へ挑む。安定と挑戦が両立する同社の姿からは、変革への強い意志が見えた。技術の進化が加速する時代だからこそ、「ありがとう」を原動力にするおもてなしの精神が、未来を拓く最大の武器となる。この変革期は、自らのキャリアを主体的に築きたいと願う人材にとって、絶好の活躍の舞台となるだろう。

鎌田智/宮城県出身。東北学院大学工学部卒業後、1989年にソニーシステムデザイン(現・ソニーグローバルソリューションズ)に入社。事業部門や情報システム部門に従事し、半導体・製造分野を中心に豊富なITソリューション経験と高度な専門性を有する。2020年、株式会社クエスト入社後、執行役員、上席執行役員を経て、2025年に同社代表取締役 社長執行役員に就任。自社の中長期的ビジョンと成長戦略「Quest Vision2030」を描き、事業変革を牽引する。
鈴木裕二/神奈川県出身。相模工業大学工学部卒業。2004年、株式会社クエスト入社以来、情報システムのインフラ構築やソリューションサービスに従事し事業拡大を牽引。専門技術と知識を活かした事業開発、おもてなし規格認証の取得など顧客との信頼構築、技術者育成に精通。2014年に執行役員、2021年上席執行役員、2025年6月より取締役副社長執行役員として事業変革と企業文化改革を推進。