
株式会社NTTデータ バリュー・エンジニアは、データの整備・維持から活用までを担い、顧客業務に直結する成果を上げてきた。代表取締役社長の大西浩史氏は、NTTデータ時代の購買部門での体験から、2001年に社内ベンチャーを創業。一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)を設立したほか、資格制度の創設に働きかけるなど、業界全体を牽引する存在だ。データマネジメントで第一線を走り続ける同氏に、これまでのキャリアや今後の展望についてうかがった。
購買業務での原体験から生まれたデータマネジメント事業
ーーこれまでのご経歴について教えてください。
大西浩史:
1994年にNTTデータへ入社後、私は購買部門に配属されソフトウェアなどのサプライヤーとの調達交渉を担当しました。そこで痛感したのは、根拠のない価格交渉の非効率さです。データを裏付けにした交渉の重要性を強く意識するようになりました。
しかし、実際に確認できるデータは「一式」としか記載がないなど、数量や割引率を判断することができませんでした。さらに、メーカー名や型番が統一されていない、製品を識別するキー情報が欠落しているなど、データを比較することができませんでした。適切なデータがそろっておらず、実態を把握することが困難だったのです。
そこで、過去の調達データを整理し直し、価格差の根拠を明確化したところ、取引先との交渉が驚くほどスムーズに進みました。この経験から、確かなデータが成果を生むことを確信しました。以降、「誰もがデータを活用できる仕組みを提供したい」と考え、1997年に社内ベンチャー制度を活用してデータマネジメント事業を立ち上げ、2001年には正式に法人化し現在に至ります。
データの評価から整備まで一貫した支援で価値を創出

ーー貴社の主要事業と、その特徴についてお聞かせください。
大西浩史:
弊社は、データマネジメントを専門としたコンサルティングおよびデータ構築・運用を主軸とした事業を展開しています。データ戦略の策定からデータ統合、品質改善、そして運用・活用の定着化まで、一貫して支援できる点が特徴です。
日々の業務で生成されるデータは、分析に適した形で入力されていないことがあります。そこで、お客様が保有するデータの品質を評価し、その健康状態を診断します。データの欠損や誤入力、重複により実績が正しく反映されていない、表記や単位が不統一であるなど、現状の問題を洗い出します。こうして問題を明確にすることによって、必要となる品質改善計画を策定し、健全なデータ基盤を整備します。
通常、システム開発を請け負う会社ではシステムに影響する範囲に限定してデータを確認します。しかし弊社では、多くのデータを確認し評価していますので、システムを横断してデータの精度を高めます。これにより、企業の資産であるデータを有効に次のビジネスに活かすことができるのです。データ整備は一度で完結するものではなく、ビジネスや業務プロセスの変化や組織の拡大に応じて新たな課題が生じるものですので、弊社は個々のお客様に寄り添い、ともに歩む長期的な支援も行っています。
ーー事業を進めるうえで大切にしていることを教えてください。
大西浩史:
弊社は「データで創る一歩先の未来」という理念を掲げています。データの価値を高め、10年、20年先の遠い将来ばかりを語るのではなく、現場の意思決定に直結する「次の一歩」を、データを活用することで正しく、より的確に実行できるようにすることを大切にしています。
データマネジメントの役割は、単に日々の業務を回すことだけではありません。AI活用を見据え、データを正確で持続可能な形に整備します。そして業務改革につながる「価値あるデータ」を提供することが、私たちの使命だと考えています。
資格制度創設で専門職の確立を目指す
ーー貴社で求める人材について教えてください。
大西浩史:
データマネジメントにおいては、技術やツールだけでなく「人の力」が大切です。変化の早い業界に対応するため、新しい知識を吸収し続ける姿勢を重視しています。答えが決まっていない課題に取り組むことも多いため、失敗を恐れず挑戦する姿勢も欠かせません。加えて、地道なデータ品質改善の積み重ねが企業の競争力を支える武器と捉えられる価値観を持った人こそ、AI時代に真価を発揮することができます。弊社はそのような人材の成長を後押ししたいと考えています。
ーー今後の展望や戦略についてお聞かせください。
大西浩史:
今後は、これまでの強みであるデータの整備・維持管理に加え、AIとの連携を視野に入れています。生成AIでは大量のデータを参照・学習することで価値を発揮します。しかし、不正確なデータでは誤った結果を導くリスクとなります。たとえば、顧客接点であるコールセンター業務でAIが誤った情報を返答してしまったら、企業の信用を失いかねません。弊社は、AIが確実に機能するためのデータ品質改善を推進し、安心してAI活用ができる環境を提供します。
また、国内企業のデータマネジメント推進を通じて、グローバルでも競争力のある存在になることを目指しています。
こうした考えを業界全体に広げるため、2011年に一般社団法人 日本データマネジメント・コンソーシアムを設立しました。私は発起人として理事・事務局長を務めています。現在では会員数350社を超える団体に成長しました。
経済産業省や独立行政法人情報処理推進機構とも連携し、データマネジメントを国家試験として制度化する取り組みも進行中です。データマネジメントを専門職として確立し、人材基盤を整えることは、業界全体の発展に不可欠な取り組みだと考えています。
編集後記
購買部門での現場経験から出発し、20年以上にわたりデータマネジメントに取り組んできた大西氏。「データで創る一歩先の未来」という理念は、日々の課題解決を積み重ねる中で得た知見に裏打ちされている。また、同氏は業界団体や資格制度の創設に携わり、データマネジメントを専門職として確立することを目指している。この活動は、日本企業の競争力を支える重要な基盤づくりに直結するものだ。信頼できるデータを扱える人材を増やすことは、AI時代の持続的な成長の鍵となるだろう。

大西浩史/1994年、NTTデータ通信株式会社(現・株式会社NTTデータ)に入社。2001年に社内ベンチャーを母体としてデータマネジメント専門会社・株式会社リアライズ(現・株式会社NTTデータ バリュー・エンジニア)を設立、代表取締役社長に就任。以降、幅広い業界でのデータ活用支援に従事。戦略コンサルティングから運用まで一貫支援する独自の事業領域を展開している。2011年には一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアムを発起人として設立し、理事兼事務局長を務める。一般社団法人データマネジメント協会日本支部、監事も歴任。